現代ダンジョンから始める異世界バイトライフ

和泉鷹央

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プロローグ

第2話 異世界アルバイト

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 いかんいかん、就業中だというのに。仕事に集中せねば。しかしこいつら……どうしてそんなくだらない問題で、ここまで言い争いができるんだ?

「私が使ってるモニターの隣に意味もなく花を置かれたら迷惑なのよ!」
「意味もなくなんて! ちゃんと意味はあるわよ」
「へえ、どういう意味があるの? 仕事に関係ある? あの赤い造花が視界に入るだけで苛つくのよ!」
「それはあなたの個人的な意見でしょ? 私はあの花を見るたびに今日も一日頑張ろうって思えるの」
「だから私にとってあの花は何も嬉しくないんだってば!」

 司の目の前で、三十路手前の独身女性二人組が言い争っていた。
 片方はつい最近恋人に振られたらしい。片方はつい最近新しい恋人を手にしたらしい。

 枯れない花が欲しいとお願いしたら、あの造花を贈られたんだとか。
 つまるところ、恋の鞘当てが始まっていたのだった。

「あー……中山さん。申し訳ないんだけど、パーテーションの区切りの内側に、内田さんの視界に入らないところに、花を置いている段を下げてもらえるかな?」
「え? 係長そんなこと言うんですか?」
「内田さんはそれで文句ないよね? 個人的な感情で中山さんに当たったことを謝罪してほしい。どうかな?」
「……私はそれなら文句ないけど」
「ごめんなさい。これでいい?」
「はい。これで終わり。じゃあ仕事に戻って。今日も午後があるからよろしく頼むよ」

 女ってどうしてこんなに面倒くさいんだろう。
 最後に異性と付き合ったのは何年前だった?

 確か大学卒業と同時に、当時付き合ってた彼女とは別れてしまったから――もう、五年も恋愛と御無沙汰だ。

 冬の寒風が胸の中を突き抜けていくように冷たさが心のなかに残った。
 管理職として与えられる業務の大半は仕事ではなく、人間関係のトラブルを円滑に終わらせること。

「でも俺のストレスは誰が解消してくれるんだ」

 一日の仕事を終え、煙草を吸いに喫煙室に向かう。誰に向かって言うとでもなく、そんな風にぼやいていたら、SNSを通じてスマホの画面にとあるニュースが流れてきた。

『ライルバーブ政府と日本企業が資本提携をして発足した現地法人が、操業を開始。三月四日、現地時間の朝八時、同日日本時間の朝十時にライルバーブ食品の直営する食品製造工場で、弁当の製造ラインが操業を開始した。この工場では現地の雇用で約二千名の雇用を促進するとされている。また、同工場にはアルバイトや派遣会社からの派遣社員を含めた日本人の雇用も同じく行おうとしており……』

 と、画面の向こうに文字が踊っている。
 その羅列をなんとなく目で読んでから、タバコを吸い終えたので画面を消そうとして、指が止まった。

 ニュース記事の表示されている画面の下の方に掲載された求人広告に、つい目が止まったからだ。

「食品製造業、新規工場稼働につき求人大募集。あなたも異世界で働いてみませんか? コンビニエンスストア向けのお弁当などを作る簡単な軽作業です」

 へえ。そんな仕事があるんだ、などと思ってしまう。
 頭の中で先ほどのニュースとこの求人広告がぴったりと合致した。

 なんとなく天啓のようなものを、この求人広告に感じてしまう。
 それまでモヤモヤとしていた頭の中が、急に晴れ渡った気分になった。

「異世界なら俺にも出会い、あるかな?」

 場所はダンジョンだ。だけど、異世界だ。
 ローファンタジーじゃなくて、ハイファンタジーじゃん。

 ダンジョンの中を舞台にしたらの話だけど、と司は最近息抜きに読んでいる、Web小説の話を思い出す。

 車に跳ねられて死亡、異世界に転生し、女神様からチートをもらって、さらに異世界の美少女たちにチヤホヤされる。

 おまけに人生楽しい事ばかりで、スローライフを満喫している主人公になりきって物語を楽しむのは、はっきり言って悪くない。

 でも、それは読み捨てできる世界だ。その作品に熱中してしまい、話の中身に没頭するほど司は子供でもなかった。

「まあ、ライトノベルって一度読んだらそれで終わり。みたいな感じだしな……」

 さくっと読んで、パッと忘れて、ささっと次の作品を読み進める。
 そんな事されたら頑張ってその作品を書いた作者は、たまったものじゃないだろう。そうも思う。この中に残されたキャラクターたちはもっと辛い気分になるんじゃないだろうか。

 自分たちの価値が、歯車でもなく、たった一瞬のきらめきのように光ってそれで終わってしまうのだから。だからこそ数十万、数百万の読まれない作品がWeb の中には氾濫しているのかもしれない。

「なんとなくそれって俺の人生みたいだな。会社に使われて終わり。人生の一番大事な時間を、仕事に追われて、彼女もいないまま終わってしまうなんて」

 つまらない。価値がない。それをすることによって対価としてお金をもらっているのは分かっている。でもだからと言って、なにもかも会社に捧げるのはなんとなく間違っている気がする。

 それは昭和の考えで、日本の景気がめちゃくちゃ良くて、高度経済成長時代なんて後の時代に呼ばれるような、そんな特別な時代だったからこそ価値のある価値観だった。

 今は違う。

「異世界に副業してみたら出会いとかあるかな。いや、あからさま過ぎるか」

 他人と違う人生を歩んでみたかった。
 ほんの少しだけ知らないものを見てみたかった。

 新しいものを感じて、自分が生きている意味を確かめてみたかった。
 できることなら、恋愛込みで。

「よし、異世界でアルバイトしよう。派遣で行けば会社にもバレないだろ。異世界だし……」

 まあ、会社は副業を認めているから、別に気を使う必要はないんだ。
 ただ、仕事でミスをした時に、昇進コースから左遷コースに転落するのが濃厚になるだけで、そこにさえ気をつけていれば、特段問題はない。

 こうして、味道司は異世界でアルバイトをすることを決めた。
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