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第二章
紅葬
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「それまで! ラッセル……強すぎるだろ。やりすぎだ……」
そんな声がかけられてようやくラッセルは木剣を腰に戻した。
審査官の男は勘弁しろよ、そう言い採用の印鑑を答案用紙に押してラッセルに渡してやる。
そこは空が抜けたようになっている闘技場で、紅い天空が真っ白な雲間から透けて見えていた。
天候も良く海がすぐそばにあるラズの夕焼けはとても壮大だと聞かれされ、アンナローズと飛行船で何周もしたから目に焼き付いている。
「何がやりすぎなんだ、えーと?」
「シャイロックだ」
「シャイロック審査官? 俺には何が問題なのか理解できないんだが?」
「これを見てもか?」
黒髪に豊かな口ひげを生やしたまだ三十代のシャイロックは、よく見ろこの様を。そう言い、両手を広げて闘技場を示して見せた。
「たかだか、団体戦? ああ、違うな。勝ち抜き戦だろ? 一対十……三か。途中からめんどくさくなって数えるのをやめたからな」
「模擬戦だぞ!? おまけに相手は白札以上! お前は黒札だろうが!」
黒に白?
確かここの冒険者の制度は……黒、緑、白、浅葱、赤、青だったか。
白以上で中堅。各貴族の騎士に取り立てられるのも、白以上だとさっきの講義で聞いた記憶がある。
そんな優秀な白が相手をしてくれると頑張ったのに。
ラッセルは逆に叱られて憮然としてしまった。
「仕方ないだろう? 俺の故国を笑ったんだ。銃士隊? それならさぞ強いだろうな、とからかいやがった。その――白以上の浅黄様がだ。こんなのが上位の冒険者で本当にいいのか? 品位を疑われるぞ?」
「……確かにこいつらの言動には問題がある。あとで会議にかけることを約束しよう。だがなあ……赤札のそれも炎豹族だぞ? 炎の精霊をその身に宿す獣人の攻撃を……お前、たかだか木剣で炎を切り裂くなんて……反則だろ、そりゃあ」
「そうか? 故郷じゃこの程度、普通だったんだがな。むしろ、竜騎兵になろうと思ったら、野生の飛竜……そんなに頭の良くない人語も介せない連中だが。あの程度は一人で退治できないとなあ……」
「どんな故郷だよ、お前の故国は……。獣人や魔族すらも加盟している枢軸連邦と互角に渡り合うルケイドの勇士なんて詩があるが、とんでもない強さだな」
「俺なんてまだかわいい方だがね?」
「ああ、もういい。今日をもってお前は赤札から始めろ。魔法をなんの防御魔法も施してない木剣で跳ね返す剣士なんて初めて見たぞ。信じられん……」
そうか、俺は赤札か。
これでもかなり手加減したんだがな?
故国の銃士隊――それも侯爵様直属の竜騎士なんて俺の比じゃないんだが。
紅の夕焼けに染まるその背中がまるで死神の様で――この夜、巷で噂になっていく紅葬のラッセルの異名が誕生した。
そんな声がかけられてようやくラッセルは木剣を腰に戻した。
審査官の男は勘弁しろよ、そう言い採用の印鑑を答案用紙に押してラッセルに渡してやる。
そこは空が抜けたようになっている闘技場で、紅い天空が真っ白な雲間から透けて見えていた。
天候も良く海がすぐそばにあるラズの夕焼けはとても壮大だと聞かれされ、アンナローズと飛行船で何周もしたから目に焼き付いている。
「何がやりすぎなんだ、えーと?」
「シャイロックだ」
「シャイロック審査官? 俺には何が問題なのか理解できないんだが?」
「これを見てもか?」
黒髪に豊かな口ひげを生やしたまだ三十代のシャイロックは、よく見ろこの様を。そう言い、両手を広げて闘技場を示して見せた。
「たかだか、団体戦? ああ、違うな。勝ち抜き戦だろ? 一対十……三か。途中からめんどくさくなって数えるのをやめたからな」
「模擬戦だぞ!? おまけに相手は白札以上! お前は黒札だろうが!」
黒に白?
確かここの冒険者の制度は……黒、緑、白、浅葱、赤、青だったか。
白以上で中堅。各貴族の騎士に取り立てられるのも、白以上だとさっきの講義で聞いた記憶がある。
そんな優秀な白が相手をしてくれると頑張ったのに。
ラッセルは逆に叱られて憮然としてしまった。
「仕方ないだろう? 俺の故国を笑ったんだ。銃士隊? それならさぞ強いだろうな、とからかいやがった。その――白以上の浅黄様がだ。こんなのが上位の冒険者で本当にいいのか? 品位を疑われるぞ?」
「……確かにこいつらの言動には問題がある。あとで会議にかけることを約束しよう。だがなあ……赤札のそれも炎豹族だぞ? 炎の精霊をその身に宿す獣人の攻撃を……お前、たかだか木剣で炎を切り裂くなんて……反則だろ、そりゃあ」
「そうか? 故郷じゃこの程度、普通だったんだがな。むしろ、竜騎兵になろうと思ったら、野生の飛竜……そんなに頭の良くない人語も介せない連中だが。あの程度は一人で退治できないとなあ……」
「どんな故郷だよ、お前の故国は……。獣人や魔族すらも加盟している枢軸連邦と互角に渡り合うルケイドの勇士なんて詩があるが、とんでもない強さだな」
「俺なんてまだかわいい方だがね?」
「ああ、もういい。今日をもってお前は赤札から始めろ。魔法をなんの防御魔法も施してない木剣で跳ね返す剣士なんて初めて見たぞ。信じられん……」
そうか、俺は赤札か。
これでもかなり手加減したんだがな?
故国の銃士隊――それも侯爵様直属の竜騎士なんて俺の比じゃないんだが。
紅の夕焼けに染まるその背中がまるで死神の様で――この夜、巷で噂になっていく紅葬のラッセルの異名が誕生した。
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