49 / 62
第十章 教会と婚約破棄
2
しおりを挟む
シスターが差し出してくれたランタンを受け取り、そのまま教会の裏側に続く建物へと足を運んだ。
教会は講堂のような巨大な中が空洞になった造りで、裏側にある市庁舎は三階建ての大理石作りの建物だ。
火災などがあったとしても、貴重な資料は残されているように思える。
まあ、過去にどんな火災があったかなんて、わたしは知らないけど。
「確か、資料庫は一番上の階だったはず」
中心に螺旋階段がどんっと、建物の中央に据え付けられている。
これを登るのがまた一苦労で、外側から浮遊の魔導で三階まで行けば楽なのに。
昼やれば怪しい人だし、夜やれば明らかに盗賊だ。
矢を射かけられても文句は言えない。
「登りますか……。なんだか朝からずっと上に上がったり下に降りたりしてるような気がする」
しんと静まり返った建物の中に、わたしの声が反響して降りて来る。
二階まで上がると、踊り場がありそこから自分の邸宅がある道が上から望むことが出来た。
コの字型になった行政に関わる組織が多く集まる我が家の周辺にはそんな店は少ない。
でも、教会には夜と朝。二度の礼拝があり、その夜の部は風俗であったり水商売であったりする。
そんな商売に身を置く者たちが心の悲しみや苦しみを吐き出せる、重要な場所。
「あっちもあっちで本当に昼間みたいね」
西の空を下から煌々と照らす人工の明かりが見て取れる。
風俗街だ。
そこで働く女性たちを勤務前に受け入れる夜の教会はまるで異世界で、そんな中に貴族のわたしが入っていくのは正直、心苦しいものがある。
そこは夜の世界。
男女の口にはできないような色濃いやお酒や欲望が色めく、そんな華やかのようで実際はどす黒く醜さの目立つ世界。
まあ、どす黒くて醜いのは社交界の方が、酷いのは否めないけど……。
「彼の家って……」
なぜだろう。
西の方角と考えると、そこには騎士団の宿舎がある。
宿舎にはラルクの部屋があって、彼はそこに寝泊まりしているのは当然のことで。
わたしと彼の家の間には、なんと色街が当たり前のように存在していたのだ。
いや、知っていたのだけれど、今更ながらに聞くことなんだか空しい思いが心の中にこみ上げてきた。
彼もあそこで遊んできたんだろうか。
朝早くこれまで私の家にやってきた時に、お酒と他の女性の匂いと汗臭い感覚。
それをまとまりつかせて、彼と騎士団の彼の友人たちが数人、我が家にやってきたことが、数回ある。
繁華街で酔い過ぎて、このままでは宿舎に戻れない。
そんな理由で風呂を浴び、質屋で適当な服を借りて、帰って行ったことが数回。
そんな記憶思い出して、まさか……? と、騙されていたことを知るわたしだった。
教会は講堂のような巨大な中が空洞になった造りで、裏側にある市庁舎は三階建ての大理石作りの建物だ。
火災などがあったとしても、貴重な資料は残されているように思える。
まあ、過去にどんな火災があったかなんて、わたしは知らないけど。
「確か、資料庫は一番上の階だったはず」
中心に螺旋階段がどんっと、建物の中央に据え付けられている。
これを登るのがまた一苦労で、外側から浮遊の魔導で三階まで行けば楽なのに。
昼やれば怪しい人だし、夜やれば明らかに盗賊だ。
矢を射かけられても文句は言えない。
「登りますか……。なんだか朝からずっと上に上がったり下に降りたりしてるような気がする」
しんと静まり返った建物の中に、わたしの声が反響して降りて来る。
二階まで上がると、踊り場がありそこから自分の邸宅がある道が上から望むことが出来た。
コの字型になった行政に関わる組織が多く集まる我が家の周辺にはそんな店は少ない。
でも、教会には夜と朝。二度の礼拝があり、その夜の部は風俗であったり水商売であったりする。
そんな商売に身を置く者たちが心の悲しみや苦しみを吐き出せる、重要な場所。
「あっちもあっちで本当に昼間みたいね」
西の空を下から煌々と照らす人工の明かりが見て取れる。
風俗街だ。
そこで働く女性たちを勤務前に受け入れる夜の教会はまるで異世界で、そんな中に貴族のわたしが入っていくのは正直、心苦しいものがある。
そこは夜の世界。
男女の口にはできないような色濃いやお酒や欲望が色めく、そんな華やかのようで実際はどす黒く醜さの目立つ世界。
まあ、どす黒くて醜いのは社交界の方が、酷いのは否めないけど……。
「彼の家って……」
なぜだろう。
西の方角と考えると、そこには騎士団の宿舎がある。
宿舎にはラルクの部屋があって、彼はそこに寝泊まりしているのは当然のことで。
わたしと彼の家の間には、なんと色街が当たり前のように存在していたのだ。
いや、知っていたのだけれど、今更ながらに聞くことなんだか空しい思いが心の中にこみ上げてきた。
彼もあそこで遊んできたんだろうか。
朝早くこれまで私の家にやってきた時に、お酒と他の女性の匂いと汗臭い感覚。
それをまとまりつかせて、彼と騎士団の彼の友人たちが数人、我が家にやってきたことが、数回ある。
繁華街で酔い過ぎて、このままでは宿舎に戻れない。
そんな理由で風呂を浴び、質屋で適当な服を借りて、帰って行ったことが数回。
そんな記憶思い出して、まさか……? と、騙されていたことを知るわたしだった。
1
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
追放聖女は、辺境で魔道具工房を開きたい ~ギルド末端職人ですが、「聖印」で規格外の魔道具を作ったら、堅物工房長に異端だと目をつけられました~
とびぃ
ファンタジー
「聖なる力を機械(まどうぐ)に使うとは何事か!」
聖女アニエスは、そのユニークすぎる才能を「神への冒涜」と断罪され、婚約者である王子から追放を言い渡されてしまう。
彼女の持つ『聖印』は、聖力を用いてエネルギー効率を100%にする、魔導工学の常識を覆すチート技術。しかし、保守的な神殿と王宮に、彼女の革新性を理解できる者はいなかった。
全てを失ったアニエスは、辺境の街テルムで、Fランクの魔道具職人「アニー」として、静かなスローライフ(のはず)を夢見る。 しかし、現実は甘くなく、待っていたのは雀の涙ほどの報酬と、厳しい下請け作業だけ。
「このままでは、餓死してしまう……!」
生きるために、彼女はついに禁断の『聖印』を使った自作カイロを、露店で売り始める。 クズ魔石なのに「異常なほど長持ちする」うえ、「腰痛が治る」という謎の副作用までついたカイロは、寒い辺境の街で瞬く間に大人気に!
だがその噂は、ギルドの「規格(ルール)の番人」と呼ばれる、堅物で冷徹なAランク工房長リアムの耳に入ってしまう。 「非科学的だ」「ギルドの規格を汚染する異端者め」 アニーを断罪しに来たリアム。しかし、彼はそのガラクタを解析し、そこに隠された「効率100%(ロス・ゼロ)」の真実と、神の領域の『聖印』理論に気づき、技術者として激しく興奮する。
「君は『異端』ではない。『新しい法則』そのものだ!」
二人の技術者の魂が共鳴する一方、アニエスの力を感知した王都の神殿からは、彼女を「浄化(しょうきょ)」するための冷酷な『調査隊』が迫っていた――!
追放聖女の、ものづくりスローライフ(のはずが、堅物工房長と技術革新で世界を揺るがす!?)物語、開幕!
豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。
下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。
豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。
小説家になろう様でも投稿しています。
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く
腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」
――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。
癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。
居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。
しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。
小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる