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第十章 教会と婚約破棄
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しおりを挟む神父様とこんなに早く対面できるとは予想外だった。
シスター達が彼に伝えてくれたのだろう。
時間はあまり無い。
そう思うと、彼女たちの気遣いがとても暖かいものだと感じた。
「ダーレク神父、お久しぶりでございます」
「はいお久しぶりです。とは言っても、先週末の……昨日のことになりますが、その席ではお会いできませんでしたな」
「ああ、そう――です、ね。少し色々とありまして」
「そうですか。心配は要りません、女神フォンティーヌ様は、どこにいても我らを見守っておられます」
どこか感傷的な声で、彼はそう言ってくれた。
その視線の先にあるのは窓ガラスの向こう。
夜空の遥か向こうに浮かぶ三連の月の一つ。
赤、青、銀。
そのうちの一つ、青い月の女神様。
名前をフォンティーナ様という。
知恵と正義の女神をこの教会は奉っている。
ありがたいことにその女神さまは法律の番人でもあるから、教会はどんな国のどんな場所にあっても公正な判断を求められるという。
おおよそ、他の宗教と比べて格段に透明性の高い。
そんな宗教法人だった。
ある意味で頭が固くて困る時もあるけれど……。
「そうですね、その女神様ですが……」
「はい、フォンテーヌ様がなにか?」
「ああいえ、フォンテーヌ様どうこうではなく……この教会はいつ頃からこの場所にありますか?」
「この場所? アルフリーダ様は不思議な質問をなされますな。この街に我が教会が出来たのは、ボルダスという地名のこの土地に、まだ村があった。そんな過去からあるとは聞いておりますが」
「そんなに古いんですねー。では、地下水道の歴史なども保管されておりますか?」
「地下水道? そういえばアルフリーダ様の管轄は、この街の水に関わることでしたな」
「ええ、そう。そうなんです」
さすが神父様。
最近、この街に戻ってきたわたしの仕事まで把握されているなんて、と感心してしまう。
自分もこれくらい仕事に対して熱心に打ち込むことが大事かな。
そう思っていたら、神父様は怪訝な顔して、顔を傾けていた。
「地下水道に関して何か問題がありましたか」
「あー……その、ええ。まあ……何といいますか。大きな問題があります」
「ふん? それはここで過去の事例を調べるような。そんなものですか」
「ええ、そうなのです。でも、いつぐらいからこの教会があるのかとか、どんな歴史を持っているのかとか。その辺りのことを、わたし、まるで知らなくて」
すいません、と付け加えて頭を下げるわたし。
王都の歴史なら詳しいのに、生まれ故郷のことに関してはまるで無知な自分が恥ずかしくなる。
ダーレク神父は、そっと首を振って否定してくれた。
「気にすることはありません。むしろ自分の生い立ちを知ることはとても大事なことです。過去においても未来においても、己を知ることはとても大事ですよ」
「己……?」
「自分の出自、という意味です。さて、それでは何をお探しか。教えていただけますか?」
「ああ、はい……」
言うべきか。
それとも自分である程度調べてからにするべきか。
言ってしまえば自分の無能さをさらけ出すような気がして。
それはどうにも情けなくて。
でも街のことを考えたら、愛していると言ってくれたイデアのことを考えたら。
自分のプライドなんてどうでもいい小さなことだと、割り切ることができた。
「実は地下水道に大きな異変が迫っているんです」
「大きな異変? 何ですかそれは!」
神父様は、ゴクリと喉を鳴らしてわたしの返事を待っていた。
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