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おけいこのおけいこ

62 人身御供 かわいいレナを過酷なミッションに送り出す

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 レナがシャワーを浴びている間にSDカードが届いた。別荘地の本館にマネージャー宛で送られてきた封書の中に入っていたもので、マネージャーは自分宛だから当然開封したのだが、封書の中にさらに封書があり、それがスミレ宛だとわかるとそのまま衛兵の一人に持たせて届けてくれたのだ。彼らは実利的で計算高いが別荘地の利用者のプライバシーは厳格に守る。それが世界各国から来る富裕層の利用者に対しての自分たちの存在価値だと熟知しているのだ。

 シャワーから出たレナに、もう着ることもないだろう、自分が愛用していた夏用の奴隷服を渡した。丈の短い純白のサマードレスとお揃いの白いハンドバッグ。少しお尻周りがキツそうだったが、レナは喜んでそれを着てくれた。それに彼女のために用立てた新居のカギとアナル用のおもちゃも渡す。

「えーと、部屋の鍵、おもちゃ、スマホ、渡したよね。漏れは、ないかな、部屋の住所、地図に入力したね? 他には、無いね。これでよしと!」

「いろいろ、ありがとうございます」

「その服、似合うよ」

 スミレは両手をオーバーオールの腰にあててしげしげと可愛い後輩スレイヴを眺めた。腰回りがキツいせいで、たださえ大きなレナの尻が強調されスミレが身に着けたときよりもさらに肉感的に、セクシーな魅力が強調されていた。

「明日から毎日ここにきてパソコンで仕事の勉強しなさい。セキュリティーの解除と設定、覚えたね? わたしも時間取れれば来るから」

「え? 毎日来てくれるんじゃないんですか」

 不安げに見上げてくる眼差しが、また可愛い。

「あのね、これでもわたし、忙しいの。それにもう、結納もしたしね。いろいろあるのよ・・・下らないことが」

 自然に知れるまでレナにはタチバナのことは言わないでおくつもりだ。


 

 ミタライさんが車で迎えに来てレナが事務所を出ると、最後のミッションの準備に取り掛かった。

 パソコンを出して届けられたSDカードを挿入する。

 仮に本館のマネージャーがこの封書を開封してSDカードの中身を見ようとしても「このフォルダは空です」と表示される。中身を見るには専用ソフトが必要なのだ。

 情報はプログラム形式で記述されていた。1キロバイトの情報量もない。

 そのデータを復元すると、そこにはこう書かれていた。


 

 --ミッション概要--

 今回の戦略目標は次期防衛計画の純国産ICBM迎撃システム開発計画の阻止。

 戦術目標は国防省の審議官の国家機密漏洩疑惑とセックススキャンダルの演出。同時にターゲットを立件起訴させこれによって現政権にダメージを与え政権基盤の弱体化を図る。

 --ターゲットに関するデータ--

 ターゲットは、少女性愛(ペドフィリア)、肉体欠損性愛(アポテムノフィリア)、 加虐性愛(サディズム)の複合異常性癖の持ち主。過去に歓楽街のJKパブで知り合った女子中学生と関係していることが店の摘発から発覚し、キャリア官僚であることから上層部の指示で何とか表沙汰にならずにもみ消してもらったことがわかった。今回はその性癖を利用する。

--ミッション状況--

 すでにアクションチーム要員をターゲットと接触させることに成功。ターゲットに興味付けさせることに成功。現在、国防軍の人事異動に関する情報と引き換えにアクションチーム要員を要求させるべく作戦中。

 並行して国防省内のチームが取得したミサイル迎撃システムの開発情報をターゲットに関連付けるミッション実施中。具体的にはR国大使館員と接触中の証拠写真、または動画の撮影を行う。両ミッションとも、現場の写真、動画の記録を持って完了する。

 その後、成果物をITチームにて加工。同チーム及びマスコミチームにてリーク作戦を実施。これを持って全ミッションを終了する。

 以降、各ミッション開始の発令はアクションチームリーダーがこれを行う。

--以上--。


 

 これはこのミッションを遂行するために全チームに配布したブリーフィングシートだ。

 多分これを計画し行動中なのがサキさんだ。彼が「アクションチームリーダー」なのだから。

 そしてここでいう「アクションチーム要員」というのが、レナだ。いつの間にかスミレが知らないうちに彼女はもう、このミッションに関わっているのだ。そしてそのターゲットの役人に「見染められた」のだろう。役人は国家機密情報と引き換えに17歳の若いレナの身体を堪能するわけだ。

 だが、レナの身体と引き換えに彼に要求している人事情報などは取るに足りないネタだ。本丸は純国産迎撃システムの開発を阻止すること。その機密を盗み出し、あたかも審議官が関わったように工作し、これを漏洩させ、

「こんな杜撰な情報管理と気の緩んだ政府に巨額の国費を費やす事業は任せられない」

 そういう世論を作り上げる。

 おぞましいことだ。

 自分も過去に同じようなミッションを何度か経験したが、しかしこれはその比じゃない。明らかに、危険だ。この相手の男の「肉体欠損性愛者」というのが最も気にかかる。過度な暴行を加えて傷害を負わせるのを好む性癖、いわゆる加虐性愛だったりしたらレナの命に係わるかもしれない。その点は大丈夫なのだろうか。それにレナにはもうその危険性も話したのだろうか。彼女はそれを含めて承諾するのだろうか、あるいはもう、したのだろうか・・・。全てはこの後に来るだろうサキさんからの連絡次第だ。

 ともあれ、この段階でスミレがすべきことはそのミッションを実施する場所の検討、ミッション実施の際の協力者と実施後のケアを手配することだ。

 一抹の不安を抱きながら、スミレは準備をすすめた。

 

 

 ほどなくして工作活動中のサキさんから連絡があった。

「決行は2日後にする。明日から準備に入れ。ターゲットにお前の番号を伝えておいた。最寄り駅まで迎えに行ってやれ。レナとは今日から合流しろ。手筈が整ったら連絡しろ。以上だ。質問は」

「・・・レナは、承知なんですか?・・・。その、ミッションの内容を」

「知っている。相手も。どういうヤツかも。どういう危険があるかも、全て知っている。その上で彼女みずから志願しているんだ」

「・・・わかりました」

 ぶつっ。

 スミレは通話の切れたスマートフォンをいつまでもじっと見つめた。


 


 

 街の外れにある時間貸しのフォトスタジオを半日全室借り切った。

 三面全てが真っ白の壁に囲まれたスタジオに施術用のベッドを持ち込み、全裸のレナが腹ばいになってオイルマッサージを受けている。スミレはそれを見守りつつ、レナの衣装や小道具をチェックする。マッサージをしているのも衣装小道具を持ってきたのも、みんな「大工さん」のチームに所属する女性スタッフだ。彼らはモノだけでなく、人間も創る。

 幼女趣味のあるターゲットに合わせるために何種類かのセーラー服を持ってきてもらった。それに赤い縄や黒々としたディルドやいくつかの革の枷も並べられた。

 普通のエステティックサロンなどにすると関わる人間が多すぎる。ホテルの部屋も、何人もが集まると不審に思われる。ここなら様々なスタッフが出入りしても目立たない。極力人目につかないようにするためにこういう場所を選んだのだ。製品の発売まで絶対極秘という商品のCM撮影などで、こういう情報管制をすることはままある。だからスタジオの管理者も「全室貸し切り」をさして驚かなかった。

 レナは目を瞑り気持ちよさげに施術を受けている。

 とろとろにリラックスさせられた後、保湿クリームを丹念に、股間にまで塗り込まれているうちに高まってしまったのだろう。可愛い吐息を漏らし始め、スミレを頼りなげな眼差しで見上げてきた。手足の爪にもやすりが掛けられ、エナメルと赤いペディキュアが施されているあいだに、肛門の周りをクリームを塗った指が這った。周りだけでなく、その指がアナルの中にまで侵入すると、たまらずに眉根を寄せる。ある程度はおもちゃで練習したと見える。

 指と足が接触しないように仰向けにされ、前の方にもオイルが塗られ丹念なマッサージがされ始めると、もうハッキリと快感に悶える表情になったレナが甘い嬌声を上げ始める。

「ああ、・・・ああん、あ・・・、あ・・・あん」

 施術をするスミレより少し年上らしい白衣の女性はレナの反応をまったく意に介さずに黙々と手を使いレナの肌を耕し宥めてゆく。

「現場の準備、OKね? 録画も含めて。それが無いと今回のミッション、無意味だよ」

「大丈夫。絶対に素人にはわからないようにカモフラージュしてある。電波状態のテストもした」

 衣装を持ってきたこれも少し年上らしい黒いスーツの女性に小声で確認する。レナに聞こえないように。

「メディカルチームの手配、抜かりないわよね」

「明日の朝10時に配置につく」

「15時35分着になる。アシスタント、駅に迎えに来てくれるのよね?」

「それも大丈夫。南口の九条のほうでいいのね。黒い箱バンだから。ナンバーは・・・」

 白衣の女性はなおも事務的に施療を続けてゆく。そのビジネスライクな、ドライなタッチが余計に官能を刺激するようで、スミレが打ち合わせをしている間中、レナは甘い吐息を上げ続けた。


 

「今日はホテルでわたしと寝よう。あなたに何かあると大変だから。ただし、エッチはなしだけどね」

 サキさんはいない。彼は今ミッションの最後の仕上げのために東に行っている。

 スイートに帰り、部屋の明かりを消し、たっぷりと滋養オイルとクリームを擦り込んだレナはそのままキングサイズのベッドにのせ、それから軽くシャワーを浴びてレナの隣に横になった。

 レナに添い寝するのはサキさんの指示だった。

 多額の資金と時間と労力のかかったミッションだ。万が一にも齟齬が無いよう、細部まで最後まで気を配るのは当たり前だ。そのもっとも重要なミッションで、もし急にレナが心変わりした場合、彼女を説得し、もし必要なら、

「無理やりにでも連れていけ」

 そう、サキさんから指示されていた。非情なことこの上ない。サキさんの寵愛を独占するかのようなレナだったが、彼は、そこはやはりスレイブ頭であり秘書であるスミレの方を信頼しそう命じたのだろう。

 これは民俗学とか心理学に分類されるべきかもしれないが、大学生の時、社会における人身御供の効用、のような講義を聴講したのを思い出す。人身御供は高度に階層化された社会の維持に役立つというのがその内容だった。

 人身御供は多くの古代社会で行われたが、古代アステカ文明はこのシステムを最も華麗に凄惨に行った社会の一つだ。彼らはしばしば領土の保全や経済の獲得のためではない戦争を仕掛けた。戦って捕虜を得、人身御供として神にささげるためである。その儀式の前、捕虜だった男は純金の飾りをつけられて街を練り歩き、4人の美女をあてがわれ妻とし、めくるめく官能の夜を過ごした翌朝に神殿に昇り祭壇に身を横たえ神官のナイフで心臓をえぐられる。神官は、えぐり取ったばかりの、まだどくどくと血を吐く心臓を神殿の壁に塗り付け、その真っ赤な血を神に捧げるのだ。興味深いことには犠牲にされる捕虜の側もそれを名誉なことと考え喜んで祭壇に身を横たえ神に身を捧げたのだという。

 人々はそれを見上げ、これでまた太陽が昇ってくれると信ずることが出来たらしい。

 自分の命を顧みず、自分の死を実感する事により性的興奮を覚える特殊な性癖を「死性愛」というらしいが、そうした性癖を持つ者の存在は、現代人のDNAの中の片隅にそうした過去の記憶がまだこびりついているのを証明しているのかも知れない。

 対象の嗜好を満足させるために女や男をあてがい利益を得るという意味では、古代アステカの人身御供も、歓楽街のホステスも、かつてチャイニーズに身体を捧げ今ナメクジの妻になろうとしているスミレも、そして朝が来れば異常性癖の役人に身体を開かねばならないこのレナも、程度の差こそあれ同じかもしれない。


 

「スミレさん。まだ起きてますか」

「・・・眠れないの?」

「・・・手、握ってもらっていいですか」

 薄暗闇の中でレナの瞳が瞬いているのが見える。

 緊張しているのだろう。

 スミレはレナに身体を寄せ、その頬を撫で、手を握った。

 レナの手は大きい。それに握力もある。テニスをやっているせいなのだろう。

「スミレさん・・・」

「なあに」

「スミレさんて、お嬢様なんですよね」

「・・・金持ちの娘って意味なら、そうだよ」

「素敵でしょうね」

「・・・そう見えるらしいね」

「違うんですか?」

「それなら今すぐあんたと代わってあげる・・・。他人から羨ましがられるたびにそう思ってたよ」

「どうしてですか。毎日おいしいもの食べられて、キレイな服をたくさん着れて、いろんなとこに行けて、毎晩パーティーがあって、スズキさんのみたいなスゴい車に乗れて・・・。普通、羨ましいと思いますよ」

「わたしは、そういうお嬢様を下から見上げて憧れる普通の女の子になりたかった」

「・・・そうなんですか」

「普通に学校に通って普通に就職活動して、好きな人と普通に恋愛して、普通に結婚して普通に子供産んで、育てる。そういう普通の生き方がしたかった・・・」

 レナは額が広い。利発な質なのかもしれない。ランのような、単なるミーハー気分のビッチとは全然違う。どちらかというと、キツめの瞳に、一本の芯のようなものを感じる。

 レナに今一番聞きたかったのは、本当に自ら望んでこのミッションを引き受けたのか、ということだった。だが絶対にそれは口には出さない。出せない。

 もしそれでレナが心変わりでもすれば、スミレは首に縄をかけてでもレナを引きずって行かなければならなくなる。それだけは、したくなかった。

 もしかして同じなのではないか。

 スミレが愛する男の仕事の成就のために身を捨て、最善を尽くそうとしているように、レナもまた、愛する男が望むなら、どんなことでもする。そういう気持ちなのかもしれない。

 サキさんのためなら、死んでもいいです・・・。

 レナの瞳はそんな気迫さえ湛え、潤んでいる。

 いじらしくはある。

「スミレさんの子供のころのことが聞きたいです」

 とレナが言う。

「いいけど、つまんない時間だったから、つまんない話だよ」

 マークとのこと、あの女子プロ家政婦の事、ナメクジや、5人兄弟のなかで疎外されながらいつも孤独に過ごしていたこと。そして、父の事・・・。

 そうしたスミレの核心に迫る重い情報は一切伏せて、退屈なおけいこ事が大嫌いだったことや、窮屈なコルセットや、食事のマナーの煩雑さ、そしてジジイやババアしか来ないパーティーに出させられ、ニコニコ笑顔を強制されうんざりしていたことなどを面白おかしく語って聴かせた。

 クスクス笑っていたレナがやがて寝息をたてはじめると、スミレはベッドを抜けてバーカウンターに陳列してあるスコッチをグラスに注ぎ、煽った。
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