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新たな日常編
03_異変②
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朝起きてから、身体に違和感を感じてばかりだ。僕だけが取り残されて、日常の延長線上から、外れてしまったような孤独感を感じた。
今日は平日。学校が通常通りあり、授業を受けにいかなければならない。自分の体に起こる変化に戸惑い、学校を休むかどうか迷ったが、嘔吐してから、かなり体調が良くなったので、僕は、いつも通り、学校へと向かうことにした。
早朝、蒼穹の下、燦然と輝く太陽の光が差し込む。ふと、通学路から学校のグラウンドを見ると、朝早くからクリケットの部活動が行われていた。クリケットは、イギリスでは人気のあるスポーツで、日本で言う野球のようなものだ。日本ではそれほど認知度は高くないが、世界的にはサッカーについで、人気のあるスポーツらしい。
クリケットの練習風景は、最初、イギリスに来た時は、新鮮に感じられたが、今では、日常の風景になっていた。
僕は、あまり、スポーツが、得意な方ではなかったから、スポーツの部活に、入っていなかった。スポーツ選手に憧れが少しあったので、もっと自分に高い身体能力があれば、入っていたに違いない。誰かと一緒に切磋琢磨をして、大きな目標に向かって邁進するような体験や経験はしてみたかった。
そんなことを考えながら、グラウンドの近くの通学路を歩いていると、赤色のクリケットのボールが周囲の網を越えて、こちらに勢いよく飛んできた。
クリケットのボールは、とても硬い。ボールの軌道から見て、このままだと僕の頭に当たってしまうと直感的に理解できた。
普段なら、絶対に、ボールを認識することさえできずに、頭を直撃し、大怪我をしてしまうところだろう。大怪我で済めばいいが、あたり所が悪いと、命を落とす可能性もある危険な状況だ。
生と死の分岐点で、奇跡的に内に秘めた身体能力が呼び覚まされたのか、普段なら目でとらえることも難しいボールを事前に認識し、瞬間的にそのボールを片手で掴んでいた。
いつの間にか、ボールを掴んでいる......。
僕は、意識的に掴んだというよりは、無意識的に危険を察知し掴んでいたという感じだ。飛んできたボールを掴んでいることは、片手の中に赤色のボールがあるのを見て気づいた。明らかに、おかしい。昨日とは比べものにならないくらい身体能力が向上しているのではないだろうか。
僕は、本当に身体能力が上がっているか、試したくなった。グランドの中に赤いボールがいくつも入った箱が見えた。その箱に、今、片手で持っているボールを投げて入るか、試してみよう。何故だか、今日は、投げれば入るという確信を持つことができたし、入る場面が想像できた。
箱の近くには、誰も歩いていない。ボールを誤って、ぶつけてしまうことはないだろう。
位置的にこんなものか......。
僕は、ボールをしっかり握りしめると、グランドに置かれた箱めがけて、思いっきり投げた。
シューン。
ズボッ。
ガッ。
投げたボールは、一直線に、全く軌道がそれることなく、網の僅かな隙間をすり抜け、グラウンドの箱の中に、見事に、入ってしまった。いつもなら、そもそも、僕の腕力ではボールが箱にすら届かないような距離だ。
まるで、夢みたいだ。念のため、頬をつねってみたが、痛みを感じた。間違いない。今起こった出来事は紛れもない現実だ。
明らかに、僕の体に、何だかの異変が起きている。だけど、一体何がきっかけで......。
さっと腕時計を見てみると、授業開始の時間が迫っていた。早くしないと、学校に遅刻してしまう。急いで学校の教室に向かおうとした時、誰かの弱々しい声が聞こえた。
「や、やめてよ」
グラウンドの横の自転車置き場で、一人の男子生徒が、図体のでかい柄の悪そうな連中に絡まれている。距離は、離れているが、鮮明に顔を見ることができたし、話している内容も耳を澄ませば、はっきり聞き取ることができた。筋力だけでなく、視覚や聴覚も知らぬ間に大幅に向上していた。
「はぁ、お前、さあ、三万円持ってくるって約束だったよな」
男子生徒に、柄の悪い連中を仕切るリーダーらしい男が、煙草を片手に偉そうな口調で言った。
「もう......もう、僕からお金をとるのはやめてくれないか」
男子生徒は、小さな声で勇気を出して抵抗するが、男は、片手を耳に当て、聞こえないふりをする。
「ええ、なんて。聞こえないな」
次は、男子生徒は、大きな声で、男に向かって言った。
「お金をとるのはやめてくれないかって言ったんだ!親が病で倒れて、それどころじゃないんだよ、お願いだよ、今回だけは見逃して......」
男子生徒が、言い終わる前に、男は、彼の胸ぐらをつかみ、顔を近づけた。
「はぁ、そんなこと知ったものか。俺が、お前にお金を持ってこいって言ったら、お前はお金を持ってくればいいんだよ!」
男子生徒は、男に怯え、声は振るえながらも、なおも、心折れることなく抵抗した。
「嫌だ!絶対に、もう、お前なんかにお金を渡さない!」
「なんだと、俺に歯向かおうっていうのか!少しばかり教育が必要なようだな!」
男は、大きな拳を強く握りしめるとそのまま男子生徒に思いっきり殴りかかる。その直後、男の驚く声が響く。
「なっ何者だ!?お前は......」
男の拳は男子生徒に直撃する直前に、止まっていた。僕が、素早く片手で男の腕を掴んでいたからだ。
僕は、男に向かって一言言った。
「やめろ。反吐が出る」
力と恐怖で相手を従わせようとする非道な男の行いを見過ごせなかった。内心、すごく怖くて仕方がないが、今の僕なら、大柄な男たち相手でもなんとかなりそうな気がした。
今日は平日。学校が通常通りあり、授業を受けにいかなければならない。自分の体に起こる変化に戸惑い、学校を休むかどうか迷ったが、嘔吐してから、かなり体調が良くなったので、僕は、いつも通り、学校へと向かうことにした。
早朝、蒼穹の下、燦然と輝く太陽の光が差し込む。ふと、通学路から学校のグラウンドを見ると、朝早くからクリケットの部活動が行われていた。クリケットは、イギリスでは人気のあるスポーツで、日本で言う野球のようなものだ。日本ではそれほど認知度は高くないが、世界的にはサッカーについで、人気のあるスポーツらしい。
クリケットの練習風景は、最初、イギリスに来た時は、新鮮に感じられたが、今では、日常の風景になっていた。
僕は、あまり、スポーツが、得意な方ではなかったから、スポーツの部活に、入っていなかった。スポーツ選手に憧れが少しあったので、もっと自分に高い身体能力があれば、入っていたに違いない。誰かと一緒に切磋琢磨をして、大きな目標に向かって邁進するような体験や経験はしてみたかった。
そんなことを考えながら、グラウンドの近くの通学路を歩いていると、赤色のクリケットのボールが周囲の網を越えて、こちらに勢いよく飛んできた。
クリケットのボールは、とても硬い。ボールの軌道から見て、このままだと僕の頭に当たってしまうと直感的に理解できた。
普段なら、絶対に、ボールを認識することさえできずに、頭を直撃し、大怪我をしてしまうところだろう。大怪我で済めばいいが、あたり所が悪いと、命を落とす可能性もある危険な状況だ。
生と死の分岐点で、奇跡的に内に秘めた身体能力が呼び覚まされたのか、普段なら目でとらえることも難しいボールを事前に認識し、瞬間的にそのボールを片手で掴んでいた。
いつの間にか、ボールを掴んでいる......。
僕は、意識的に掴んだというよりは、無意識的に危険を察知し掴んでいたという感じだ。飛んできたボールを掴んでいることは、片手の中に赤色のボールがあるのを見て気づいた。明らかに、おかしい。昨日とは比べものにならないくらい身体能力が向上しているのではないだろうか。
僕は、本当に身体能力が上がっているか、試したくなった。グランドの中に赤いボールがいくつも入った箱が見えた。その箱に、今、片手で持っているボールを投げて入るか、試してみよう。何故だか、今日は、投げれば入るという確信を持つことができたし、入る場面が想像できた。
箱の近くには、誰も歩いていない。ボールを誤って、ぶつけてしまうことはないだろう。
位置的にこんなものか......。
僕は、ボールをしっかり握りしめると、グランドに置かれた箱めがけて、思いっきり投げた。
シューン。
ズボッ。
ガッ。
投げたボールは、一直線に、全く軌道がそれることなく、網の僅かな隙間をすり抜け、グラウンドの箱の中に、見事に、入ってしまった。いつもなら、そもそも、僕の腕力ではボールが箱にすら届かないような距離だ。
まるで、夢みたいだ。念のため、頬をつねってみたが、痛みを感じた。間違いない。今起こった出来事は紛れもない現実だ。
明らかに、僕の体に、何だかの異変が起きている。だけど、一体何がきっかけで......。
さっと腕時計を見てみると、授業開始の時間が迫っていた。早くしないと、学校に遅刻してしまう。急いで学校の教室に向かおうとした時、誰かの弱々しい声が聞こえた。
「や、やめてよ」
グラウンドの横の自転車置き場で、一人の男子生徒が、図体のでかい柄の悪そうな連中に絡まれている。距離は、離れているが、鮮明に顔を見ることができたし、話している内容も耳を澄ませば、はっきり聞き取ることができた。筋力だけでなく、視覚や聴覚も知らぬ間に大幅に向上していた。
「はぁ、お前、さあ、三万円持ってくるって約束だったよな」
男子生徒に、柄の悪い連中を仕切るリーダーらしい男が、煙草を片手に偉そうな口調で言った。
「もう......もう、僕からお金をとるのはやめてくれないか」
男子生徒は、小さな声で勇気を出して抵抗するが、男は、片手を耳に当て、聞こえないふりをする。
「ええ、なんて。聞こえないな」
次は、男子生徒は、大きな声で、男に向かって言った。
「お金をとるのはやめてくれないかって言ったんだ!親が病で倒れて、それどころじゃないんだよ、お願いだよ、今回だけは見逃して......」
男子生徒が、言い終わる前に、男は、彼の胸ぐらをつかみ、顔を近づけた。
「はぁ、そんなこと知ったものか。俺が、お前にお金を持ってこいって言ったら、お前はお金を持ってくればいいんだよ!」
男子生徒は、男に怯え、声は振るえながらも、なおも、心折れることなく抵抗した。
「嫌だ!絶対に、もう、お前なんかにお金を渡さない!」
「なんだと、俺に歯向かおうっていうのか!少しばかり教育が必要なようだな!」
男は、大きな拳を強く握りしめるとそのまま男子生徒に思いっきり殴りかかる。その直後、男の驚く声が響く。
「なっ何者だ!?お前は......」
男の拳は男子生徒に直撃する直前に、止まっていた。僕が、素早く片手で男の腕を掴んでいたからだ。
僕は、男に向かって一言言った。
「やめろ。反吐が出る」
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