彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

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第二話 侍女はのんびり屋

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「やっちゃった、かな」

 男の為に涙を流すなんて、何年ぶりだろう。
 王都で元彼と別れたのは三年前が最期だった気がする。
 恋愛を忘れて没頭した二級魔導師への昇格試験。
 それが実を結び、ようやく幸せを手に入れることができたと喜んだのも束の間の出来事。

 昨夜、盛大な裏切りに会ってしまい、それはもうもう情けないったらなかった。
 いいわ、それならそれでいい。
 裏切りをするなら、それだけの報復も期待してもらわないと割が合わない。あんな男の止めに泣くのはよそう。
 ついでに繰り言を言うのも……心がか細くなりそうで嫌だった。

「レイを起こしてそれから――」

 侍女を起こして――もう起きているかもしれないけれど。
 お湯を用意させないと行けないかな。
 そう思い、魔導で何とかならないかとも思って立ち止まる。

「無理。細やかなことは苦手だもの」
 
 さすがにこんな細やかな一部の汚れだけを溶かすような魔術は、わたしには使えない。
 がさつではないが、繊細な魔術は性格的に向いていないのだ。
 両手を挙げて肩をすくめると、天井を仰ぎ見てもう一人の親友の助けを借りることにした。

 そう、侍女のレイ、だ。
 祖父が王都で魔法学院に入学したわたしの為にと雇い入れた、十三歳年上の彼女とはもうすぐ十年の付き合いになる。
 気心の知れた年上の姉と呼んでもいい身近な存在だった。
 
「あの人たち溺れずに川から出られたかしら。もし、川面に入水していたらそのまま溺れてしまえばいいのに」

 なんて――人前で言えば絶対に褒められない一言を呟やきながら、部屋を出て廊下を左に。そのまま二階から階段を降りて階下に向かい、玄関脇の扉を数度ノックする。
 通いも含めて四人いる家人のうち、レイにはその部屋を与えていた。
 普段、我が家で一番先に起き、一番最後に眠りにつく侍女は今日も早起きで「はい、只今」なんて明るい返事と共に、扉を開けた。

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