彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

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第十章 教会と婚約破棄

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 シスターが差し出してくれたランタンを受け取り、そのまま教会の裏側に続く建物へと足を運んだ。
 教会は講堂のような巨大な中が空洞になった造りで、裏側にある市庁舎は三階建ての大理石作りの建物だ。
 火災などがあったとしても、貴重な資料は残されているように思える。
 まあ、過去にどんな火災があったかなんて、わたしは知らないけど。

「確か、資料庫は一番上の階だったはず」

 中心に螺旋階段がどんっと、建物の中央に据え付けられている。
 これを登るのがまた一苦労で、外側から浮遊の魔導で三階まで行けば楽なのに。
 昼やれば怪しい人だし、夜やれば明らかに盗賊だ。
 矢を射かけられても文句は言えない。
 
「登りますか……。なんだか朝からずっと上に上がったり下に降りたりしてるような気がする」
 
 しんと静まり返った建物の中に、わたしの声が反響して降りて来る。
 二階まで上がると、踊り場がありそこから自分の邸宅がある道が上から望むことが出来た。
 コの字型になった行政に関わる組織が多く集まる我が家の周辺にはそんな店は少ない。
 でも、教会には夜と朝。二度の礼拝があり、その夜の部は風俗であったり水商売であったりする。
 そんな商売に身を置く者たちが心の悲しみや苦しみを吐き出せる、重要な場所。

「あっちもあっちで本当に昼間みたいね」

 西の空を下から煌々と照らす人工の明かりが見て取れる。
 風俗街だ。
 そこで働く女性たちを勤務前に受け入れる夜の教会はまるで異世界で、そんな中に貴族のわたしが入っていくのは正直、心苦しいものがある。
 そこは夜の世界。
 男女の口にはできないような色濃いやお酒や欲望が色めく、そんな華やかのようで実際はどす黒く醜さの目立つ世界。
 まあ、どす黒くて醜いのは社交界の方が、酷いのは否めないけど……。

「彼の家って……」

 なぜだろう。
 西の方角と考えると、そこには騎士団の宿舎がある。
 宿舎にはラルクの部屋があって、彼はそこに寝泊まりしているのは当然のことで。
 わたしと彼の家の間には、なんと色街が当たり前のように存在していたのだ。
 いや、知っていたのだけれど、今更ながらに聞くことなんだか空しい思いが心の中にこみ上げてきた。
 彼もあそこで遊んできたんだろうか。
 朝早くこれまで私の家にやってきた時に、お酒と他の女性の匂いと汗臭い感覚。
 それをまとまりつかせて、彼と騎士団の彼の友人たちが数人、我が家にやってきたことが、数回ある。
 繁華街で酔い過ぎて、このままでは宿舎に戻れない。 
 そんな理由で風呂を浴び、質屋で適当な服を借りて、帰って行ったことが数回。
 そんな記憶思い出して、まさか……? と、騙されていたことを知るわたしだった。
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