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第九章
厄災との再会
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学院の講義は神学の後も、夜の二十時までびっしりと続く。
朝は遅めの十時から二十時まで。
約十時間の講義の合間の休憩はあまりなくて、長くて昼休憩の一時間程度。
早朝は神学の課外授業というか、王国のしきたりとして太陽に向かい女神サティナに捧げる礼拝がある。
それは各家庭で行うから別に学院にいなくてもいい。
いいが、ここは全寮制である。
あるからにして―……卒業までの十年間は、朝は十時からではなく、正しくは八時から始まるということになる。
「……今回はどうにかやり過ごせたわねー」
「呆れた人」
先日、失態を演じたアイリスは最前列に座らされていた。
もちろんケイトも同罪で。
大神官の太い眉の下から覗く眼光は鋭い。
見えているのか見えていないのか分からないような彼の瞳の色は、意外にも澄んで綺麗な緑色だった。
「今度はきちんと聞こえているのかしら」
「は? 何の話?」
「ううん、なんでもないの」
前の時間軸で王太子が正妻を他に迎えると話した理由は、政治的な問題いがいにもっと根源的なもの。
大神官と聖女の二人が女神様からの神託を受ける。
それが同時にできなくなったから、この王国は狂い始めた。
遥かな昔に移動したサティナがきちんと現代に――この時間軸に戻ってこれていたとすれば……。
いまの大神官も聖女も神託を受けていることになる。
「本当にそうなっていてくれたらわたしの心配も、単なる気苦労で済むんだけど」
「心配? 殿下に会うことが嫌なの、アイリス」
「え、ああ。そう! ……苦手なの。年腕だし、他の女性に愛をささやいているし、わたしを見てくれないから」
「ああ……それは確かに――辛いわね」
昼休憩の始まりだと思うと少ししか入れてこなかったお腹がグーグーと存在感を示す。
王太子が自分を見てくれないことが何よりも辛い。
そんな言い訳じみた嘘のような言葉を聞いて、意外にもケイトは賛同してくれた。
ついでに、
「もし、彼がそんなことをしたら――生かしておかないわ」
と、背筋が凍るような一言を付け加えて。
昼の休憩が終わり、お腹も満足したあとの大神官の講義は、ほどよい催眠効果をもたらす魔の講義の時間でもあるのだ。
五歳で王太子妃補になることが決まり、その翌年に学院に入学したころにはサティナに全てを捧げたいと母親に誓った少女は、史上最年少で司祭の地位に登り詰めてしまう。
十四才の頃になんてもう神学のすべてを修めるどころか、サティナに直接学んで更なる奥義に達していたアイリスだ。
本当はさっきのような講義なんて、復習のそのまた復習の。
知識に歪みが無いかどうかを確かめる程度にしかならなかった。
「それだけケイト。どこで恋人と落ち合うの?」
「街中よ。学院の外……寮からは許可を得ているから問題ないわ」
「つまり……」
「そう。外泊するってことよ」
それは裏を返せばケイトからのしっかりやりなさいよと言う、意思表示であり……。
あの女伯爵から、身体を張ってでも殿下を奪い返しなさいという、逃げることができない最悪の夜の始まりを示していた。
朝は遅めの十時から二十時まで。
約十時間の講義の合間の休憩はあまりなくて、長くて昼休憩の一時間程度。
早朝は神学の課外授業というか、王国のしきたりとして太陽に向かい女神サティナに捧げる礼拝がある。
それは各家庭で行うから別に学院にいなくてもいい。
いいが、ここは全寮制である。
あるからにして―……卒業までの十年間は、朝は十時からではなく、正しくは八時から始まるということになる。
「……今回はどうにかやり過ごせたわねー」
「呆れた人」
先日、失態を演じたアイリスは最前列に座らされていた。
もちろんケイトも同罪で。
大神官の太い眉の下から覗く眼光は鋭い。
見えているのか見えていないのか分からないような彼の瞳の色は、意外にも澄んで綺麗な緑色だった。
「今度はきちんと聞こえているのかしら」
「は? 何の話?」
「ううん、なんでもないの」
前の時間軸で王太子が正妻を他に迎えると話した理由は、政治的な問題いがいにもっと根源的なもの。
大神官と聖女の二人が女神様からの神託を受ける。
それが同時にできなくなったから、この王国は狂い始めた。
遥かな昔に移動したサティナがきちんと現代に――この時間軸に戻ってこれていたとすれば……。
いまの大神官も聖女も神託を受けていることになる。
「本当にそうなっていてくれたらわたしの心配も、単なる気苦労で済むんだけど」
「心配? 殿下に会うことが嫌なの、アイリス」
「え、ああ。そう! ……苦手なの。年腕だし、他の女性に愛をささやいているし、わたしを見てくれないから」
「ああ……それは確かに――辛いわね」
昼休憩の始まりだと思うと少ししか入れてこなかったお腹がグーグーと存在感を示す。
王太子が自分を見てくれないことが何よりも辛い。
そんな言い訳じみた嘘のような言葉を聞いて、意外にもケイトは賛同してくれた。
ついでに、
「もし、彼がそんなことをしたら――生かしておかないわ」
と、背筋が凍るような一言を付け加えて。
昼の休憩が終わり、お腹も満足したあとの大神官の講義は、ほどよい催眠効果をもたらす魔の講義の時間でもあるのだ。
五歳で王太子妃補になることが決まり、その翌年に学院に入学したころにはサティナに全てを捧げたいと母親に誓った少女は、史上最年少で司祭の地位に登り詰めてしまう。
十四才の頃になんてもう神学のすべてを修めるどころか、サティナに直接学んで更なる奥義に達していたアイリスだ。
本当はさっきのような講義なんて、復習のそのまた復習の。
知識に歪みが無いかどうかを確かめる程度にしかならなかった。
「それだけケイト。どこで恋人と落ち合うの?」
「街中よ。学院の外……寮からは許可を得ているから問題ないわ」
「つまり……」
「そう。外泊するってことよ」
それは裏を返せばケイトからのしっかりやりなさいよと言う、意思表示であり……。
あの女伯爵から、身体を張ってでも殿下を奪い返しなさいという、逃げることができない最悪の夜の始まりを示していた。
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