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第八章 裏切り者の親友
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しおりを挟む「知りたい?」
「知らないっ――そんな運河なんて地下水道なんて――知らないっ!」
「へえ、そうなんだ。そっか、あれはわたしの勘違いかなあ? でも、素っ裸で水から上がって来た貴族令嬢とかー、とっても魅力的ね。大勢の人に見られて恥をかいたどころじゃ済まなかったんじゃない?」
「知らないって言ってるじゃないの! 私には関係ないっんだから――」
顔真っ赤に上気させ、頬をこれでもかというくらい赤く染めてエリダは全身でもって否定する。
いや、その反応で肯定しているようなものなのだけど。
執事さんが堪え切れない様子で、白手袋をした片手を口元にあてて、うつむきながら肩を震わせているのがとても可愛いかった。
対照的にエリダはもうこれ以上耐えられないという顔をして、今にもわたしに食ってかかってきそう。
衆目の面前でこれ以上彼女に恥をかかせるのは可哀想かもしれない。
いや、彼女にはどうでもいいことなんだけど。
彼女の実家を敵に回すことはあまり賢くない。
伯爵家はこのボルダスの街の名士で、ヘタをすれば領主以上の権限を気にしているから。
「あら、そう。まあ、どうでもいいわ。それよりも、何の御用なの?」
と、エリダではなく執事さんに向かい、わたしは質問した。
主人の娘は怒りと焦りでまともな返事は帰ってこないだろう。
そう思ったからだ。
彼は笑うのをやめ、コホンっ、と咳払いを一つ。
年齢層に落ち着いた雰囲気を取り戻すと、
「忘れ物を取りに参りました」
「忘れ物?」
「はい。昨夜、お嬢様がそちら様のパーティーに参加した際、何か置き忘れたものがございませんかと、そう思いまして」
「あー……。あったかもしれませんね。侍女がそのような報告をしてきたと思います。ええ」
中身は知らないがあったような気がする。
適当にそうぼかして返事をすると、彼は是非、それを持ち帰りたいと申請した。
まあ持ち帰ると言うか、こちらから届ける予定だったんだけれど。
持って帰ってくれると言うなら、わざわざ相手を訪れる手間が省けるというもの。
「どんな品物なったかはご存知ありませんか?」
「中身でございますか」
「そう」
「それは……」
と、執事さんは口ごもる。
やはり彼は昨日の夜に何があったかということをある程度、知っているらしい。
それはつまり――わたしの婚約者と彼の主の娘が不貞の仲にあった。
暗にその可能性を示唆することにもなり、彼としてはなるべく穏便に済ませたいのだろう。
もしかしたらそれが、伯爵様の意思なのかもしれない。
違ったら困るので、一応、言質だけは取っておく。
「伯爵様は昨夜の一件をご存知ですか?」
「は? あ、いえ……それは――」
「こちらとしては忘れ物どうこうにあまり興味はございません。ただ、昨夜は我が婚約者もエリダ様と同時刻にこの屋敷からお帰りになられ、その際、幾つかの忘れ物をなさいましたので」
「――ッ! それはあなたがっ――!」
「お嬢様」
「……」
あなたが何?
わたしより頭一つ低いエリダを見下ろしながら、静かな怒りを持って威圧するとエリダは逆に血走った眼でこちらを睨みつけてくる。
その瞳には怒り、憎しみ、誇り高い貴族のプライドを踏みにじられた逆恨みと、身分がしたの存在に対しての高圧的な恫喝。
色々な感情が読み取れてなかなかに面白い。
叫ぼうとした彼女は執事さんの静かな制止に口を閉じた。
その鋭すぎる凍てつくような視線はこちらを見据えたままに。
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