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第二章
王国騎士
しおりを挟む少女はハーフアップにした長髪に、褐色の季節に彩りを与えるような薄い紫のロングドレス。
姉は真紅の髪を小さくまとめ黒系統の帽子に美しいかもしれないはずの素顔を黒いベールで隠し、指先まで絹を黒く染め上げた長い手袋で覆っていた。
落ち着いたベージュの礼服に身を包み、決っして華美ではない雰囲気を醸し出している。
その付き人に見え、それでいてなお、素朴な美しさを放つ亜麻色の髪の乙女がなぜか、一番人目を引いていることがサティナは不満だった。
「ケイトってどこにいてもいいところを持っていくのね……。悪い女だわ……」
「今頃気づいても遅いですわ、サティナ。ケイトは私と違ってすでに婚約者との仲もうらやましいほどに良いのだから」
「そう。貴方は捨てらえたものね……可哀想なお姉様?」
「戻ったら井戸の掃除でもしましょうか? ねえ、サティナ?」
「ひぇっ!? これ以上、小さくなりたくないですわ……幼児虐待」
「どんな女神よ、まったく」
炎の精霊ではないのだから、たかだか井戸の中に放り込まれた程度で外観が変わることなんてあり得ないけど!
でも、とサティナは過去を思い出す。
あの人間は周囲数キロの魔法力を禁止する呪いで自分を結界に閉じ込め、その手で湖になんどもなんども沈めては拷問し、炎の精霊と本体をさらけだしていた自分はまあ、ものの見事に力を失った。
人間を侮るととんでもないことになる。
サティナは経験でそれを知っているからつい、及び腰になってしまう。
「お二人とも、そろそろやめてくださいね。旦那様……ランバート卿と合流しますよ」
ケイトの一言で、三人が載る馬車の速度が緩まるのをサティナもアイリスも感じたらしい。
ふんっ、などと鼻を鳴らし、互いに牽制し合いながら口を閉じていた。
「どんな御方なの、ケイト?」
「どんなと言われましても、どうでしょうか? こちらに来てから二週間近く経ちますが、まだお会いしていませんから。使用人の話ではまだお若い有能な騎士。そういうお話でしたけど、サティナ様?」
「もうー、様はつけないでくださいませ、ケイトおばさま。ここからは、王都の富豪ロディアム様の愛人になったアイリスお姉様の幼い妹という設定ですから。ね、おばさま?」
「お、おばさま……。へえ……アイリス、先ほどの井戸の件。わたしも賛成かもしれないわ」
「女神いじめの好きな信徒たちだわ、本当に」
こんなに理不尽で傍若無人な信徒なんて、あれだ。
初代の建国王だけだ。記憶にある限りは……銀色の髪の好青年だった。
もうあんな青年に出会うことなど二度とないだろう。
そうサティナは思い、どうやって放り込もうかしらと、頭の上でうなづきあっているアイリスとケイトに呆れながら、これから会うという王国騎士はせめてまともであって欲しいと願い、到着した馬車で年下らしく最初にそれを降りた。
「あ……」
自分は女神なのだ。
人間っぽい仕草はしてはならない。
しかし、その時だけは違った。
サティナの視線の先にいる、まだ若い貴族の青年。
彼は――記憶にある建国王ライルオの面影をうっすら見せる青年だった。
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