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第二章
妹
しおりを挟む「これは失礼。叔父の趣味とも思えない女性もいらしたので。つい」
「は? ああ、これは妹です。旦那様のお手はついておりませんよ、トロイ様」
「そう、ですか。それはまあ、ええ……」
「サティナと申します。お気に入りましたら、御側に置かれてはいかがですか?」
「は……?」
いきなり何を言い出すのかと、王国騎士トロイは目を白黒とさせていた。サティナも同じく、声に出さずアイリスを振り返りにらみつける。
その視線は女神というよりは、悪の魔女といった風情で一瞬、アイリスは他人から寄せられた殺意に似た感覚を覚えてしまう。
しかし、そこは炎の女神の司祭というべきか、それとも、まだ王太子を殺したと思いこんだままでサティナに対して怒りが心のどこかに残留していたのか。
アイリスはサティナの怒りの視線を無視すると、真紅から黒に近い色へと髪色を変えた自称、妹をずいっとトロイへと押し出していた。
「この妹ももう良い年齢ですし。ほら、いま何歳なの、サティナ?」
「えっ、あなた、アイリス!? 何を言わせるの!!」
小声で女神はそう己の司祭を叱りつけるが、アイリスは抜け目なく言い訳を用意していた。
「サティナ様。ここで気に入られれば、あの東屋と揶揄された屋敷よりももっとまともな屋敷に住めるかもしれませんよ? 上等なベッド、上等なワイン、上等なお肉。上等な衣類だってそうだし、お好きなだけ大好きな宝石だって買えるかもしれません」
「……宝石が好きなのは女なら当たり前でしょ?!」
「なら、女の武器で手に入れてはどうですか? 数千年生きてこられた女神様?」
「後から覚えておきなさいよ……」
「妹は姉の言うことに従うべきではないですか、サティナ? ほら、年齢は?」
「くっ……。何をたくらんでるのよ、貴方は!? 十、二歳……」
「サバ読みすぎでしょ、それ?」
「ほっときなさいよ」
言わせたのは私だし、それでもいいんだけど。
十二歳、ね。まあまあ、妥当な線かな?
自分の部下が用意した屋敷が気に入らないなら、自分で手に入れて下さいな。
アイリスはそう思うと、トロイにそのまま伝えてやる。
貴族令嬢の婚約時期は十二、三歳が通例だから、その意味では自分やケイトは遅い行き遅れと言われても仕方がない年齢ということになる。
女神だと言って何もかもをぶち壊しにしていいということはない。
「こんな妹で良ければ、いかがですか、トロイ様? 王国騎士様となれば、爵位はなくとも貴族様。妹の将来も安泰というものですわ」
「……アイリスっ!!」
「お姉様でしょ、サティナ? 姉の言うことが不満ですか?」
「っ――!? あなた……王太子の件の意趣返しをこんな形でするつもり……?」
「さあ?」
アイリスからの提案を受けたあと、トロイはまさかと笑い断わる素振りを見せた。
しかし、あの姉妹はひそひそと話すにしてはどこか剣呑な雰囲気を漂わせていて、どうにも苦手かもしれないと思ってしまう。ここはとりあえず、叔父の妾である姉の機嫌を損ねないように帰路につかせなければと、少年騎士は心でため息をついていた。
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