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第二章
数学
しおりを挟む冒険者になるべく受ける試験とはどんなものか。
実を言えば、不安がないわけではなかった。
しかし、やってみればどこも同じようなもので……。
「なるほどな、魔力量の有無や適性はあるにせよ……よくある冒険譚のようなレベルがどれほどや、魔法適正がどうのだの、秘められた特別な位階だの。そういうものは無いってことか」
「そりゃそうだろ? 勇者様だの聖女様だの魔王だの、この世界には色々といるらしいが、すべて神によってえらばれるか魔族なら力でのし上がるだろうし」
審査官の男はそう言って笑っていた。
魔石と呼ばれる自然に、もしくは魔物の体内から取り出され採掘されて加工されたその板に手を押し当てるととりあえずの魔力量や、現段階での限界などが浮かび上がるがそれも目安だという。
「魔力量や属性ってのはあってないようなもんさ。水の属性が強いやつがもしいるとするだろ?」
「ああ、それは例えば水の精霊に好かれやすいとかそういうものか?」
「あんたも魔法が使えるだろうが? 習わなかったのか?」
「いや――俺の国とこの国では違うのかとも思ってな。聞いてみた」
「そういうことな。属性はあくまで属性だ。水の精霊の加護を受けている水虎族にはかなわないし、炎の精霊の加護を受けている炎豹族にはかなわない。人の出来ることには限りがある。それを補うのが魔導――」
「つまり、道具と呪文によって補正し、魔法を発動させる工程を短縮化した魔導ってことか」
「正解だ。あとは剣と槍、銃にとま、いまの時代にはあまり使わないが弓矢の実技もある。馬術に、慣れているなら魔法の試験も受けて行くんだな。その前に――」
ダンっと、一枚の白い書類を審査官の男はラッセルの目の前に取り出した。
鉛筆に消しゴムをこれも丁寧に用意され、逃げれないんだなとラッセルは観念する。
「あのさ、文字は? 大陸が違えば……」
「問題ない。どんな大陸・種族でも理解できるように翻訳魔法がかけられている。文字を読めない、書けないやつはまずそれを習うところからだ。さ、頑張れよ?」
「苦手なんだよ、試験はさ」
「泣き言いうなよ、元軍人なら大丈夫だ。数学、地理、初歩的な文学、化学、その程度のもんだ。あ、カンニングはすぐにばれるからな?」
前回、テレパシーでつながる双子の獣人がそれを行い、不正行為で摘発されたのだという。
もう十年も数学なんて携わってねーよ!
ラッセルの心の叫びは虚しく真っ白な答案に消えて行った。
一時間後――
「へえ……なかなか。やるな?」
「どうだよ、結果は」
「数学が弱いが、合格だ。実技、どうする? 二日に分けてもいいぞ?」
「いいや、やらせてもらおう、是非にもだ!」
「なら――上階だ」
主のためとはいえ、一時間もの間酷使された脳細胞は凄まじいフラストレーションに晒されていた。上階に行く途中で見つけた売店で蜂蜜をカップ半分ほど求めるとそれを飲み干してラッセルは数学への憎しみを晴らすべく階段を上がったのだった。
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