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第五章
ランバート卿
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ランバート卿はやれやれ、と言いながら立ち上がるとまだ生きていると実感したらしい。
窓の外のあまりにも現実離れした光景に唖然としながら、それでも彼は王国騎士だった。なるほど、とつぶやくとすぐさま踵を返し、部屋を出て行こうとする。
その動きの早さに、アイリスから逆に声をかけなければならなかったほどだ。
「あっあの、ランバート卿? どちらに!?」
「時間が足りない。歩きながら話しましょう。立てますか?」
「え、あ、はい。それは多分……」
「では参りましょう、我が女司祭どの」
「え……」
うなづくとともに手を自分に差し出した彼の発言にアイリスはどきりとした。
自分の身分を明かしていないのに、彼がはっきりと女司祭とそう呼んだからだ。
正体がばれた!?
一瞬、全身がこわばってしまう。
その現実は知られてはいけないものだったのに、と。
ランバート卿は本当に時間が惜しいのか、アイリスをしかたないと抱き上げると、そのまま歩き出してしまった。
「失礼?」
「ちょっと! 歩けます、降ろして!」
しかし、その嘆願はあえなく無視されてしまう。
彼は扉を片方の手で器用にあけると、軽々とアイリスを持ったまま走り出していた。
――凄い力。さすが王国騎士……。
つい、アイリスはそう思ってしまう。
あのアズライル王子にすら、抱きかかえられたことの無い少女はせ背丈も変わらず年齢の差もほとんどない、この王国騎士に接して初めて、男性とはこんなにも力強く頼もしく感じれる存在なのだと、そう心に感じていた。
「階下にて降ろします。いまはこの方が早い。しばし、我慢してください」
「だって、こんな格好で……」
「誰も見ていません。変な噂を出すような輩は裁きますから。貴方に対して、無礼な真似はさせません」
「はあ……」
さすがに感動とか、そういうものはない。
ただ、彼はそうすると約束したらそうするのだろう。
それだけはなんとなく信じることができた。
抱えられて移動する合間に、ここは三階なのだと知ることが出来た。向こうに見える尖塔や城壁の高さから、だいたいの今いる高さを把握できるからだ。
ランバート卿は全速力で走ることが苦にもならないらしい。
アイリスを抱えたまま三階の廊下を一気につき走ると、そのまま階段を彼女に恐怖させることなく緩やかに駆け下りていく。
確かにこの方が早いのね、私と普通に走ったら倍ほどは時間がかかりそう。
時折、踊り場で数段飛ばしに加速するときもあったが、アイリスにその光景を見せまいと常に自分側に引き寄せてくれたおかげで奇妙な恐怖を抱かずに済んだ。
そのまま彼は一階に到着するとあの光がほとばしる方角へと方向転換。
一切の迷いのない行動は功を奏したのか、数分後には二人の目の前にあの情景となかば半壊しか東屋と巨大な何かの足のようなものが見えて来た。
「さあ、お待たせしました。貴方はここにいてください。アイリス様」
「ここにいろって言われましても、我が主があそこにいますので……」
「主?」
「ええ、ですから――あの空の一角に……」
ほら、とアイリスが西の天空を指さした先には紅色と朱色とうす混じりの青、ときおり走る電撃の銀色に染まった人間のようなものが、まるでそこに地面でもあるかのように微動だにせず立っていた。
いや、違う。
広がる光景と、ただ一本の強大な円柱と化した熊――バルッサムの残骸と……天空にいる誰かを見ようと、危険よりも好奇心を生かした市民がそこには群がり始めていた。
窓の外のあまりにも現実離れした光景に唖然としながら、それでも彼は王国騎士だった。なるほど、とつぶやくとすぐさま踵を返し、部屋を出て行こうとする。
その動きの早さに、アイリスから逆に声をかけなければならなかったほどだ。
「あっあの、ランバート卿? どちらに!?」
「時間が足りない。歩きながら話しましょう。立てますか?」
「え、あ、はい。それは多分……」
「では参りましょう、我が女司祭どの」
「え……」
うなづくとともに手を自分に差し出した彼の発言にアイリスはどきりとした。
自分の身分を明かしていないのに、彼がはっきりと女司祭とそう呼んだからだ。
正体がばれた!?
一瞬、全身がこわばってしまう。
その現実は知られてはいけないものだったのに、と。
ランバート卿は本当に時間が惜しいのか、アイリスをしかたないと抱き上げると、そのまま歩き出してしまった。
「失礼?」
「ちょっと! 歩けます、降ろして!」
しかし、その嘆願はあえなく無視されてしまう。
彼は扉を片方の手で器用にあけると、軽々とアイリスを持ったまま走り出していた。
――凄い力。さすが王国騎士……。
つい、アイリスはそう思ってしまう。
あのアズライル王子にすら、抱きかかえられたことの無い少女はせ背丈も変わらず年齢の差もほとんどない、この王国騎士に接して初めて、男性とはこんなにも力強く頼もしく感じれる存在なのだと、そう心に感じていた。
「階下にて降ろします。いまはこの方が早い。しばし、我慢してください」
「だって、こんな格好で……」
「誰も見ていません。変な噂を出すような輩は裁きますから。貴方に対して、無礼な真似はさせません」
「はあ……」
さすがに感動とか、そういうものはない。
ただ、彼はそうすると約束したらそうするのだろう。
それだけはなんとなく信じることができた。
抱えられて移動する合間に、ここは三階なのだと知ることが出来た。向こうに見える尖塔や城壁の高さから、だいたいの今いる高さを把握できるからだ。
ランバート卿は全速力で走ることが苦にもならないらしい。
アイリスを抱えたまま三階の廊下を一気につき走ると、そのまま階段を彼女に恐怖させることなく緩やかに駆け下りていく。
確かにこの方が早いのね、私と普通に走ったら倍ほどは時間がかかりそう。
時折、踊り場で数段飛ばしに加速するときもあったが、アイリスにその光景を見せまいと常に自分側に引き寄せてくれたおかげで奇妙な恐怖を抱かずに済んだ。
そのまま彼は一階に到着するとあの光がほとばしる方角へと方向転換。
一切の迷いのない行動は功を奏したのか、数分後には二人の目の前にあの情景となかば半壊しか東屋と巨大な何かの足のようなものが見えて来た。
「さあ、お待たせしました。貴方はここにいてください。アイリス様」
「ここにいろって言われましても、我が主があそこにいますので……」
「主?」
「ええ、ですから――あの空の一角に……」
ほら、とアイリスが西の天空を指さした先には紅色と朱色とうす混じりの青、ときおり走る電撃の銀色に染まった人間のようなものが、まるでそこに地面でもあるかのように微動だにせず立っていた。
いや、違う。
広がる光景と、ただ一本の強大な円柱と化した熊――バルッサムの残骸と……天空にいる誰かを見ようと、危険よりも好奇心を生かした市民がそこには群がり始めていた。
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