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第四章
待ち人
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「――そう。分かりましたわ、女神サティナ様。許して頂けるならば、生涯の忠誠をあなたに誓います」
+ + +
そう言ったのはほんの数週間前だ。
あの時の自分は勇ましくて、殿下に対する憐れみの情なんて微塵もなくて、ただひたすらに怒りに身を任せていた。
女伯爵に好きな男を独占されたことと、人生で一番最初に始める夫婦の営みをあっさりと放棄されたことに対する怒りで頭がいっぱいだった。
あの誓いを立てたことで、サティナ様は許可を出したのかもしれない。
殿下に報復する許可を、一番醜い復讐なんて行為を行う許可を。
そして――女神がこの世に降り立つための駒が揃ったはず、と。
「人の世には人の世の法律があるあから、神様は自由に出来ない。それがサティナ様の言い分だったから――そこは建国王との兼ね合いってことよね。でも別の神様たちがそうするとも思えない。ケイトは婚約者の下に送ったし……何か間違いがあってもあの子なら自分で何とかするでしょからそれは良し」
そうなると来るはずなのだが、それから一時間ほど待ってみても相手はやってこない。
秋の夕方は寒く、そろそろひざ掛け程度は欲しくなる時間帯。
魔法を使い場を暖めても特に大きな変化もない。
「女神とはいえ、朝帰りでもする気かしら。あの駄女神……」
その時だ。カサリ、と後ろで葉柚の触れる音がした。
天には三連の月。向いは青・赤・銀が昨日までだった。
しかし、いま見上げると並びは赤・青・銀だ。
青い月には地上世界での役割を終えた神々が住むという。
銀の月は何もいないんだとか。
じゃあ、赤の月は――伝説には三つの神だ。
夜闇のグレイムス。古い古い神話にその名を遺す、六本腕の魔剣の神。その振るう魔剣は赤い月の光を受けて鈍く、真紅に輝いたという。
リシェスの聖女たち、もいたっけ、とアイリス思い出す。
水晶族と呼ばれる、身体のどこかに水晶のような肌を持つ、人そっくりの種族がいる。
銀色の髪、緑色の瞳、赤銅に近い肌。
赤い月の女神リシェスの姿を模して生み出されたといわれる、古代文明の生体兵器。
「確か水晶族は古代魔導文明の遺産だとかなんだとか。バルッサムっていう熊のモンスターと世界中の裏の死闘を繰り広げて来たとか来ないとか」
少し前にサティナの姪、炎の女神カーラの聖女を撲殺した魔王と、似てる神もいたはず。
「黒龍フェイブスタークと竜王アールディアが古代神のエストとダーシェを封印したとかしないとか」
さて、やって来たのは誰かしら?
出来たら優しいイケメンの惚れ惚れするくらいいい男なら、ケイトを送り出した分、いなくなってしまった美貌の代わりくらいには、目を楽しませてくれるんだけどなあ……。
「あーあ、残念……私ってつくづくクジ運が悪いのね」
右手の先の二つ指を交差させ、両方の指先を少しばかりこすりつけて音を鳴らしてみる。
戦えない女と思われたら、困るのよねー。
パチンと子気味よく鳴ったその先にあるのは、ケイトを転移させた円陣の輪をさらに広げたもの。
そして、夜闇を朱色に染めるようにして咲いた炎の華は、こちらを見ていぶかしむ――いやに巨大な毛むくじゃらの爛々と光る双眸を照り返していた。
「さ、逃げよっ!」
そしてアイリスはカッコつけたものの、ドレスの裾を払うと虚空へと飛び上がる。
次の瞬間、東屋は音を立てて熊と思しきモンスターの一撃に崩れ落ちていた。
+ + +
そう言ったのはほんの数週間前だ。
あの時の自分は勇ましくて、殿下に対する憐れみの情なんて微塵もなくて、ただひたすらに怒りに身を任せていた。
女伯爵に好きな男を独占されたことと、人生で一番最初に始める夫婦の営みをあっさりと放棄されたことに対する怒りで頭がいっぱいだった。
あの誓いを立てたことで、サティナ様は許可を出したのかもしれない。
殿下に報復する許可を、一番醜い復讐なんて行為を行う許可を。
そして――女神がこの世に降り立つための駒が揃ったはず、と。
「人の世には人の世の法律があるあから、神様は自由に出来ない。それがサティナ様の言い分だったから――そこは建国王との兼ね合いってことよね。でも別の神様たちがそうするとも思えない。ケイトは婚約者の下に送ったし……何か間違いがあってもあの子なら自分で何とかするでしょからそれは良し」
そうなると来るはずなのだが、それから一時間ほど待ってみても相手はやってこない。
秋の夕方は寒く、そろそろひざ掛け程度は欲しくなる時間帯。
魔法を使い場を暖めても特に大きな変化もない。
「女神とはいえ、朝帰りでもする気かしら。あの駄女神……」
その時だ。カサリ、と後ろで葉柚の触れる音がした。
天には三連の月。向いは青・赤・銀が昨日までだった。
しかし、いま見上げると並びは赤・青・銀だ。
青い月には地上世界での役割を終えた神々が住むという。
銀の月は何もいないんだとか。
じゃあ、赤の月は――伝説には三つの神だ。
夜闇のグレイムス。古い古い神話にその名を遺す、六本腕の魔剣の神。その振るう魔剣は赤い月の光を受けて鈍く、真紅に輝いたという。
リシェスの聖女たち、もいたっけ、とアイリス思い出す。
水晶族と呼ばれる、身体のどこかに水晶のような肌を持つ、人そっくりの種族がいる。
銀色の髪、緑色の瞳、赤銅に近い肌。
赤い月の女神リシェスの姿を模して生み出されたといわれる、古代文明の生体兵器。
「確か水晶族は古代魔導文明の遺産だとかなんだとか。バルッサムっていう熊のモンスターと世界中の裏の死闘を繰り広げて来たとか来ないとか」
少し前にサティナの姪、炎の女神カーラの聖女を撲殺した魔王と、似てる神もいたはず。
「黒龍フェイブスタークと竜王アールディアが古代神のエストとダーシェを封印したとかしないとか」
さて、やって来たのは誰かしら?
出来たら優しいイケメンの惚れ惚れするくらいいい男なら、ケイトを送り出した分、いなくなってしまった美貌の代わりくらいには、目を楽しませてくれるんだけどなあ……。
「あーあ、残念……私ってつくづくクジ運が悪いのね」
右手の先の二つ指を交差させ、両方の指先を少しばかりこすりつけて音を鳴らしてみる。
戦えない女と思われたら、困るのよねー。
パチンと子気味よく鳴ったその先にあるのは、ケイトを転移させた円陣の輪をさらに広げたもの。
そして、夜闇を朱色に染めるようにして咲いた炎の華は、こちらを見ていぶかしむ――いやに巨大な毛むくじゃらの爛々と光る双眸を照り返していた。
「さ、逃げよっ!」
そしてアイリスはカッコつけたものの、ドレスの裾を払うと虚空へと飛び上がる。
次の瞬間、東屋は音を立てて熊と思しきモンスターの一撃に崩れ落ちていた。
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