8 / 62
第二話 侍女はのんびり屋
3
しおりを挟む
「やっちゃった、かな」
男の為に涙を流すなんて、何年ぶりだろう。
王都で元彼と別れたのは三年前が最期だった気がする。
恋愛を忘れて没頭した二級魔導師への昇格試験。
それが実を結び、ようやく幸せを手に入れることができたと喜んだのも束の間の出来事。
昨夜、盛大な裏切りに会ってしまい、それはもうもう情けないったらなかった。
いいわ、それならそれでいい。
裏切りをするなら、それだけの報復も期待してもらわないと割が合わない。あんな男の止めに泣くのはよそう。
ついでに繰り言を言うのも……心がか細くなりそうで嫌だった。
「レイを起こしてそれから――」
侍女を起こして――もう起きているかもしれないけれど。
お湯を用意させないと行けないかな。
そう思い、魔導で何とかならないかとも思って立ち止まる。
「無理。細やかなことは苦手だもの」
さすがにこんな細やかな一部の汚れだけを溶かすような魔術は、わたしには使えない。
がさつではないが、繊細な魔術は性格的に向いていないのだ。
両手を挙げて肩をすくめると、天井を仰ぎ見てもう一人の親友の助けを借りることにした。
そう、侍女のレイ、だ。
祖父が王都で魔法学院に入学したわたしの為にと雇い入れた、十三歳年上の彼女とはもうすぐ十年の付き合いになる。
気心の知れた年上の姉と呼んでもいい身近な存在だった。
「あの人たち溺れずに川から出られたかしら。もし、川面に入水していたらそのまま溺れてしまえばいいのに」
なんて――人前で言えば絶対に褒められない一言を呟やきながら、部屋を出て廊下を左に。そのまま二階から階段を降りて階下に向かい、玄関脇の扉を数度ノックする。
通いも含めて四人いる家人のうち、レイにはその部屋を与えていた。
普段、我が家で一番先に起き、一番最後に眠りにつく侍女は今日も早起きで「はい、只今」なんて明るい返事と共に、扉を開けた。
男の為に涙を流すなんて、何年ぶりだろう。
王都で元彼と別れたのは三年前が最期だった気がする。
恋愛を忘れて没頭した二級魔導師への昇格試験。
それが実を結び、ようやく幸せを手に入れることができたと喜んだのも束の間の出来事。
昨夜、盛大な裏切りに会ってしまい、それはもうもう情けないったらなかった。
いいわ、それならそれでいい。
裏切りをするなら、それだけの報復も期待してもらわないと割が合わない。あんな男の止めに泣くのはよそう。
ついでに繰り言を言うのも……心がか細くなりそうで嫌だった。
「レイを起こしてそれから――」
侍女を起こして――もう起きているかもしれないけれど。
お湯を用意させないと行けないかな。
そう思い、魔導で何とかならないかとも思って立ち止まる。
「無理。細やかなことは苦手だもの」
さすがにこんな細やかな一部の汚れだけを溶かすような魔術は、わたしには使えない。
がさつではないが、繊細な魔術は性格的に向いていないのだ。
両手を挙げて肩をすくめると、天井を仰ぎ見てもう一人の親友の助けを借りることにした。
そう、侍女のレイ、だ。
祖父が王都で魔法学院に入学したわたしの為にと雇い入れた、十三歳年上の彼女とはもうすぐ十年の付き合いになる。
気心の知れた年上の姉と呼んでもいい身近な存在だった。
「あの人たち溺れずに川から出られたかしら。もし、川面に入水していたらそのまま溺れてしまえばいいのに」
なんて――人前で言えば絶対に褒められない一言を呟やきながら、部屋を出て廊下を左に。そのまま二階から階段を降りて階下に向かい、玄関脇の扉を数度ノックする。
通いも含めて四人いる家人のうち、レイにはその部屋を与えていた。
普段、我が家で一番先に起き、一番最後に眠りにつく侍女は今日も早起きで「はい、只今」なんて明るい返事と共に、扉を開けた。
1
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる