セピア色の恋 ~封印されていた秘め事~

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10 Don't Let Me Down 

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 それから何度も抱き合いました。

 さすがにまだ挿入してもらって絶頂することはありませんでしたが、最初の前戯ですでに真っ白になり、そのあと何度も彼とひとつになれた喜びの方が大きすぎてそんなことはどうでもよくなっていたのです。

 そしてやはりワシオ君はサスガでした。

 何度も回復してわたしを求めてくれました。体位こそ正常位だけでしたが、角度によってわたしの反応が変わるのに気付き、いろいろ角度を変えてわたしが感じるところを探し当てようと探求してくれる姿にまた感激しました。そしてやはりサボりがちとはいえサッカー部のエースだけに体力がありました。だからバレーで鍛えているわたしと釣り合いが取れていたのだと思います。わたしの中で続けざまに何度か達し、そこが彼とわたしの体液でヌルヌルになってやっとわたしから離れ、お互いに始末をしているうちにまた催してお互いを求めたりしました。

 明け方近くなってやっと落ち着けました。でもお互いの体を相手にくっつけていたい欲求は消えず、わたしは裸の胸を彼のお腹にぴとと押し付けて初体験の余韻に浸っていました。

「・・・しあわせ・・・」

「オレもだよ。・・・そして、ハヤカワがいてくれて良かった・・・」

「・・・もしかして、ヤベ君のこと?」

「・・・うん。・・・でも、アイツを悪く思ってるわけじゃないんだ。アイツが言っていることはまともだし、正論だ。オレみたいのが会長をやるうえで、ああいうヤツの存在は大事だと思うんだ。オレ、危うくまたやらかしちゃうとこだったかもしれない・・・」

「やらかす?」

 ふふ。ワシオ君は笑ってわたしの髪を撫で、キスをくれました。

「『島流し』。 覚えてない? 前に話したろう」

「・・・覚えてるよ」

「中学の時、オレ、ちょっと、やらかしちゃったんだ・・・」

 そう言ってワシオ君は寝床の中でわたしの手を取り彼の肘の内側から二の腕のあたりを触らせました。すべすべした彼の肌の中で、そこだけがボコボコ、ゴツゴツと波打つような、鱗があるかのような感覚がありました。

「ケロイド。火傷の痕だ。見せてもいいけど、あんまり気色いいもんじゃないしな・・・」

 わたしは黙ったまま彼の次の言葉を待ちました。きっと彼は初めて他人にそのことをカミングアウトするのだろう、と。だったら、彼が言いたくなるまで待つべきだ、と。そう、思ったのです。

「もう、痛くないの?」

 わたしが彼のその火傷の痕を撫でている間、ワシオ君はじっと暗い天井を見つめていました。

「もう大丈夫。でも、あんときゃ酷かった。ケツの皮膚を移植しなきゃいけないほどだったんだ。痛くて何日か眠れないぐらいだった・・・」

 燃え上がっていた間は気づきませんでしたが、耳を澄ますと郊外のわたしの家では聞こえない、夜の都会の音が響いてきました。真夜中でしたが、凍った道路を行きかう車のスパイクタイヤの立てるごおーっという音や大型トラックのタイヤチェーンが鳴らすシャンシャン、シャンシャンという規則的な打撃音がやって来ては去ってゆくのが聞こえました。まるで鈴を鳴らしながら家々にクリスマスのプレゼントを届けて回るトナカイの引くそりの音のように聞こえました。

「オレのいた中学はワタクシ立でさ。ホラ、お受験て知らないか? 幼稚園からとか小学生、中学生で受験で入った、男ばかりのところだったんだ。みんな、いい所の出でさ。純粋培養の、モヤシみたいなヤツばっかりだった。外で友達と思いきり遊んだことなんか一度もないって言ってたヤツもいた。幼稚園から親に勉強ばかりさせられりゃ、誰でもそうなるよ。塾と学校以外の世界を知らない。そのせいかどうか、時々おかしくなるやつもいたんだ。

 東京だからここよりは雪が降らないけど、たまに校庭一面の真っ白になるとそこに倒れ込んで大の字作ってみたり。そこまでは誰でも一度はやるだろ? でもソイツは教師が止めに来るまで延々と校庭に大の字を作り続けて肺炎になっちゃった。

 他にも、授業中にコンパスの針で手のひらや腕を刺し続けるヤツとか、プールの時間でワザとフルちんで泳ぐヤツとか、休み時間になる度に屋上に行ってバカヤローとかフザケンナとかミンナ死ねとか叫び続けるヤツとかさ。もちろん全員じゃないよ。でも冗談じゃなく、毎年一人か二人はそういうヤツが出る学校だった。

 それなのに他の中学の生徒に異常に優越感を持つヤツが多かった。中学の野球の大会でさ、ボロクソに負かされてるくせに相手の中学の応援席に向かって低能学校だとか野球しか能のないアホ学校だとか落ちこぼれとかって、聞くに堪えない醜い罵詈雑言のヤジを飛ばすんだ。

 とにかく、みんな、どっか歪んでた。心を病んだようなヤツばかりの学校にオレはいたんだ。そんな学校のせいか、オレもだんだんおかしくなりそうだった。いや、おかしくなっちゃってたんだな・・・」

 わたしは冷えた彼の肩にキスをしました。告白するワシオ君が苦しそうだったからです。癒してあげたいと、心から思いました。

「運動会の最後で打ち上げ花火をやろうって持ち掛けた。もちろん教師たちには止められた。住宅密集地だしね。もし何かあったら大変だって。

 でも、何かをやってスカっとしたかったんだ。どうしても。一度言いだすと、止められなかった。オレのアイディアに三人乗っかって来た。ナイショでやろうって話になった。最後の最後でやって驚かせてやろうって。で、どうせやるならもっとデカイのにしよう。パラシュートを仕込んで空から垂れ幕を落とそう。祝! 大運動会 みたいな。じゃあ、もっと火薬を増やそう。爆発力を高めるには量だけじゃなくちゃんと突き固めなきゃ・・・。

 どんどん、エスカレートしていった。もちろん、誰もそれを止められない。

 市販の花火をほぐして集めて、それに加えて誰かが理科室から硝酸を持ってきた。保管してるカギ付きの扉を壊して盗んできたんだな。もう、みんな狂ってた。狂ってるヤツを見てアイツバカだなと笑ってたら、自分たちが狂ってるのがわからなくなってたんだ。

 そこはプール際の更衣室だったんだが、誰かが最後に棒で突いた、その火薬の詰まった茶筒が大音響で吹き飛んだ。片目を失明したやつ。ケロイドで顔が変わっちゃったヤツ。棒で突いたヤツは指が吹き飛んだ。オレがいちばん軽症だった。

 それからのことはあんまり覚えてない。入院して退院して、再び学校へ行くことはなかった。オレの親はオレを持て余したんだろうな。それで、ここに島流しになっちゃった」

「・・・じゃあ、ここは流刑地だね、ワシオ君にとっては」

「あはは。・・・そうだな。きっとヤベはオレの看守なんだよ。そう思うと、笑えるだろ? シマシマの囚人服を着て足に重りをつけたオレが、ナチスみたいな制服を着たヤベに調子に乗るなってムチを振るわれてるんだ」

「ふふっ。なんか、可笑しい・・・」

「だろ? だから、アイツは、ヤベみたいなヤツは、オレには必要な人間なんだ」

「わたしには、ワシオ君が必要なの・・・」

「うん・・・。オレもだよ」

 彼の指が頬を撫で、うなじをくすぐりました。

「同じ中学の奴もいない、誰も知り合いのないこの学校に来て、畏れ多くも生徒会長になんて祭り上げられてさ、途方に暮れてた。役員決めの時、真っ先にハヤカワが手を挙げてくれた。嬉しかった。

 これからも、そばに居てくれ。それが何よりも嬉しいんだ。

 澪標(みおつくし)だからな、ハヤカワは」

「もう一回、して。抱いて、ワシオ君・・・」

 彼は再びわたしの中に這入ってきました。

「いっぱい愛して。ミオって、名前を呼んで・・・」

 

 明け方近くまで抱かれ、ほとんど一睡もせずに部活に行きました。彼の部屋を去りがたくてサボってしまおうかとも思いましたが、

「オレが引き留めてしまったからだ。行った方がいいよ、ミオ」

 ワシオ君に言われ、いやいやながら部活に行きました。

 さすがにクタクタでしたが、体力ぐらいしか取り柄のなかったわたしでしたからなんとか乗り切り、無事部活を終えました。

 駅まで行き、思い切ってもう一度ワシオ君の部屋を訪ねてみましたが、あいにく留守でした。疲労の極みにあったはずなのに、身体はもう彼を欲していたのです。

 仕方なく駅に戻り家路につきました。

 母の顔を見るのが辛かったのですが、母は何も言わず、

「お帰りミオ。ちゃんと食べたの? お腹空いてない?」

 思いがけずも優しい言葉を掛けられて目が潤みました。

「いい。ちょっと疲れたから横になりたい」

 すぐに部屋に逃げ込んだのは罪悪感に駆られていたからです。

 でもなんとか誤魔化せたと胸を撫で下ろし、すぐに着替えてジャージなどの洗濯ものを洗濯機に放り込むついでに下着を自分で手洗いしてジャージの山に混ぜました。


 

 たぶん、あの時の母は知っていたかもしれません。

 そう思うようになったのは、後年、長女が初体験を済ませて帰ってきたことを知ったときでした。

 今では、亡くなったおじいちゃん、つまりわたしの夫の家業を継いで植木屋になり、女だてらにトラックやダンプやパワーショベルを乗り回し、まだ独身の身ながら数人の植木職人を采配している頼れる娘になりましたが、そんな長女も思春期にはずいぶんといろいろ手こずらせてくれたものでした。

 いつものように玄関で出迎えたわたしの横を、娘はセーラー服ですり抜けて自室に駆け込みました。

 わたしにはわかってしまったのです。いつもの娘の匂いの他に、おじいちゃんではない、他の男の匂いを纏って帰ってきたことを。長女はその時まだ中学三年生でした。ちょうど高校受験を控え難しい時期になっていました。

 初めての子で、育て方がよくわからず、そのせいかよく荒れていたのを思い出します。とにかく、避妊さえしっかりしてくれれば・・・。

 母親というものはいつの時代も同じ心配をするものです。

 母は、長く連れ添った父を見送ってからしばらくして後を追うように天寿を全うしました。北の国の人間らしく平均寿命よりもだいぶ若い、まだ六十代の後半の若さでしたが、

「いい人生だったわ・・・。孫も六人も抱けたし・・・。あんたたちの足手まといにもならずに済みそうだし・・・。もう何も思い残すこと、ないわ・・・」

 危篤の知らせに慌てて飛行機で駆け付けたわたしや兄たちに微笑みながら逝きました。

 結局、母がわたしの初体験の日のことを知っていたかどうかは、訊けずに終わってしまいましたけれど。


 

 また脱線してしまいました。高校時代に話を戻します。

 

 それから年末までの数日間は毎日部活帰りにワシオ君の部屋に行き、抱かれました。

 授業がありませんから部活は四時に終わります。登下校もジャージで上にコートやジャンパーを着こんでしまえば素性はわかりません。駅から学校とは反対方向のバスに乗り様々な薬局を回って勇気を奮ってゴム製品を買ったりもしました。体温計も買いました。

 最初の夜にあれだけ中で出されたにしては、奇跡的に妊娠していませんでした。でもその後も奇跡を期待するほどバカでもありませんでした。だから避妊には気を付けました。幸いにワシオ君が初めての夜は別にしてその後は神経質なほど気を遣ってくれたので助かりました。

 そのようにしてわたしたちはある程度安心して性愛にふけることが出来たのです。

「お正月はおうちに帰らないの?」

 慣れてきたわたしは、一戦交えた後彼のを手で摩りながら尋ねました。

「帰るなとは言われてないけど、帰ってこいとも言われてない。こっちから電話もしないから、向こうの意思もわからないしね・・・」

 ワシオ君もだいぶ慣れてきていて、いわゆる後戯と呼ぶべきものを、わたしのお尻や背中や性器を優しくなでたりキスしたりしながらそう、呟きました。

「おじさんちにも行かないの」

「朝晩は行くようにはしてる。そうじゃないと心配するからね。でも、行くと腫れ物に触るようにされちゃってさ・・・。まだ小学生の子供がいるんだ。その子供に影響しないかとハラハラしてるのが、わかっちゃうんだ。・・・疲れるんだよ。オレは、どこへ行っても厄介ものなのさ」

「なんか・・・、かわいそう・・・」

 そう言って、深いキス、彼の唇を強く吸い、舌をちろちろとそよがせたりしました。

「別に、そうでもないさ。・・・もう、慣れたよ」

 ワシオ君のテクニックは身体を重ねるごとに上達してゆきました。おそらくは根っからの学究肌だったのでしょう。わたしの身体のどこをどうするとどうなる。そういうのを探ることが楽しいようでした。

 それに応えるように、わたしの身体が少しずつ目覚めてゆきました。彼のが入ってくる感覚がたとえようもなく気持ちよくなっていたのです。それが出たり入ったりする、特に出て行く時のグニュグニュと中の壁を引きずり出されるような感覚に、痺れました。彼が中にいる時間がだんだんと長くなるにつれて奥の方の感じがわかるようになってきました。そこがもっとも気持ちのいい所であるのを知ったのも、すでにそのころのことでした。そして一度それを知ってしまうと、そこをもっと突かれたいと思ってしまい、自分からいろいろな形を試してもらおうと積極的に動くようにもなりました。

 明るい所でも平気になりました。

 一番気持ちがいいのが後ろからされることだということがわかりましたが、わたしはどちらかというと彼の顔を見ながらするのが好きでした。上半身を起こした彼に跨り、彼の頭を抱きかかえながらしていると彼は必ず胸を吸いたがりました。

「ああ、・・・うふふ。赤ちゃんみたい」

「だって、ミオのおっぱい、おいしいんだもん」

 そんな可愛いことを言うのです。

 生徒会長であり、サッカー部のエースであり、成績も優秀な天才。あの、校内の女子の憧れのワシオ君がわたしの胸の中で気持ちよさそうに甘えてくるのです。

 それだけでゾクゾクが昇ってきてしまいました。

 お返しに彼の腕の内側の火傷の痕にキスしました。明るい灯りの下で見るそれは、最初に触れてその由来を聞いた後ではあまりグロテスクな感じはなく、むしろ彼の勲章のようなものにさえ思えました。身体の快感だけではない、心の部分の満足が大きいのを知りました。

 この、座った彼に向かい合って跨ったかたちで、わたしは初めて彼のものを身体の一番奥に受け入れての絶頂を覚えました。

 わたしがガクガクと痙攣するとあそこがギュッと締まるみたいで、彼も、

「あ、もうダメだあっ!」

 と言いながら果てます。

 カク、カク、ピク・・・。はあ~ん・・・。

 痙攣の後の心地よい弛緩から回復すると、わたしは彼の唇を求めます。

「イッちゃった?」

「スゴイ、ワシオ君の・・・ずっと奥に、当たるの。そこが、とっても気持ちいいの」

「オレも・・・。めちゃくちゃ気持ちよかった。ミオの、サイコー過ぎ・・・」

 彼にギュウッと抱きしめられてこんなセリフを聞かされると、心は天にまで舞い上がってしまいます。

「オレには、この世の中の全てのどんなことよりも、お前が大事だ。ずっとそばにいてくれ、ミオ・・・」
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