残念ですが、殿下。浮気ばかりするあなたには愛想が尽き果てました。これにて絶縁させて頂きます!~婚約破棄&国外追放?お好きにどうぞ~

和泉鷹央

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第二章

突撃

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 翌朝。
 早朝五時に起床するのはラッセルの日課だ。
 貴族令嬢の朝は早い。
 支度に礼拝、食事に移動、そして学院まで八時にはつかなければならない。
 そんな主よりも早く起き、遅く寝なければならないのが彼のこれまでの役割だった。

「はあ……二時間か」

 アンナローズは一晩中、しきりに何かをバタバタとやっていた。
 安普請のこのアパートでは壁が薄く、少しうとうとしたと思えば彼女の立てる物音に起こされて起こされて寝不足だ。
 俺、こんなに神経細かったかな?
 戦場では、爆音が鳴り響く中でも寝ていて図太い奴だと、仲間から言われた記憶だけが残っている。
 やはり、自分の心配も不眠には一役買っているのだろうとラッセルは思った。
 
「それだけ、お嬢様が心配なのかもしれん」

 もし彼女が自害するから殺してくれと、もしくは目の前で死ぬから見届けてくれと言われたらどうする?
 戦場では助からない戦友の命を、やすらぎを与えることで――刃を振るい、救ったこともあった。
 救ったはずなのに、正しいことをしたなんて思いはどこにもない。
 ただ、居心地の悪い何かがべっとりと手に張り付いてるだけだ。
 それは昨夜、アンナローズの部屋を後にした時に感じたものと同じ種類のものだとラッセルは気づく。
 
「まだあるんだ。道は……まだ」

 あと一つの道はある。それを選べばアンナローズも自分も生き残れるだろう。
 幸せなものになるか不幸の逃避行になるかはやり方次第。
 切り出すのはまだ早い気もしていた。それを選べばラッセルはもちろん、アンナローズと同様に王国に追われるからだ。
 ただし、今度はより深い仲にはなるだろうけど。
 そんなことをぼんやりと考えていると、まだ窓の外には薄闇が広がっていて三連の月も銀色の月を筆頭に西の空に沈もうとしていて太陽すら登っていない。

「もう一度寝るか」

 まだ残っているウイスキーを飲み干すと、ラッセルはベッドに寝そべって足を投げ出した。
 戦場のテントに設営されたあの薄っぺらい布製のマットレスよりももっといい。まともなそれの感触を味わっているとドカドカと歩いて廊下をこちらにやって来る足音がする。
 一歩一歩を踏みしめているから大きく重く聞こえるが、それは女性のものだろうと思われた。
 つまり――アンナローズだ。

「何だ―? 空いてるよ、お嬢様」

 ドンドンと勢いよくドアが叩かれて、返事を待つまでもなく現れたのはあられもない下着姿のアンナローズだった。
 ラッセルは一気に酔いがさめたその目で若くもみずみずしい美しさを誇るその肉体にくぎ付けになる。
 アンナローズはラッセルをベッドの上に認めると、遠慮なく室内に踏み込んできた――
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