彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

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第五章 騎士の誇りと折れた魔法剣

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 さて。
 わくわくしたとはいうものの、実際に鉱石ランプが煌々と輝き足元を照らす地下水道。
 古い時代の魔法使い達が作り出したこの永久機関は、どれほどの時が経過しても明かりを絶やすことはない。
 だからといってその場所に住み着いている人たちや、そう!
 人が住み着いているのだ!
 俗に言う浮浪者とか浮浪者とか浮浪者とか。
 犯罪者とか行き場をなくしたさまよえる旅人とか、税金が払えなくなり家や土地を奪われて、ここに逃げ込むしか方法のなかった農民達とか。
 そんな彼らにも法律というものがあって、この地下世界でも代表がいて権力者がいてそれに従わなければ待っているのは追放か死だ。
 奪うのは地上の民から。
 でも、水の管理者には手を出すな。
 それが彼らの不文律だった。

「まあそういう理由だから私も安全に地下深くまで潜ることができるんだけど――」
「よう、管理者さん! なんだよその格好は?」
「魔法使いの真似事……」
「今ってそんなお祭りの季節だったっけ?」

 などとこの地下に通うようになり、顔役と呼ばれる男性から紹介された案内人の一言に、わたしの顔はちょっと険しくなってしまう険しく。
 いくら半年間の付き合いで親しくなったとはいえ、やっぱりこの格好は奇妙に見えるのだ。
 イデアという名前の三十代後半の彼は聞いてはいけないことを聞いてしまったという顔をして、一言「すまない」と謝罪してくれた。

「ちょっと事情があるのよ。事情が」
「事情ね。まぁここにいる奴はみんないろんな事情を抱えてるけどな」
「それはそうだけど……仮装大会のお祭りの時期はまだまだ先だわ」
「間違いない。年末に近い真冬の夜でもボルダスの町は賑やかになるからなー」

 懐かしい思い出があるのだろう。
 イデアは遠いどこかを見るような目をしてそう言った。

「年末までまだまだ時間あるから、仮装大会のことはまた考えるわ」
「それがいい。つまるとこその恰好は何か意味があるって言うことかい?」

 わたしはうーん、と短くうなって、

「女には女の秘密があるのよ」
 
 と、言ってのけた。まさか侍女の要望を聞いてこんな格好をしたなんて、ちょっと恥ずかしくて言えなくて。
 女と秘密という特別な言葉で誤魔化すことにした。
 そうしたらイデアはさも面白そうにくっくっくと小刻みに笑ったのだった。

「女、女の秘密、ね。そういうことにしておこう気分転換も大事だ、婚約者と何かがあったとしても、な?」
「はあっ!?」
「いやいや何でもないよ。男の秘密さ」
「どこから耳にしたのよ! まだ誰も知らないと思っていたのにッ!」
「だってここは地下水路だぜ?」
「だから何よッ!」

 そう言うと彼はこの地下水路に外部からつながっている水の入り口を指さして言うのだった。

「あそこのさ、知ってるだろ。ワニとかグレイオルとか。そんな肉食の連中が入り口にわんさとたむろしてるっのにさ」
「グレイオル? あの一メートルほどもある、水牛でも喰いつくすような悪食の鋭い歯を持った淡水魚のこと?」
「そうそうそれだよそれ。その連中のど真ん中にさ、深夜に水の圧力に押し負けて流されてくる馬鹿がいるんだから笑えるだろ?」
「……あ」
「そう、魔導師さん。あんたの婚約者だったよ、女を連れて裸のまま流されてきたんだ、ここまでね。男の方は体のどこかに魔法っていうのかい、それを使えるようなものを仕込んでいたみたいで、食べられずに済んだらしいけど。女の方も彼に守られて九死に一生を得たって言うか、俺たちに助けを求めたって言うか。本当、傑作だったぜ」
「……そのまま野垂れ死にば、良かったのに……」
「おいおいひどい言い方だなぁ。ってこたあ、河に叩き込んだのは魔導師さんあんただったんだな」
「黙秘権を行使するわ」
「わかったそういうことにしておこう。俺たちは何も知らない、地上には関わらない。特にあんたに関してはここの客人だ。噂は流さないし名誉は守るよ」
「是非そう願いたいわ」

 陰鬱だ。
 心をドキドキワクワクさせてやってきたらとんでもない現実にぶち当たってしまった。
 ラルクの馬鹿。
 そう心の中で叫んで、秘密を守るという彼の言葉を信じながら、わたしはさらに地下に降りる入り口へと足を向けたのだった。

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