彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

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第十一章 ドラゴンと氷の魔女

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 一時間。
 二人が集めた知識を紙に書き出して、それを照らし合わせ時系列に並べ替えることで全ての構成を把握する。
 何て言えば聞こえはいいけど、やってみたら案外簡単だった。

 どうしてこれをこれまでやってくれなかったんだろう。
 そんなぼやきまでわたしたちの口をついて出る。

「町の歴史を編纂するってもっと大事なんじゃないですかね」
「アルフリーダ様、昔の人々はそこまでこだわらなかったのかもしれませんよ」
「まあ、千年の歴史を紐解くなんて、よほどの趣味人じゃなきゃできないですからね。でも、一時間で終わったけど」
「いやいやそれは間違いです」
「間違い? どうしてですか?」

 神父様はわたしが祖父の記録をまとめた書類の束を、軽く持ち上げて見せた。

「まずあなたのおじい様によって、断片的にですが記録がなされました。それはあなたがまとめて――でも、それは全てドラゴンという単語に関してのものです。そこから私たちはさらに詳細なドラゴン関連する情報をここから抜き出しただけの話ですから。これはこの街の歴史のたった一部に過ぎないんですよ」
「それは確かにそうかも」
「さてようやく形になる物が見えてきましたね。これはこれで貴重な歴史の一ページとなるのですから」
「正しく書き出された一ページですね」

 出てきた出てきた。
 約百五十年周期でやつら、グラスドラゴンと呼ばれる土属性のドラゴンが、この街の地下には繁殖するらしい。
 繁殖するとは言ってもどこからやってくるのかはわからないみたい。
 生憎とおじい様がいた時には、彼らは繁殖しなかったので孫の世代でようやくそれが判明するかどうか。
 これは挑戦しがいのあるクエストだった。

「これ、グラスドラゴンってこの西の大陸の竜種でしたっけ……?」
「私の記憶では……いや、この記録を確かめたほうが早い」
 そう言うと、ダーレク神父は数枚の紙をめくり、「これだ」と、嬉しそうに小さな声をあげる。
「見つかりました?」
「ありましたこれですよ、これこれ」

 嬉しそうに紙をパン、と軽く叩いた彼はまるで幼い少年が宝物を見つけた時のような顔をしていた。
 一瞬、この後話をしなければいけない『彼』の、共に過ごした時間の記憶がよみがえる。

 あの人もこんな顔をしている時があったなあ、なんて。
 いつまで過去に振り回されるのアルフリーダ?
 わたしはそう、自分自身に問いかけていた。

「どこ原産です?」
「南の大陸は高原地方……魔王が支配する地域のようですね。ルダイナル山脈の地下深くに住むのだとか」
「南って……ここは西の大陸ですよ?」
「どんな方法でやってきたのか分かりませんが、まあ来れるのでしょうね。それとも、彼らが繁殖する。いや、繁殖しやすい環境が地下にはあるのかもしれない」
「繁殖はもういいです。とりあえず増えたらどうなるんですか」
「その部分の記述はあなたが読まれた通りですよ、アルフリーダ」
「ああ……やっぱりそうなんだ」

 本当はもっと別の何かがあって欲しかった。
 がっくりと肩を落としたわたしを見て、神父様はご愁傷様、と声をかけてくる。

 古い古い文献の中から探り当てたいくつかの事実。
 そこに書かれていたのは、あいつらはこれから二年に渡り、地下のあそこに住み着くのだという。
 おまけにその間……この街は大問題にさらされるのだ。

「水源。枯渇はしないけど、大量に濁るってどういうことですか」
「濁っているのはいつものことではないですか」
「いやそれはそうですけど、ああっもう!」
「運河の水が濁っているからこそ、あなたのような管理者が必要となるわけでして」
「祖先たちはそれでも生き抜いてきたって言わないで下さいよー? 濁り具合によっては、二級のわたしだけではどうしようもないこともあるんです」

 一級の彼らがやってきたら、わたしの職場なんてあっという間に奪われてしまう。
 魔導師はその等級に応じて、国王陛下から委任され、王国内外のさまざまな土地にある管理が必要な施設の維持管理を請け負う。

 だいたいは二級で事足りるけど、それでも無理な時は一級魔導師が出張ってきて色々な物事を解決する。
 一度彼らが出てくると、そこの施設は彼らの一族によってずっと管理されてしまう。

 無能な二級には任せることができない。
 そう言って笑いながら、彼らは二級魔導師の資産を根こそぎ奪っていくのが、魔導師界隈の常識。

「あなた達魔導師の慣習がどうかは知りませんが、それなら私に委任すればいいのでは?」
「は? ……紋章眼を持つ宣教師は、一級と同等かそれ以上の待遇と権利を保持する、でしたっけ?」
「そういうことです。あなたから一時的に私に対してこの案件を委任すれば宜しい。解決すれば、あなたに差し戻す。もしくは、教会が請け負うという形にすれば……」
「このボルダスの街にフォンテーヌ神殿の教会が、在り続ける限り……わたしの職場は安泰。そういうことですか」
「本当はそんなの駄目なんですけどね、あなたの祖父様にはいろいろとお世話になったこともありますので。まあそれはいいです、今から請け負うことにしましょう。そうすれば私も地下に合法的に降りていける」

 合法的?
 そう意味がよくわからず、わたしはきょとんとした顔をする。

「教会に行きたくても来れない人たちも、地下には存在しているということです。私も立場上なかなか降りて行くわけにいかなくてね」
「ああ……それなら四方が丸く収まりますね」
「あのドラゴン達の問題を解決できれば、という前提がつきますが」
「ええ……そうでした」

 まずはその問題から始めないと。
 神父様と二人で数時間、ああでもないこうでもないと話をまとめて、気が付けば三連の月は西の空に傾こうとしていた。

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