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第七章
人の知恵
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サティナ様、意外に背が低いのね。
間近に立ってみてアイリスは初めてそのことに気がついた。
髪の毛色はアイリスが苔桃色で、サティナはもう少し深いグレーがかった茶のような赤。
緋色と表現してもいいかもしれない。
瞳の色は二人とも同じに見えて、確かにこれなら幼い姿になった女神様と姉妹といっても遜色ないと言われたのを思い出す。
その言葉をくれた相方は、ずっと仕えてくれたあの娘は安全な場所に逃れてくれただろか。
ふとケイトのことを思いだし、自分のように命をかけて何かをさせなくてよかったと心のどこかで安堵する。
「それで、貴方は何をするつもりなの? 未来の――渡しの女司祭様は」
「あら。様なんて意外ですわ、女神様」
「駄、をつけ忘れてるでしょ、アイリス!?」
そんな遠い目をした信者を見上げて、女神はまるでついさっき別れた知人のように嫌味を込めてそう言った。
十年先の未来から、時間と空間を隔てたその場所に束縛されない存在であるかのように。
えっ? と目を丸くするアイリスにサティナはふふん、と得意げな顔をする。
その笑みと駄、と付け足した時の嫌そうな不貞腐れた顔はまさしくあの時代、あの時間に存在したサティナだった。
「……なん、で?」
「なにぼーっとしているのよ、アイリス。しっかりなさい。いつか私、貴方に言わなかったかしら。神の制約がある、と伝えた気がするのだけど」
「神の制約、でございますか――主様……耳にした気も致しますが。それがどんなものかまでは理解が、その……」
過去に来てくれたのだろうか。
未来の女神様が? 人であるアイリスにはまったく想像のつかない出来事に唖然とするしかできない。
制約とは何だろう。
サティナがあのクマさんを燃料にしてかつて失った力を取り戻したことに理由がある?
だとしたら、神という存在は一体……?
「ぼけーっとしてないの、駄司祭!」
「駄司祭って、そんな酷いっ!」
「ひどくないわよ。さんざん、駄女神って馬鹿にしたんだからお返しだわ。神は時間や空間には左右されないの。どの時間にも存在し、どの空間にも存在する。ただ、生きている時空が――場所が貴方たちの生きている場所とは少しだけ違うのよ。そう、建物の二階と三階のようにね。貴方たちは二階で、わたしは三階。二階を好きに覗けるし、好きに行き来もできる」
「あっ! じゃあ――力を制限されたら二階と少しばかり上にしか行けないから……?」
ま、そんなところねとサティナはうなずき、
「それでも自在に歴史改変は許されないのよ? 貴方どうするつもりなの?」
「あ、そうです、それ! 許されなくても、行き来が許されている場所からの移動なら――可能でしょう?」
「それってまさかの――」
「はい、サティナ様。少しだけ、神々の道具を私的に利用させていただきます」
許可されている扉があるなら、願えばどこにでも行けるのなら。
それを行った後に好きに戻りたいと願えば戻れるようにすることだって可能だと思いません?
例えすこしだけ道連れが増えたとしても。
あの劇場からの出口。
それはすなわち、戻りたいと望んでから出れば、入り口にもなりえるはず。
人だって愚かではないんですよ、と不敵にアイリスはほほ笑む。
その背後には、見慣れた劇場の出口がゆっくりとその輪郭を現し始めていた。
間近に立ってみてアイリスは初めてそのことに気がついた。
髪の毛色はアイリスが苔桃色で、サティナはもう少し深いグレーがかった茶のような赤。
緋色と表現してもいいかもしれない。
瞳の色は二人とも同じに見えて、確かにこれなら幼い姿になった女神様と姉妹といっても遜色ないと言われたのを思い出す。
その言葉をくれた相方は、ずっと仕えてくれたあの娘は安全な場所に逃れてくれただろか。
ふとケイトのことを思いだし、自分のように命をかけて何かをさせなくてよかったと心のどこかで安堵する。
「それで、貴方は何をするつもりなの? 未来の――渡しの女司祭様は」
「あら。様なんて意外ですわ、女神様」
「駄、をつけ忘れてるでしょ、アイリス!?」
そんな遠い目をした信者を見上げて、女神はまるでついさっき別れた知人のように嫌味を込めてそう言った。
十年先の未来から、時間と空間を隔てたその場所に束縛されない存在であるかのように。
えっ? と目を丸くするアイリスにサティナはふふん、と得意げな顔をする。
その笑みと駄、と付け足した時の嫌そうな不貞腐れた顔はまさしくあの時代、あの時間に存在したサティナだった。
「……なん、で?」
「なにぼーっとしているのよ、アイリス。しっかりなさい。いつか私、貴方に言わなかったかしら。神の制約がある、と伝えた気がするのだけど」
「神の制約、でございますか――主様……耳にした気も致しますが。それがどんなものかまでは理解が、その……」
過去に来てくれたのだろうか。
未来の女神様が? 人であるアイリスにはまったく想像のつかない出来事に唖然とするしかできない。
制約とは何だろう。
サティナがあのクマさんを燃料にしてかつて失った力を取り戻したことに理由がある?
だとしたら、神という存在は一体……?
「ぼけーっとしてないの、駄司祭!」
「駄司祭って、そんな酷いっ!」
「ひどくないわよ。さんざん、駄女神って馬鹿にしたんだからお返しだわ。神は時間や空間には左右されないの。どの時間にも存在し、どの空間にも存在する。ただ、生きている時空が――場所が貴方たちの生きている場所とは少しだけ違うのよ。そう、建物の二階と三階のようにね。貴方たちは二階で、わたしは三階。二階を好きに覗けるし、好きに行き来もできる」
「あっ! じゃあ――力を制限されたら二階と少しばかり上にしか行けないから……?」
ま、そんなところねとサティナはうなずき、
「それでも自在に歴史改変は許されないのよ? 貴方どうするつもりなの?」
「あ、そうです、それ! 許されなくても、行き来が許されている場所からの移動なら――可能でしょう?」
「それってまさかの――」
「はい、サティナ様。少しだけ、神々の道具を私的に利用させていただきます」
許可されている扉があるなら、願えばどこにでも行けるのなら。
それを行った後に好きに戻りたいと願えば戻れるようにすることだって可能だと思いません?
例えすこしだけ道連れが増えたとしても。
あの劇場からの出口。
それはすなわち、戻りたいと望んでから出れば、入り口にもなりえるはず。
人だって愚かではないんですよ、と不敵にアイリスはほほ笑む。
その背後には、見慣れた劇場の出口がゆっくりとその輪郭を現し始めていた。
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