婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央

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プロローグ 

女神様は御機嫌のようです

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「アズライル様? こんな場所で何をなさっているのです? あと十数分で大神官様や枢機卿様などが、お越しになるというのに。神聖な儀式の予行演習ですか?」
「アッ、アイリス――っ!! まさか、今の爆破はお前が‥‥‥??」
「爆破などしておりません」
「していない!? では、何が起こった!? 俺には扉が爆ぜたようにしか‥‥‥」
「爆破ではなく、爆風を叩きつけただけですわ、殿下」

 にっこりと。
 アイリスは王太子殿下に向かい、不敵に微笑んでやる。
 自分の方に転がってきていた愛人、いや‥‥‥愛しい未来の夫の愛を独り占めしていた女伯爵が逃げようとするから、その長い黒髪を踏みつけてやりながら。

「殿下。私の身体よりも、こんな年増の身体がお好みですか?」
「待て、待て、待て! 俺がどこで誰を抱こうと、お前に文句を言う権利など――」

 助けて、と小さくうめく愛人の背中を踏みつけ、アイリスは更に微笑んでやる。
 へえ‥‥‥そんな言い訳しかできないんだ。
 せめて、愛しているすまなかった。
 その一言があれば、二度としないでくださいね?
 そんな小言で済まそうと思っていたのに。

「権利は――ない、ですか。そうですか――」
「ああ、ないとも。俺はこの国の次期国王だぞ!? それを理解しているのか??」
「もちろんでございますとも、殿下。その次期国王様に、女神様からのご褒美を差し上げますわ‥‥‥」
「何? 女神‥‥‥???? 確かにお前は司祭だが、何を根拠にそのような――??」
「それはですねえ、殿下」

 アイリスは左手に先ほどよりも小ぶりの、いや、爪先程度の蒼い炎を作り出す。
 冷たい氷の微笑と共にそれは放たれて――
 数瞬後、王城の中に、あまりにも悲痛な叫び声が響き渡ったのだった。




 ★★★

 それから少し後のこと。
 王太子殿下は、殿下と呼ばれるために必要なモノを黒く焼かれて失神していた。
 とはいえ、さすがアイリスは女神の司祭。
 治癒魔法も回復も、再生だってお手のもので綺麗に綺麗にそれを再生して差し上げたのだった。
 ただし――

「‥‥‥アイリス?」
「何よ、ケイト」
「あれって、その――ちゃんとしたの? 元の通りに?」
「あんな醜いモノ、二度と見たくないわ。情けない男だし、悲鳴上げて気絶するなんて。失神? どっちでもいいけど。再生して差し上げたわよ? でも、大きくはならないかもね」
「‥‥‥」
「いいのよ、どうやら王位継承権は第二王子様に移るようだし」
「どうしてそんなことが分かるのよ?」

 そこは最初に二人が話していた部屋で。
 神託を受けて慌ててやってきた大神官や聖女が、アイリスが報復した内容を受けて顔を真っ青にしているところだった。
 大神官と共にやってきた神官長がアイリスにさんざん小言を述べていたが、彼女はどこに吹く風と受け流してしまい聞く耳を貸さない様子。
 なぜかそれに付き合わされているケイトがそっと、アイリスにささやくようにして会話をしているところだった。

「だって、そこに女神サティナ様がいらっしゃるもの。でも、聖女様にも大神官様にも見えていらっしゃらないようだけど」
「そう。もう何も聞きたくないわ‥‥‥」
「何よ、反応薄いわねえ。あなたから聞いてきたくせに。つまらない」
「将来の夫を焼いておいて、つまらないも何もありませんよ。アイリス‥‥‥」

 この親友には、いや、一応の主人だが。
 どこまでも悪運と言うべきか、それとも、神の奇跡と言うべきか。
 そういったものがあるらしいとケイトはため息をつく。
 何より――

「ところであなた、どうして驚かないの?」
「だって、わたしにも見えるんだもの。あなたと同じ真紅の髪に緑の瞳の人間とは思えない美少女が、あの椅子に腰かけて微笑んでいられるのが‥‥‥」
「そう。なら秘密を共有できるわね」
「もう知らないわ‥‥‥」

 説教を受けているのに、話すとは何事ですか!?
 そう神官長の一喝を受け流し、二人はこれから面白くなるかもね、と笑っていた。
 だって、女神サティナが二人にこう言ったのだから。
 さ、馬鹿な男どもとは縁を切って、これから世界を知る旅に出ませんか、と。

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