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第八章
結界と女神と建国王
しおりを挟むあのねっ、とサティナは扉の閉まるのを恨めしそうに眺めながら叫ぶとアイリスの腕を振り払うようにして逃れていた。
「なんてことするの、貴方は!」
「別に問題はないかと思いますけど」
「問題は山ほどあるわよ! 私、これじゃ出れないじゃないの!」
しれっとした顔でアイリスはそう言い、これまでさんざん振り回されてきた報復が成功したとほくそ笑む。
ここに来てしまえばサティナといえど好きには出来ないのだ。
なぜかって?
それは自分が望んでサティナを引き込んだから。
いまこの時空を自在に行きできる扉はアイリスの意思で開閉する。
「ふふふっ、女神様ったら。そんなに慌てなくてもいいじゃないですか」
「何なのよ! もうっ。考えの無い信徒なんて大っ嫌い!!」
望めば現れるし、行きたい場所にも行ける。
でも、副次的にくっついて来た誰かの意思には反応しないのだ。
サティナがどこかに向けて開かれたその後、再度、あの映画館のような館内の出口から入らない限り、アイリスは好きにできてもサティナは囚われたままなのである。
「あら、そうですか。それは大変。でも、行き先はわたしに決めさせて頂きます。何か問題でも?」
「そんなにまでして恨みを晴らしたいの?! 私をそんなに憎んでいるの」
「いいえ、そんなには……あったりするかもですけど。もういいじゃないですか、やり直しができるのですから」
「そんな簡単に出来るはずないでしょうー、もう……歴史改変が言うほど簡単に出来るなら、苦労しないわよ」
サティナはそう叫ぶ。
それはそうだろうと、アイリスも思ったりする。
女神が時間にも空間にも何にも縛られないなら、ここから未来においてその力を回復するためにあんなこと仕組んだりしないだろうから。
とはいえ、ここにいるサティナ様は失った力を回復したまま未来から過去にやって来た訳で。
この矛盾を解決するのはやっぱり、この扉のような別世界、次元が違う空間の存在だとアイリスは思っていた。
「ねえ、サティナ様。神様って本当は現世に来るときもそうですけど。身体が二つあったりしません?」
「……えっ」
言われてサティナはどきりとした顔つきになる。
ついでに、とアイリスは付けくわえた。
「未来、いくつか見えてますよね? 人間とか現世の存在には見えない道というか。数本の未来に通じる道、見えてますよね。それもこの道をいけばどうなるか、そんな未来まで」
「しっ、知らないっ……」
「見えてるのに、どうして選んだんですか。あの時、そう……妹様の代わりに湖に沈められたあの時。どうして、未来を読み間違えたんです?」
「知らないっ! そうなったんだから、仕方ない……じゃない……」
「それって、神封じの結界が原因ですよね、違います?」
「だから知らないってば! 勝手に想像していなさい」
ふうん、そうですか。
アイリスは面白そうに笑い、そして付け加えた。
「サティナ様。我が国の建国王に頼まれたとかじゃなくて……騙されてません? ある意味、神様を封じる結界みたいなもので縛られていたんじゃないですか? だから――魔王陛下も我が国には手を出さない。もし、サティナ様が滅びるようなことがあれば神々と魔族との戦争になるから。違います?」
「……」
「今なら、その運命。変えれるかもしれませんよ」
ふふっと悪い笑みをこぼすアイリスのささやきがサティナの心を誘惑する。
女神はその言葉にハッと、俯いていた顔を上げた。
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