せっかく婚約破棄されたので一度昇天しました

中編

「エリザベス！よく帰ってきたな！心配したんだぞ」

天井世界では、お父様が私の帰りを首を長くして待っていました。

「本日、エバンス様から婚約破棄されました。お父様、ご存知でしたか？」

「……もちろんだとも。全て見ていたよ。それにしても……本当にけしからんな！人間というのは！」

「お父様だって、かつては人間だったのでしょう？」

「ああ、でもそれはずいぶんと昔の話だからな。昔も結構酷かった……。それはそうと、決心はついたかな？」

「……正直に申し上げて、私にはよく分かりません。人間世界は根底から腐っているとお父様はおっしゃいますが、それは本当なのでしょうか？」

「身をもって体験しただろう？それとも、これが正常だと言いたいのか？」

「いいえ、そんなことはありません。しかし……いくらお父様が神様だとしても、勝手に人間世界を滅ぼしてしまうのはいかがなものかと……」

「いいかね、エリザベス。その躊躇いを優しさと捉えられるのは、私だけなんだよ。悪しき風習が永遠に続く人間世界を考えてみたことがあるかね？一生救われずに、路頭に迷う人間が続出するわけじゃないか。だから、この際全てをリセットする必要があるわけだ。そして……全てがゼロから始まる。人間世界を新しく蘇らせるのは、他ならぬ君の仕事だよ」

お父様が力を発揮すると、人間世界を崩壊させることができました。でも、私はそこまで望んでいませんでした。確かに、エバンス様のように不正義な貴族が一定数いることは事実です。しかしながら、正義に生きる人間も多くいるわけでして、分け隔てなく全て破壊するのは、乱暴すぎると思いました。私が中々首を縦に振らないので、お父様はとうとう諦めたようでした。

「分かった。特別にお前の願いを聞き入れよう。一部の悪人を抹殺……表舞台から抹殺すればいいな？」

私はこの提案に賛成しました。

「よし！今から人間世界を改造するぞ！それが終わったら、エリザベスはもう一度人間世界へ戻るんだ！！！」

お父様が気合を入れ始めました。とりあえず、私を弄んだエバンス様達には神罰が下ります……。それを天界から見届けた後に、人間世界へ戻ります。エリーゼという令嬢として。