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月の光
09_東雲
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月光が仄かに降り注ぐ中、静寂に包まれたタイムベルの雰囲気をつんざくような叫び声が響き渡る。
「僕はあなたを許さない!勝手に半獣にされて、いつもの日常が奪われただけじゃない。多くの人を傷つけてしまった」
僕は、苛立ちのこもった目付きで倉西を見上げた。猛猛しい叫びに、彼女は、全く動じることなく無感情にこちらを見つめていた。
「知ってる。あなたが、苦しんでいく様子をずっと観察してきたんだから。徐々にあなたが、狂っていく様子を見るのは、なかなか滑稽だった」
「滑稽だっただって。ふざけるな!どうして......僕を半獣にしたんだ?」
何故、日常が奪われなくてはならなかったのか、真相を知らなければ気がすまない。突然、大切な人たちとの日々を奪われ踏みにじられたのだ。それなりの理由があると思いたい。だけど、倉西の放った言葉で、それが幻想なのだと脳髄の奥深くまで思い知らされた。
「誰でも良かったのよ。バエナの器になりそうな奴を、しらみつぶしに、私の血を与えて半獣にしていた。あなたも、その一人だった。そうね、強いて言うなら、あなたが幸せそうだったからかしら」
悪意に満ちた倉西の表情は、バエナの姿と重なって見えた。正当な理由を、歪んだ性格の彼女に求めたのが馬鹿らしく思えた。
「幸せそうだったから......半獣にしただと。変死体が次々と見つかったのも、僕の親が襲われたのも、アルバートを半獣にしたのもお前の仕業か?」
僕は拳を強く握りしめ、次々と溢れる心当たりを彼女にぶつけて問い詰めた。すると、彼女は、微笑み言った。
「ええ、全部、私のやったことよ。すべては、あなたのなかのバエナの力を目覚めさせるため。恐怖を感じれば、感じるほど、バエナの力は、より強くなっていく。血を与えたら、半獣になる前に、死んじゃった子もなん人かいたけれど、いい食料になったわ」
周辺で次々と見つかったのは変死体は、倉西による犠牲者だった。どれだけの人たちが犠牲になったのか想像がつかない。彼女の異常な行動からは道徳心を微塵も感じない。
「聞いているだけで、腸が煮えくりかえりそうだ。バエナの力を目覚めるさせることが多くの人を傷つけてまで成し遂げなくてはならないことだとは到底思えない」
「あなたにとってはそうかもね。私は、バエナ信者なの。彼女が復活すれば、この世界を半獣中心の世界へと導いてくれると信じてる。あともう少しで、バエナ復活が果たせた。あなたをあと一押しすれば、果たせるかしら」
倉西は、右手を地面に倒れるアルバートに向けた。
(一体、何をしてるんだ......)
彼女の不審な行動に、目を丸くした。
よく見てみると、右手の親指には小石があり、それをアルバートに向かって弾こうとしている。アルバートの命が危ない。彼女は彼を殺すことで、僕の中のバエナを呼び覚まそうとしている。
(動け、僕の身体。これで、動かなくなってもかまわない。だから......だから、動いてくれ)
僕は、疲労がたまった身体を無理やり動かし、立ち上がろうとする。身体が小刻みに震え悲鳴を上げる。
「さよなら、アルバートくん」
彼女の冷酷な言葉とともに、指に力が入り、アルバートに向かって勢いよく小石が弾かれた。
「やめろ!!!」
持てる力のすべてを使ってなんとか立ちあがり、僕は、アルバートを庇うために、彼の前に、飛び込んだ。
「鬼山!!!」
アルバートは、自分を守ろうとする僕を見て、叫んだ。
(ああ、ジーナ、君も同じような気持ちだったのかな......)
自らの命を犠牲にして、僕の命を守ってくれたジーナの気持ちが分かった気がした。気づいた時には、考えるまもなく、彼を守るために飛び込んでいた。
瞳を閉じて、終わりの瞬間を待った時だった。力強い狼男アウルフの声が聞こえた。
「鬼山!こんなところで命を落とすことは、俺が許可しない」
僕は、そっと目を開けると、狼男アウルフ、ライオン男ライアン、象男ファントム、蛇女ムグリが、並んで立っていた。
放たれた小石は、地面に食い込んでいる。アウルフの強靭な手の爪で小石を弾いて守ってくれたようだ。
「小僧、私たちがいない間に色々と、あったようだな。よく耐えたな、もう大丈夫だ」
象男ファントムは、ぼろぼろになった僕の身体を見て、言った。
「一人でよく頑張ったわね、私たちが来たからには、安心していいわ」
蛇女ムグリも、僕のことを心配して声をかけてくれた。
「ロコナ、ここに何のようだ」
ライアンの威厳と迫力のある声が響き渡った。その声は、倉西に向けられていた。ロコナとは、倉西の本当の名前なのだろう。ライアンたちは、どうやら、彼女のことを知っているようだ。過去に彼女と何かあったのだろうか。おそらく、ろくでもないことだ。
「ライアン、相変わらずの威圧感ね」
「私たちと命のやりとりをしたいのなら、望むところだ」
いつもは平穏なライアンが、目を血走らせ、なんとも言えない殺気を放っている。聞いているだけでも、その威圧感に、気圧されそうになる。
「いえ、とんでもない。さすがにあなたたちを相手にするのは、分が悪いわ」
「ロコナ、お前とこうやって面と向かって、話をしているだけでも吐き気がするぜ」
アウルフは、ロコナに敵意をむき出しにして言った。
「あなたが過去に行ったことを私たちは、忘れてない。あなたは、私たちを裏切り、アンチヒューマンの仲間に入った。そればかりか、アンチヒューマンの連中に、たくさんいた仲間を殺させた。腸が煮えくりかえって仕方がないわ」
蛇女ムグリが、彼女に対して、叫んだ。
「人間たちから、隠れ、支配される暮らしなど、反吐が出る思いだったわ。アンチヒューマンに入るためには、あなたたちの仲間に犠牲になってもらうしかなかった」
ロコナが、淡々と、話した。
「自分勝手にも程があるわ。死にたくなければ、早くここから立ち去りなさい。私たちがあなたを殺してしまわないうちに」
いつも朗らかなムグリが、鋭い目つきをして苛立ちのこもった声で言った。モリスに過去、仲間を殺されたことを強い恨みを抱いているのだろう。
「ええ、そうさせてもらうわ。あなたたちは殺されたくはないしね」
ロコナは、そう言うと、暗闇に向かって歩き出す。
「待て!最後に聞きたい。ここに犬を襲わせたのは、アルバートか?」
彼女は、僕の問いかけに、立ち止まると、こちらを振り向くと言った。
「犬たちを操っていたのは、私よ。アルバートくんは、抵抗していたわ。じゃあね、鬼山くん」
ロコナは、深い暗闇へと沈むように、消えて行った。まるで、今までの一連の出来事が夢だったかのように、静かで穏やかな時間がゆっくりと流れる。長かった夜に、ようやく日が昇り、まばゆい光が射し込む。夜空にあたたかな朝日が溶け込んで、新しい一日の訪れを知らせる。
「アルバート、君は、本当は僕の命を奪うつもりではなかったんだろ。君の父親が、亡くなったのも君がやったことじゃない気がする」
僕は、地面に倒れているアルバートに向かって言った。
「さあな、想像に任せるよ。俺は、お前が思うほどできた人間じゃないんだ。ずっと虐げることを恐れていた。お前に、改めてその事を言われて、結局、俺は昔からなにも変われていないんだって気づかされたよ」
朝日に照らされた、アルバートの顔からは、今までずっと仕舞い込んできた暗い感情が晴れたような清清しさを感じた。
「アルバート、僕たちと暮らさない。きっと、君と一緒なら、今の暮らしがずっと楽しくなると思うんだ」
僕の提案に、アルバートは一瞬、目を見開くと、俯いた。
「俺は、鬼山たちに、迷惑をかけた。気持ちは嬉しいけど、俺は、仲間になる資格はない」
彼は、僕たちに迷惑をかけたことに後ろめたさを感じているようだった。
「それが、君の本音なの?」
「......ほんとは、鬼山たちの仲間になれたら、最高だと思う」
「なら、一緒に行こう。きっと、辛いことはこれからたくさんあると思うけれど、それに負けないくらいずっと楽しいことが待ってるよ」
僕は、アルバートに手を差しのべた。
「ああ」
彼は、差しのべられた僕の手を握り、地面から立ち上がった。一日の始まりを告げる太陽は、僕たちを温かく包むかのようにまばゆく照らしていた。
「僕はあなたを許さない!勝手に半獣にされて、いつもの日常が奪われただけじゃない。多くの人を傷つけてしまった」
僕は、苛立ちのこもった目付きで倉西を見上げた。猛猛しい叫びに、彼女は、全く動じることなく無感情にこちらを見つめていた。
「知ってる。あなたが、苦しんでいく様子をずっと観察してきたんだから。徐々にあなたが、狂っていく様子を見るのは、なかなか滑稽だった」
「滑稽だっただって。ふざけるな!どうして......僕を半獣にしたんだ?」
何故、日常が奪われなくてはならなかったのか、真相を知らなければ気がすまない。突然、大切な人たちとの日々を奪われ踏みにじられたのだ。それなりの理由があると思いたい。だけど、倉西の放った言葉で、それが幻想なのだと脳髄の奥深くまで思い知らされた。
「誰でも良かったのよ。バエナの器になりそうな奴を、しらみつぶしに、私の血を与えて半獣にしていた。あなたも、その一人だった。そうね、強いて言うなら、あなたが幸せそうだったからかしら」
悪意に満ちた倉西の表情は、バエナの姿と重なって見えた。正当な理由を、歪んだ性格の彼女に求めたのが馬鹿らしく思えた。
「幸せそうだったから......半獣にしただと。変死体が次々と見つかったのも、僕の親が襲われたのも、アルバートを半獣にしたのもお前の仕業か?」
僕は拳を強く握りしめ、次々と溢れる心当たりを彼女にぶつけて問い詰めた。すると、彼女は、微笑み言った。
「ええ、全部、私のやったことよ。すべては、あなたのなかのバエナの力を目覚めさせるため。恐怖を感じれば、感じるほど、バエナの力は、より強くなっていく。血を与えたら、半獣になる前に、死んじゃった子もなん人かいたけれど、いい食料になったわ」
周辺で次々と見つかったのは変死体は、倉西による犠牲者だった。どれだけの人たちが犠牲になったのか想像がつかない。彼女の異常な行動からは道徳心を微塵も感じない。
「聞いているだけで、腸が煮えくりかえりそうだ。バエナの力を目覚めるさせることが多くの人を傷つけてまで成し遂げなくてはならないことだとは到底思えない」
「あなたにとってはそうかもね。私は、バエナ信者なの。彼女が復活すれば、この世界を半獣中心の世界へと導いてくれると信じてる。あともう少しで、バエナ復活が果たせた。あなたをあと一押しすれば、果たせるかしら」
倉西は、右手を地面に倒れるアルバートに向けた。
(一体、何をしてるんだ......)
彼女の不審な行動に、目を丸くした。
よく見てみると、右手の親指には小石があり、それをアルバートに向かって弾こうとしている。アルバートの命が危ない。彼女は彼を殺すことで、僕の中のバエナを呼び覚まそうとしている。
(動け、僕の身体。これで、動かなくなってもかまわない。だから......だから、動いてくれ)
僕は、疲労がたまった身体を無理やり動かし、立ち上がろうとする。身体が小刻みに震え悲鳴を上げる。
「さよなら、アルバートくん」
彼女の冷酷な言葉とともに、指に力が入り、アルバートに向かって勢いよく小石が弾かれた。
「やめろ!!!」
持てる力のすべてを使ってなんとか立ちあがり、僕は、アルバートを庇うために、彼の前に、飛び込んだ。
「鬼山!!!」
アルバートは、自分を守ろうとする僕を見て、叫んだ。
(ああ、ジーナ、君も同じような気持ちだったのかな......)
自らの命を犠牲にして、僕の命を守ってくれたジーナの気持ちが分かった気がした。気づいた時には、考えるまもなく、彼を守るために飛び込んでいた。
瞳を閉じて、終わりの瞬間を待った時だった。力強い狼男アウルフの声が聞こえた。
「鬼山!こんなところで命を落とすことは、俺が許可しない」
僕は、そっと目を開けると、狼男アウルフ、ライオン男ライアン、象男ファントム、蛇女ムグリが、並んで立っていた。
放たれた小石は、地面に食い込んでいる。アウルフの強靭な手の爪で小石を弾いて守ってくれたようだ。
「小僧、私たちがいない間に色々と、あったようだな。よく耐えたな、もう大丈夫だ」
象男ファントムは、ぼろぼろになった僕の身体を見て、言った。
「一人でよく頑張ったわね、私たちが来たからには、安心していいわ」
蛇女ムグリも、僕のことを心配して声をかけてくれた。
「ロコナ、ここに何のようだ」
ライアンの威厳と迫力のある声が響き渡った。その声は、倉西に向けられていた。ロコナとは、倉西の本当の名前なのだろう。ライアンたちは、どうやら、彼女のことを知っているようだ。過去に彼女と何かあったのだろうか。おそらく、ろくでもないことだ。
「ライアン、相変わらずの威圧感ね」
「私たちと命のやりとりをしたいのなら、望むところだ」
いつもは平穏なライアンが、目を血走らせ、なんとも言えない殺気を放っている。聞いているだけでも、その威圧感に、気圧されそうになる。
「いえ、とんでもない。さすがにあなたたちを相手にするのは、分が悪いわ」
「ロコナ、お前とこうやって面と向かって、話をしているだけでも吐き気がするぜ」
アウルフは、ロコナに敵意をむき出しにして言った。
「あなたが過去に行ったことを私たちは、忘れてない。あなたは、私たちを裏切り、アンチヒューマンの仲間に入った。そればかりか、アンチヒューマンの連中に、たくさんいた仲間を殺させた。腸が煮えくりかえって仕方がないわ」
蛇女ムグリが、彼女に対して、叫んだ。
「人間たちから、隠れ、支配される暮らしなど、反吐が出る思いだったわ。アンチヒューマンに入るためには、あなたたちの仲間に犠牲になってもらうしかなかった」
ロコナが、淡々と、話した。
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いつも朗らかなムグリが、鋭い目つきをして苛立ちのこもった声で言った。モリスに過去、仲間を殺されたことを強い恨みを抱いているのだろう。
「ええ、そうさせてもらうわ。あなたたちは殺されたくはないしね」
ロコナは、そう言うと、暗闇に向かって歩き出す。
「待て!最後に聞きたい。ここに犬を襲わせたのは、アルバートか?」
彼女は、僕の問いかけに、立ち止まると、こちらを振り向くと言った。
「犬たちを操っていたのは、私よ。アルバートくんは、抵抗していたわ。じゃあね、鬼山くん」
ロコナは、深い暗闇へと沈むように、消えて行った。まるで、今までの一連の出来事が夢だったかのように、静かで穏やかな時間がゆっくりと流れる。長かった夜に、ようやく日が昇り、まばゆい光が射し込む。夜空にあたたかな朝日が溶け込んで、新しい一日の訪れを知らせる。
「アルバート、君は、本当は僕の命を奪うつもりではなかったんだろ。君の父親が、亡くなったのも君がやったことじゃない気がする」
僕は、地面に倒れているアルバートに向かって言った。
「さあな、想像に任せるよ。俺は、お前が思うほどできた人間じゃないんだ。ずっと虐げることを恐れていた。お前に、改めてその事を言われて、結局、俺は昔からなにも変われていないんだって気づかされたよ」
朝日に照らされた、アルバートの顔からは、今までずっと仕舞い込んできた暗い感情が晴れたような清清しさを感じた。
「アルバート、僕たちと暮らさない。きっと、君と一緒なら、今の暮らしがずっと楽しくなると思うんだ」
僕の提案に、アルバートは一瞬、目を見開くと、俯いた。
「俺は、鬼山たちに、迷惑をかけた。気持ちは嬉しいけど、俺は、仲間になる資格はない」
彼は、僕たちに迷惑をかけたことに後ろめたさを感じているようだった。
「それが、君の本音なの?」
「......ほんとは、鬼山たちの仲間になれたら、最高だと思う」
「なら、一緒に行こう。きっと、辛いことはこれからたくさんあると思うけれど、それに負けないくらいずっと楽しいことが待ってるよ」
僕は、アルバートに手を差しのべた。
「ああ」
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