婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央

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第六章

星の物語 1

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 劇場。
 そう呼ぶにしてはそこはアイリスの知っていた劇場とは姿も形も違っていた。
 劇団員も出なければ、主役も出ないし、開幕の合図は合っても挨拶はない。
 ところどころにでも観客がいればまだましだが、その場はどう見渡してもアイリス以外の人影は見えなかった。
 二階席や一階席の上段にもしかしたら、背の低い誰かがいる可能性もあったが……気配が全くしないので、アイリスは探るのをやめた。
 誰もいないということは、とりあえず身の危険も――人的な何かによる危険――だけは心配しなくていいということだ。
 ここまで不可思議だらけの状況で流されてきたのだから、今からとんでもないことが起こりますよー。とそう予告があっても、はいそうですか、と受け流せるだけの余裕が……いまのアイリスには生まれていた。

「冷たいっ」

 テーブルに置かれた小皿から白いそれをスプーンですくい口に含むと、言いも言わらぬ爽やかな酸味と甘さとが口の中を支配して、続いてずっと身体が求めていた冷たさが一瞬で目を覚ませた。
 アイスクリーム。
 街では普通だけど、こんな場所では滅多に手に入らないだろう貴重品を、こうも容易く出してくるなんて。
 ここは余程儲かってる?
 商人のような思考をしつつ、神々が訪れる場所だからかもしれないと自分を納得させる。
 二口、三口と口に運んでいる間に、眉間にツーンといつものあれが襲ってきた。

「ふーっ……ん」

 スプーンを置いて襲ってきた頭への冷たいものを一度に大量に摂取したときの痛覚を我慢しようとして目を閉じる。どうにかやり過ごしてそっと目を開けた時、白のスクリーンには美しい惑星の光景が青々とした光の帯をもってそこにあった。
 写真でもまだ白黒なのに……。
 動画なんて魔法具で視る以外知らない彼女は、この極彩色の動画かつ、音も同時に封入されていることに驚きを隠しえない。
 カメラの焦点は青い惑星に近づいていき、それは見慣れた大地の形を映しだす。

「あ、東と西の大陸?」

 それぞれの狭間にある巨大な大河―ーそれをシェスという。
 シェス大河が、外洋に抜けるその部分には巨大な中洲があり、見覚えのある国旗を掲げた馬に乗った騎士たちがそれぞれ、乱戦を繰り広げていた。

「百年戦争……かな? あれ、エルムド帝国の国旗だし……」

 双頭の金色の鷹が絡み合った国旗は、現代でも西の大陸の覇者と名高いエルムド帝国のものだ。
 その向こうにきらびやかな青の刺繍を陽光にまたたかせているのは、東の覇者とうたわれた神聖ムゲール帝国だろう。
 どちらの国も、アイリスが住んでいた東の大陸は北方地方からかなり南に下がった、大陸の南端域の物語らしい。

「エルムド帝国にムゲールが争ったのが……どれくらい前? 確か、グレン大帝とユニス女王がその乱を平定して、両国は同盟を結んだはずだから……二千年ほど昔かな? なんでいまそこが関係する……?」

 アイスからワインと親指大の、皮のない種なしぶどうを頬張りながら、アイリスはまた面倒くさいことが始まるわね? と呆れていた。

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