セピア色の恋 ~封印されていた秘め事~

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09 In My Life

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 前もってサオトメに臨時の生徒会があることを伝えておきました。冬休み中の部活のスケジュールも部長の子から聞いてありました。三十日から三が日だけが休み。四日は学校近くの神社に部員全員で初詣という、昨年と同様の日程になるということでした。

 午前中で授業は終わり、午後に終業式があって教室に戻り、クラス担任に二学期の成績表を渡されて大いに落胆し、冬休みの注意事項などを聞いて生徒会室に向かおうとしていた時のことでした。

 例によってヤマギシ君がわたしに絡んできました。彼は終業式の風景を撮影する仕事が終わったばかりでした。

「今日はダメだよ。これから生徒会の役員会だから。それ終わったら部活だし」

 約束は約束。それはわかっていましたけれど、彼がどんな写真をいつどこで撮りたいのか。計画を示してくれないことにはわたしも彼の期待に応えづらいわけです。

「あいつのとこか。・・・生徒会長の」

「そうだよ。役員会なんだから、当たり前でしょ」

「あいつはやめとけ」

 一体こいつは何を言い出すんだろう。不可解で、不愉快でした

「何言ってるの?」

「あいつは天才。お前は凡人。お前みたいのに似合うのは、俺みたいな凡人だよ」

 カメラをぶら下げたヤマギシ君は急にそう言って恥ずかし気に俯きました。

 あまりにも突然で唐突でした。今思えば、あれは不器用な彼なりのわたしへの告白だったのかもしれません。ですがその時のわたしには、それは人の恋路を邪魔する石頭の小言の類にしか聞こえませんでした。

「意味が解らないよ。アタマおかしいんじゃないの。悪いけど行くね。わたし、忙しいの」

 

 生徒会室にはもうみんな集まっていました。

「遅れてすみません」

 わたしの声に気づかないほど、すでに議論が盛り上がっていました。残念ながら、あまり芳しくない方向に。

 その臨時役員会の目的は、第一には二学期の生徒会の活動総括でしたが、年明けの活動の構想とかを話し合う場でもありました。議論は主にワシオ君と副会長のヤベ君との間で行われていました。因縁の、という形容詞が似合うほど、この二人の確執はこの生徒会の活動発足以来のものになっていました。

「だから、最初からそんなことは言ってないよ。年明けすぐに臨時の生徒会を開いてみんなの意見を聞こうと言っているだけじゃないか」

「しかしやったところでいずれ全部君の思惑通りになる。時間の無駄だからやめよう。僕が言いたいのはそういうことなんだ」

「おかしいね。何故そう決めつけるんだ。まだ開いてもいない生徒会の動向がどうして君にわかるの?」

「十一月の壮行会が全てじゃないか。結果的に全部君の計画通りになったろう。全部会長である君が一人で決めればいいことだ。僕らは単なる飾りなんだから、なあ、サエキ」

 ヤベ君はもう一人の書記であるサエキ君を顧みて同意を求めました。サエキ君はワシオ君を慮ってか、俯いたまま黙っていました。わたしはサエキ君の横に着席しノートを取り出して議事の記録を取り始めました。

 生徒会の広報づくりにみんなが参加しなくなったのも、元はと言えばこのワシオ君とヤベ君の対立が原因でした。

 どちらかというと前例主義。校風の「質実剛健」を具現化しているといえば聞こえはいいですが、あまり華美華燭を追うことなく、全てを無難にとりまとめようというのがヤベ君の考え方でした。その前の年も、その前も、さらにその前も。生徒会の活動記録を見ればそうなっているから。ヤベ君は生徒会の役員を引き受けるに当たり、過去の記録をかなり遡って調べたらしいのです。

 それに対して、言い方は悪いですが、前例などお構いなく出来るだけ派手に楽しく。みんなが盛り上がって楽しめる行事を行い、高校生活の楽しい思い出をたくさん増やしてゆこう。そのためには広くみんなの意見を取り入れて集約して行こうとしているのがワシオ君でした。

 その発端は最初の生徒会広報づくりに現れていました。真面目に記事を取りまとめようとしているヤベ君の横でギターをかき鳴らしているワシオ君という情景。それがこの二人の確執を如実に象徴していました。さらに悪いことにはその広報の出来がそれまでの前例を破って画期的に素晴らしく、学内だけでなく学外からも評判を呼び注目されてしまったのです。

 普通なら、評判がいいことは良いことです。出来が悪くて誰も興味を持たず読んでもくれない読み物を作るよりははるかにいいことです。ですが、経緯が問題でした。

 ヤベ君は前例に倣い、校長や教頭から寄稿してもらい、三年生の最後の部活動の花形だった人物からの原稿を募り手堅くまとめようとしていました。

 それなのにワシオ君は今まで誰も注目しなかった学食のおばちゃん。通学にかかわる路線バスの運転手さん。駅員さん。図書館の司書さんなど、ウチの生徒が日ごろお世話になっている人々からの寄稿を募り、ウチの生徒に対する多元的な視点を盛り込み、「我々はこんな風にみられている」的な話題で紙面を構成してしまったのです。そして、それが生徒たちの間で異常なほどウケたのです。ああ、これオレのことだ。とか、いつもちゃんと見てくれているんだな、などという読後の感想が多く寄せられました。無味乾燥な今までの紙面と違い積極的に面白い読み物としてそれはちゃんと成立し、生徒たちに受け入れられていたのです。

 真面目なヤベ君が面白かろうはずがありませんでした。

 そして十一月の三年生の壮行会の運営方法を巡り、それは決定的になりました。

 またしてもヤベ君は従来の応援団によるエール。三年生代表の言葉。校長の激励の言葉。校歌斉唱。そうしたコンテンツだけで会を収めようと提案しました。

 ところが、

「それじゃつまんないよ。これから三年生は大学受験という戦場に行くんだぜ。少しでも力づけてやらなきゃ・・・」

 ワシオ君の一言でヤベ君の提案は簡単にひっくり返りました。

「じゃあ、君ならどうするんだ」

 ワシオ君は答えの代わりに主にサッカー部と吹奏楽部の一年生を動員してさながらロックフェスのような催しものにすることを提案したのです。そしてその案が学級委員たちの生徒会で承認され、実現してしまいました。

 結果は大成功でした。最後は三年生の有志もマイクを取り、歌い、ちょうどワシオ君が選挙演説をした時のような全員合唱で壮行会を締めくくりました。三年生の、特に女子の中には感激して泣き出す先輩が大勢いましたし、男子の先輩も「オレは誓う。必ず夢を実現して我が母校の名を全国に広めてやる!」とか、「それならオレは全世界だ」などと異様に盛り上がりまくり、これから大学受験という孤独な戦いに赴く三年生たちを鼓舞し励ます、という趣旨にピッタリの前例のない素晴らしい会になりました。最後に応援団がエールを送り、三年生の前団長と二年生の現団長とで三本締めで締めくくられ、いつまでも鳴りやまない拍手の中を三年生たちが会場を後にしたとき、みんなの中心で肩を組み歌っているワシオ君を睨みつけるヤベ君の形相が、この先の生徒会の先行きを暗示しているかのようでした。


 

 そんな経緯が、その場に重苦しい空気をもたらしていたのです。

「ここで、会計から九月からの生徒会の活動に要した経費の報告を聞きたいんだが、ナカガミ、報告してくれるかい」

 ナカガミ君はあらかじめヤベ君と示し合わせてでもいたかのように、整然と立ってノートを広げ、数字を読み上げて行きました。

「九月に新年度の生徒会が発足して以来の経費の使途と金額は次の通りです。生徒会広報の作成にかかわる費用、累計で1,590円、三年生壮行会費用、細目、ギターアンプレンタル費用五万六千五百円、・・・」

 ナカガミ君が次々に読み上げる数字は、総計すれば当初の生徒会の予算と前年度からの繰越金の合計額の半分にも達しようとしていたのです。

「ありがとう、ナカガミ。ワシオ、これでわかったろう。僕は何でもかんでも闇雲に前例を踏襲しようとしているわけじゃないんだよ。何をやるにも予算というものがあるんだ。年が明ければすぐ新年度。一年生の歓迎式。学園祭。体育祭。僕らの事業はまだ三分の一も消化していないんだぞ。それなのにもう残りの予算が半分しかない。

 今後どうするんだ、ワシオ。是非その点についての君の見解を聞かせてくれよ」

 そこまで言うと、首の詰襟を寛げ、ワシオ君に対する反感を剥き出しにして、ヤベ君は吼えました。

「あんなのはなあ、金さえかけりゃ誰にだってできるさ!」

 その場に居る全員がワシオ君の反応に注目しました。彼はじっと目を瞑り、腕を組んで静かに座っていましたが、しばらくすると目を開き、真っすぐヤベ君を見てこう言いました。

「ヤベ。君の考えはわかった。それから会計の状況も。指摘してくれてありがとう。確かに僕は予算管理という一面で至らないところがあったと思う。

 それから、ナカガミ。ちゃんとまとめてくれてありがとう。年明けからの活動については各行事毎でしっかり予算を決めてそれを順守したものにしてゆこうと思う。これからも協力してほしい。

 ただし、ここまでの活動の方向は間違ってはいないと思うんだ。今までの前例にとらわれず、新しい生徒会の風を作っていきたい。僕が会長に選ばれたのはそういうのを期待されてるからじゃないかなと思うからね。だから僕は、さらに学校側に掛け合って追加予算を組んでくれるように申請しようと思ってる。そうすればヤベの懸念も収まるだろうと思う。

 他に何かここまでの反省として提示できるものがあれば意見を言ってくれ」


 

 役員会は当初の一時間の予定を大幅に超え、部活動の終了時間である七時までかかって閉会しました。会の目的の二学期の反省にほとんどの時間を費やし、年明けからの行事の計画については冬休み中に各個に検討し、休み明けにあらためて臨時役員会を設けることで了承されました。

 わたしは最後まで残って後片付けをし、ストーブを消してカギを職員室まで返しに行きました。そして真っ暗になった廊下を常夜灯の灯りを頼りに歩き、昇降口に着いた時、下駄箱の陰に人影を見つけました。ワシオ君でした。

「ハヤカワ。付き合ってくれよ」

 彼は今まで見たことが無いくらいに憔悴していました。こんな彼を置いて帰れませんでした。わたしに否があろうはずがありません。彼に誘われなくても彼のアパートへ押しかけて行きたいくらいでした。

 二人で無言で駅を目指して歩き、途中シャッターの降りた酒屋の店先の自動販売機でビールをたくさん買い、スポーツバッグの中に詰め込めるだけ詰め込みました。それを彼が持ってくれました。

 そして、わたしは公衆電話から母にウソの電話をしました。

「まだ学校なの。生徒会の用で遅くなりそうなの。もうそろそろ帰れそうだけど、そのあと役員の家で続きをやるの。かなり遅くなるからクラスのチエちゃんちに泊まることにする。うん。うん。大丈夫。明日は部活あるからチエちゃんちから直接行く。お昼は学食の購買部でパンでも買うよ。大丈夫。心配しないで。じゃ、お休みなさい。ちぃ兄によろしく」

「悪いな、ハヤカワ」

「だって・・・」

 クリスマス・イヴを二日後に控えた金曜日の夜。

 街は煌めき、賑わっていました。

 このころからでしょうか。家庭では子供たちがクリスマスケーキを食べてプレゼントをもらい、盛り場ではオジサンたちが赤や緑のとんがりボーシを被ってクラッカーを鳴らす。そういうのがクリスマスの定番になっていました。肝心のキリスト教はそっちのけで、そうしたお祭りの楽しい雰囲気だけを抽出して愉しむという行き方は、その後トレンディードラマの流行と共に、クリスマスを男女のセックスの記念日に変貌させてゆきました。

 万年床がのべられたままの彼の部屋に着いてからも、わたしたちは言葉を交わしませんでした。お互いに言うべき言葉がわかっていたから敢えて何も話さなかったのだと思います。

 彼はストーブを点け、美術で使うコンテのようなものをナイフで削り、胴の部分を半分くりぬいたビールの空き缶の底の上に削りカスを貯め、その底の部分の下に火を点けたローソクを仕込みました。すると、何とも言えない甘いお香のような香りが部屋に満ち、その香りを吸うとなんだか幸せな気分になってきました。

 長い間、わたしはそれをお香だと思っていました。それが何だったのか、ワシオ君には結局問いたださないままに終わってしまいましたが、今思い返せば、あれはきっと何かイケナイものだったのではないかと思います。常習性が無かったのが幸いでした。

 彼は部屋の明かりを消しました。青白く燃えるガスストーブの炎と妖しく甘い香りを奏でるローソクの灯りだけがありました。

 ワシオ君は壁に寄りかかり、買って来たビールの缶を開けて一気にグビグビ喉に流し込むとギターを爪弾き始めました。聞き覚えのあるイントロを奏でながら、

「ハヤカワ。お前も飲めよ」

 と言いました。

 There places I,ll remember・・・

 ゆったりした優しい曲でした。一つ一つの単語は平易なものばかりで英語の不得意なわたしにもなんとなく意味がわかりました。ラブソングの衣を纏ってはいますが、どこか観念的な、禅的な香りさえする、不思議な魅力を放つ歌詞でした。

 In My Life, I love you more・・・。

「来いよ」

 ギターを脇に立てかけた彼の温かな胸の中に身を寄せました。

 そして優しく抱きしめられ、あの甘い彼の唇を受けました。あまりな幸せに意識が遠のいてゆきそうでした。

「ハヤカワ。オレ、お前が好きだ。お前を、抱きたい・・・」

 胸の鼓動が抑えきれないぐらいにバクンバクンと高鳴っていました。

「・・・抱いて、ワシオ君・・・」

 夢にまで見た彼の言葉が現実になり、そう答えていました。身体中が熱く、燃えるようでした。。

 セーラー服のサイドのジッパーを上げ、中に着込んだ薄手のウールを脱ぎ、スカートを脱ぎ、タイツを脱ぐと、あとはアンダーと下着だけでした。ストーブが勢いよく燃えていました。それ以上に、わたしの身体も。全く寒さを感じませんでした。身体じゅうが火照りすぎていました。

 先に彼の寝床にはいり、彼を待ちました。微弱な灯りの中で学生服を脱ぐ彼の姿がシルエットになっていました。その姿を見ながら待つわたしの中で、それまでひとりで宥めていた類の情欲の炎が勢いを増してゆくのが感じられました。

 彼が寝床の中に這入ってきました。冷たい身体でした。初めて肌を合せる異性の裸に震えました。

「あったかいな、ハヤカワ。それに、すんげえ、柔らかい」

「うん・・・」

「・・・オレ、初めてなんだ」

「・・・わたしもだよ」

「そうか・・・」

 わたしは自分から彼の唇を求めました。

「わたし、ワシオ君が欲しい・・・。ずっと、欲しかった」

 彼はおずおずとわたしの下着を脱がしにかかり、わたしはお尻を上げてそれを援けました。それから彼の手が今まで自分の指以外に触れられたことのない女の部分に触れてきました。そこはもう溢れすぎるほどに潤い、彼を求めていました。わたしは大胆にも彼の指を誘導して一番触れて欲しい核の部分に触れてもらったのです。それは素晴らしい感覚でした。本当の快感と呼ぶべきものを初めて知ったのはその時だったと思います。自分の指で触れるときの何倍もの快感が襲い、吐息を我慢できないほどでした。

「ああっ・・・」

「ごめん、痛かったか」

「ううん。違う。気持ちいい・・・」

 すると彼は調子に乗ってそこを集中的に転がしくりくり回してくるではありませんか。

「ああ、そんなに、だめ、ああっ!・・・あ、変、変なのあ、だめ、ダメっ!・・・んんん・・・」

「おい、ハヤカワ。どうした、おい!」

 急にそれは来ました。頭が真っ白になって、ビクッ、ビクッ、身体中に電気が走りました。

 それ以降、わたしは幾多の男性を経て次第にその感覚が高度に、深くなってゆくのを経験してゆくわけですが、わたしにとってそれは初めての感覚でした。中学生からそれまでの時間で十分にこね回し、慣熟していたおかげなのかもしれません。わたしは初体験で、彼のものをそこに迎え入れる前に絶頂してしまったのでした。

「・・・信じられない。こんな・・・」

「ごめんよ、ハヤカワ。オレ、夢中になっちゃって・・・」

「いいの。違うんだよ、ワシオ君。すっごい、よかった。めちゃくちゃ気持ちよかったの。ワシオ君て、やっぱり天才かも・・・」

「・・・ああ、ならよかった。・・・脅かすなよ・・・」

「それに、優しいんだね・・・」

 わたしはもう一度彼の広い背中を抱きしめ、キスを捧げました。

「来て・・・、ワシオ君」

 彼は気を取り直してわたしの上に覆いかぶさりました。

 彼のそれがわたしのお腹や腿に当たっているのがわかりました。それはとても硬く、熱い塊でした。

「ゆっくりでいいよ」

「あれ? ここか?」

 もどかしさを抑えきれませんでした。はしたないのを承知の上で、彼のそれに手を添えました。灼熱という形容が相応しいほど、それは熱く昂っていました。

「あ・・・」

「痛かった?」

「いや、大丈夫」

「焦らないで。ここだよ」

 ようやくそれを入り口に導き、わたしは彼の腰に手を回しました。そして彼を待ちました。激痛だと聞いていたその痛みに耐える準備と覚悟を決めました。

「なんだこれ。すげェ。ああ、ハヤカワの、・・・スッゲェよ」

 それはハッキリとわかりました。すごく熱い彼のがずん、ずんと、ぐい、ぐいと身体の中に這入ってくるのがよくわかりました。不思議に痛さはありませんでした。彼のが入ってくるほどに、その滑らかで愛らしく愛しい存在感がわたしの中で大きくなるのが素敵すぎて、感動に震えたのです。

「そのまま、まっすぐ、来て・・・」

「柔らかくて、あったかくて・・・。ああ、蕩けそうだよ、いいか? 全部、いい?」

 それが入ってくるその感触というか感じは、確かに今までには経験のないものでした。何かが身体の中に這入って来る異様さはありましたが、その内側は十分に潤っていて壁を押し広げて這入って来るワシオ君のそれをもっともっとと迎え入れたがっていたのです。痛さって、なに? という、むしろ、とても気持ちよさそうなワシオ君の顔を見上げているだけで、胸の奥がカーっと熱くなり、じんわりと、さらに溢れて潤って来るのがわかりました。すると、それまでなかった、そこの奥の感覚がじわじわと芽生えて来て、さっき自分の手で導いた彼のそれの存在がさらにそこを刺激してくるのがわかりました。それはもう痛さではありませんでした。ピリ、ピリ。それはとても気持ちのいい感覚を身体全体に運んでくるのです。

「いいよ。ああ、なんか、素敵・・・。もっと、来て。全部来て。ああ・・・素敵・・・」

 わたしはそれをもっと迎え入れたくなって、彼の背中をギューッと抱きしめ、自分からお尻を浮かせてしまっていました。わたしは、欲しがっていました。何かに例えようもないほど素敵な、甘美な感覚でした。

「入った。・・・やっべえ・・・。たまんね・・・。気持ちよすぎるよ・・・」

「ね、キスして、ワシオ君!」

 これが、女の幸せなんだな・・・。

 観念だけで捉えるのと、実際に大好きな異性の肉体の一部を身体に受け入れるのとでは全く違うのを初めて知りました。自分の上で気持ちよさそうな表情を浮かべているワシオ君を見上げながら、それを実感しました。自分の身体で大好きな男が悦んでくれている。女にとって、それが幸せでなくて、なんでしょうか。

 ずっと後になって娘が思春期を迎えるころに、激しい運動をする女子ではままあることだと知りましたが、そのときはそんな知識もなく、最初から快感ばかりの初体験になったことが不思議過ぎてどうしようもありませんでした。むしろ、初めてだと言った手前、痛がらないのをワシオ君に不審に思われないかと、そればかりが気になってしまうほどでした。

「ああっ、お、オレ、も、ダメだ、ハヤカワッ、出そうだっ!」

「いいよ。出してっ」

 妊娠、ということはわかっていましたが、なぜかそう言ってしまっていました。その時はまだそれほど奥の方の感覚が開発されていなかったせいもあるでしょう。その瞬間はわかりませんでしたが、やがて彼の苦悶の顔が弛緩し、彼の身体の重さを受け、彼がガク、ガクと痙攣し、中の感覚が小さくなるのに気づき、事が終わったのを知りました。

 初めて同士のわたしたちはそのようにして無事に初体験を済ますことが出来ました。
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