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第九章
聖女の本心
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「会いたくないの」
「そうなの。珍しいこともあるわね」
大神官が入室するまでの間、二人は今夜の計画を練り始める。
ケイトの婚約者は二歳年上の十六歳。
本来ならあと二年学院に残り、博士号を得るほどの逸材だったが、それも実家を継ぐという点では致し方ない。
貴族の責務はまず、実家を盛り立てることにあるからだ。
その意味では、ヴィクターには華やかな未来が待っている。
「ケイトはどうなのよ。男爵位を継ぐんでしょ、ヴィクター。さっさと結婚すればいいのに」
「馬鹿ね、アイリスは」
「何でよー?」
「片方は王国の学院にまで来て、途中で自主退学。片方は恋路を全うするために退学。世間体ってものを考えて欲しいわね。それに、めんどくさい侯爵令嬢が結婚するまでは、侍女としてその下を去る訳にもいかないでしょう」
めんどくさい。
はっきりとそう口にするケイトが一番、めんどくさい。
まあ、それはさておき、アイリスはどうにも気が乗らない。
この時代の我が婚約者様――アズライルは二十四歳。
十も年下の少女を前にして、愛をささやこうなんて馬鹿な真似はしないだろう。
「そーね。嫌なのよ……他人に取られているままなのに、それに会いに行くのが。嫌なの」
「だったら取り返せばいいのに。矛盾してるわー、いつものことだけど」
「そう思ってくれたら有難いわ。今夜はなるべく貴女とヴィクターが彼の気を逸らしてくれることを祈ってるんだけど」
「……彼の気分次第かも?」
多分、ヴィクターは詳細を告げれば手伝ってくれるだろう。
自分が王太子をすげなくして、いまの側妃の方がいい。そう言わせれば、物事はうまくいくのだ。
アイリスは殿下からそう叱られたから、婚約解消したいです。
そんな言い訳が成立する。
「どうか気分次第にうまくいくことを祈りたいわ」
「さあ? 彼に頼んでみたらどう」
「……そうする。後はお父様、かな……」
父親の侯爵は下院で権力を手中に収めたいがために、娘を王太子の婚約者に推したのだ。
その縁が切れるとなると、絶対に良い顔はしないに違いない。
しかし、今回のすべての原因は王太子の浮気とか、側妃がいるとかそういうものではない。
彼が、結婚式前夜のあの夜に。
女伯爵を抱き寄せながら、『他に正妃』を探すことにした、と言い出したことがアイリスの怒りに火をつけさせたのだ。
そのふざけた思考を彼に思わせた原因も分かっている。
「あの聖女様をぶん殴ってやるわ」
「……? 何か言った?」
「何でもない」
聖女はこの時期、サティナとの連絡が取れなくなったのをいいことに、帝国のサティナ神殿にいる恋人の神官を、次代の大神官に迎えようと画策していた。
あれがすべての悪の根源なのだ。
ようやく過去を蹴り倒してやり直すことができるチャンスが回って来た。
アイリスは静かにほくそ笑むのだった。
「そうなの。珍しいこともあるわね」
大神官が入室するまでの間、二人は今夜の計画を練り始める。
ケイトの婚約者は二歳年上の十六歳。
本来ならあと二年学院に残り、博士号を得るほどの逸材だったが、それも実家を継ぐという点では致し方ない。
貴族の責務はまず、実家を盛り立てることにあるからだ。
その意味では、ヴィクターには華やかな未来が待っている。
「ケイトはどうなのよ。男爵位を継ぐんでしょ、ヴィクター。さっさと結婚すればいいのに」
「馬鹿ね、アイリスは」
「何でよー?」
「片方は王国の学院にまで来て、途中で自主退学。片方は恋路を全うするために退学。世間体ってものを考えて欲しいわね。それに、めんどくさい侯爵令嬢が結婚するまでは、侍女としてその下を去る訳にもいかないでしょう」
めんどくさい。
はっきりとそう口にするケイトが一番、めんどくさい。
まあ、それはさておき、アイリスはどうにも気が乗らない。
この時代の我が婚約者様――アズライルは二十四歳。
十も年下の少女を前にして、愛をささやこうなんて馬鹿な真似はしないだろう。
「そーね。嫌なのよ……他人に取られているままなのに、それに会いに行くのが。嫌なの」
「だったら取り返せばいいのに。矛盾してるわー、いつものことだけど」
「そう思ってくれたら有難いわ。今夜はなるべく貴女とヴィクターが彼の気を逸らしてくれることを祈ってるんだけど」
「……彼の気分次第かも?」
多分、ヴィクターは詳細を告げれば手伝ってくれるだろう。
自分が王太子をすげなくして、いまの側妃の方がいい。そう言わせれば、物事はうまくいくのだ。
アイリスは殿下からそう叱られたから、婚約解消したいです。
そんな言い訳が成立する。
「どうか気分次第にうまくいくことを祈りたいわ」
「さあ? 彼に頼んでみたらどう」
「……そうする。後はお父様、かな……」
父親の侯爵は下院で権力を手中に収めたいがために、娘を王太子の婚約者に推したのだ。
その縁が切れるとなると、絶対に良い顔はしないに違いない。
しかし、今回のすべての原因は王太子の浮気とか、側妃がいるとかそういうものではない。
彼が、結婚式前夜のあの夜に。
女伯爵を抱き寄せながら、『他に正妃』を探すことにした、と言い出したことがアイリスの怒りに火をつけさせたのだ。
そのふざけた思考を彼に思わせた原因も分かっている。
「あの聖女様をぶん殴ってやるわ」
「……? 何か言った?」
「何でもない」
聖女はこの時期、サティナとの連絡が取れなくなったのをいいことに、帝国のサティナ神殿にいる恋人の神官を、次代の大神官に迎えようと画策していた。
あれがすべての悪の根源なのだ。
ようやく過去を蹴り倒してやり直すことができるチャンスが回って来た。
アイリスは静かにほくそ笑むのだった。
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