セピア色の恋 ~封印されていた秘め事~

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 終わってゴムの処理をしている彼の背中にキスし、話しかけました。

「ねえ・・・。お正月さ、ウチに遊びに来ない? お父さんもアニキたちもいないの」

「いいのか? 迷惑だよ」

「ううん、全然。だっておもち焼いても食べる人がいないんだもん。むしろワシオ君が来てくれるとお母さんも喜ぶと思う。張り切ってごちそう作っちゃうよ、きっと」

「そうか・・・」

「大晦日までは大掃除でバタバタしてるから、元旦に。一緒にお雑煮食べて初詣行こ。わたしの家の近くだから学校の子もいないし・・・」

「迷惑じゃないなら、それもいいな・・・」

 その晩、家に帰り次兄が寝るのを待って母に話しました。

「いいわよ。是非連れてきなさい。お母さんもその生徒会長さんに会いたいな」

 世話好きな母でした。彼の身の上を、中学校の事件のことは伏せてサラッと話しただけで一も二もなくこう言ってくれました。


 

 二十九日に部活の納めがあり、その足でワシオ君のアパートに直行、二回目のお泊りをしました。再び母に友達の家に泊まるとウソを吐きましたが最初の時よりは罪悪感が薄れていました。

 とりあえず玄関先で立ったまま一回戦をしてから二人で閉店時間ギリギリに近所のスーパーに行き食べ物を買いました。帰ってくると二人一緒に狭いお風呂に入り、そのままの丸裸で二回戦をし、もう一度お風呂に入ってまた丸裸のまま主に肉と野菜を炒めただけの簡単な夕食を作り、途中で邪魔してくるワシオ君と三回戦をしながらなんとか夕食を作り終え、丸裸のまま食事をしてまた四回戦になだれ込む、という具合でした。

 新婚みたいでとても楽しかったのを覚えています。

 セックスを覚えたてのサル、という言葉を後になって知りましたが、その時のわたしたちはまさにサルでした。一ダース入りのゴムを一晩で半分以上使ってしまうほどでした。互いの性器を口で愛撫するのも自然にするようになりました。彼のを口で愛しながら彼の気持ちよさげな顔を見上げるとそれだけで幸せな気持ちになってもっともっとイジメたくなってしまうのです。

 わたしは生理が正確で、その次の日くらいに来るのがわかっていたので余計に昂ってしまったのだと思います。愛情は薄くてもお金だけは潤沢にくれていた彼の両親のおかげで、高校生ではあってもゴム製品を買うお金には不自由しませんでした。

 明くる三十日は東京へ帰る次兄を見送るのでどうしても早くに帰らねばならず、結局朝まで一睡もせずにしてしまいました。わたしもわたしですが、彼も彼でした。よく体力が持ったと思います。

 一度家に帰り、家から次兄と一緒に列車の出る駅までまた戻りました。連絡船の出る駅まで行きそこからさらに夜行に乗って帰るのです。東京のアパートに着くのは明日大晦日の夕方ごろになるなあと次兄は笑いました。ワシオ君のアパートがすぐそこでした。プラットフォームで次兄を見送るとき、その方向を眺めながらソワソワしているわたしに次兄は、

「ミオ、ほどほどにな」

 と、言いました。とっさに、え、何のこと? ととぼけましたが、次兄には薄々知られちゃっていたみたいでした。どうしてわかったのか未だに謎です。その次兄も今ではいいおじいさんになりました。機会があれば茶飲み話に訊いてみようかと思っています。

 さすがにもう一度彼のアパートに行って致す気力はなく、きっとワシオ君も今頃爆睡しているのだろうと思いながら、家に戻る電車の中で危うく寝過ごして降り損ねるところでした。家に戻り、時々居眠りしながら母の大掃除を手伝いました。空気の入れ替えで少しだけ家中の窓を開けたのですが、その強烈な寒気のおかげでなんとか目が覚めました。

 次の大晦日は昼近くまで眠ってしまい、母に起こされて大掃除の続きをし、母と二人だけで年越しのおそばを食べ、紅白歌合戦を見ながらまた寝てしまいました。

 でも現金なもので、明くる元日は起こされずとも6時に目覚めました。

 9時15分に着く列車で来ることになっているワシオ君を迎えに、粉雪の舞う道を駅まで歩きました。どうせなら一緒に新しい年を迎えたかったのですが、さすがにそれはまだ出来ませんでした。

 新しい年の最初のワシオ君の姿を見ただけで、感じてくるのがわかりました。

 小さな改札を出て来た彼は落ち着いた笑顔を浮かべていました。

「・・・明けましておめでとう、ミオ」

 言葉がありませんでした。感激して抱きつきたいのを懸命に堪えていました。昔の片田舎の駅です。そんなことをすればすぐに噂が広まってしまいます。そこは今とはだいぶ違いました。

「・・・おめでとう、ワシオ君」

 寄り添って手袋越しに彼の手を取るのが精いっぱいの表現でした。

 凍った道にうっすらと積もった雪の道はただでさえ滑りやすく、その上わたしの身体は数ミリほど浮いていたのでさらに歩きにくくなっていました。しっかりと彼の腕を取ってゆっくり歩きました。家までの道がいつもの十倍くらい長くなっていればいいのにと思いました。たった一日会えなかっただけなのに、彼にくっついていられる幸せが身体の奥から滾々と沸き上がってくるのを抑えきれませんでした。

「会いたかった・・・」

「おとといずっと一緒だったじゃないか」

「だって・・・」

 見上げる彼の顔は真っ白な息に覆われて少し歪んでいました。不覚にも涙が出て来てしまっていたのです。

「おい、泣くなよお。お前のお母さんに誤解されちゃうじゃないか」

「だあって・・・。嬉しかったんだもん・・・」

「かわいいな、ミオは・・・」

 女子バレー部は大体が大女揃いでした。当時の平均的な男子の身長よりも大きい女子の集まりでした。自分にもその自覚がありましたから「かわいい」と言われることなんてないだろうとずっと思っていました。そのわたしを何度も「かわいい」と言ってくれる男の子にめぐり合わせてくれた神様に感謝したい気持ちで一杯でした。

「先に初詣行かない? 家はその後でいいよ。この雪だし、また出かけるの面倒くさいでしょ?」

「だって、ミオのお母さん待っていてくれてるんじゃないのか」

「いいよ、少しくらい」

 少しでも二人きりの時間を引き延ばしたかったのです。

 雪の降る中、小さな街の中の神社は人影もまばらでした。彼と並んでお賽銭を投げ手袋を取って柏手を打ちました。

 神様。ワシオ君に会わせてくれてありがとうございました。

 今年もずっとワシオ君と一緒に居られますように・・・。

 そう、お願いをしました。

 私よりもずっと長く、ワシオ君は頭を垂れていました。

「何をお願いしてたの?」

「オレ? ヒ・ミ・ツ・・・」

「ええー、何で。教えてよォ・・・」

 そんなことを言いながらウキウキで家に向かいました。


 

 ストーブの上で膨らむだけ膨らんだおもちを、母はお雑煮に入れてくれました。

「ワシオ君が来てくれてよかったわあ。

 息子たちも一緒にお正月を迎えられると思って年末にたくさん仕入れたんだけど、長男は先月の頭に帰って来たんだけどお正月は帰れないって・・・。次男も昨日東京に帰っちゃってねえ・・・。お父さんも春にならないと帰ってこないし。ミオと二人じゃ食べきれないくらいだったのよ」

 こたつの上にはいつもの三倍ほどの皿が並び、それを前にしたワシオ君は目を回していました。

「ハヤカワのお父さんてどんな仕事してるの」

「鉱山の技師をしてるの。ミオから聞いたけれど、ワシオ君もご実家が東京なんですってね。ウチもそうだったのよ。長男が生まれた翌年にここへ引っ越してきたの。炭鉱の仕事でねえ・・・」

 わたしよりも母の方が彼と喋りたくてたまらない様子でした。

「今オーストラリアに行ってる。その前は、九州だっけ?」

「そう。その前はアメリカ。年にひと月ぐらいしか帰ってこないのよ。もう何年も母子家庭みたいなのよ、ウチは・・・」

「・・・そうですか。でも、いいですね。離れてても家族が繋がってるのがわかります・・・」

 母親ですから娘のボーイフレンドの家のことを話題にするのは当たり前でしたが、母にはワシオ君の実家のことは訊かないでねと念押しをしていました。なので、しんみりしてしまわないか心配していたのです。でもそれは取り越し苦労だったようです。今の今まで様々な人に出会いましたが未だに母以上に気遣いのできる人に出会ったことがありません。

「でも、ワシオ君には感謝してるのよ。こんな娘が生徒会のお仕事なんて務まるのかしらって思ってたから。あの学校だってお情けで入れてくれたようなものだしねえ・・・。きっと、毎日ご迷惑かけてるんでしょうねえ・・・」

「ちょっと、お母さん!」

 ワシオ君の前で、なんてこと言うんだと思わず母を睨みました。

「とんでもない!」

 ワシオ君は箸をおいてわざわざ膝を正し、わたしに頭を下げてくれました。

「ハヤカワがいてくれなかったら、ボクなんか到底ここまでできませんでした。ボクのほうこそ、いつも感謝してます。いつも援けてくれてありがとうな、ハヤカワ」

 母親の前で・・・。

 恥ずかし過ぎて萌え死にしそうでした。そのせいか、危うくおもちを喉に詰まらせてしまうところでした。

「ワシオ君。これ、お煮しめ。次男が好きだからっていっぱい作り過ぎちゃったの。よかったら食べて。利尻の昆布だから美味しいわよ」

「・・・ホントだ。美味いスね。こんなの初めてです。濃厚な味ですね」

「それからこれはね、チャンチャン焼きって言ってね。サケ漁の漁師さんの賄い料理なの。召上がってみて・・・」

 さらにワシオ君はお雑煮で5個、納豆もちで4個、甘酢醤油に海苔を巻いたおもちを3個も食べ、さすがに苦しそうになっていました。きっと気を遣って母が勧めるままに食べてくれたせいでしょう。

「ごめんなさいね。わたしがあれこれ出し過ぎちゃったから・・・。これ食べるといいわよ。上の二人も食べ過ぎた時にこれ食べさせたの」

 母は大根おろしに酢醤油をかけたのをワシオ君に勧めました。

「甘いですね。こんなに甘い大根おろし、初めて食べました」

「北国だからかしらね。さ、食べたら少し横になるといいわ。ミオ、お兄ちゃんの部屋に連れて行ってあげなさい。ワシオ君、もしよかったら今夜は泊まっていきなさいね」

「いや、でも・・・」

「遠慮しないで。あなたのお家だと思ってゆっくりして行って」

 ワシオ君のお尻を押して急な階段を登り、ちぃ兄の部屋に案内しました。二階の方が暖気が溜まって温かく、ワシオ君は額にうっすらと汗すらかいていました。

「あったかいな、ミオの家は。家もお母さんも・・・」

 絨毯の上に胡坐をかいた彼をゆっくりと押し倒し、念のために襖を閉めました。

 横たわる彼の傍に膝をつき、キスしました。

「『もしよかったら、今夜は泊まっていきなさいね』」

 母の口調を真似て言ってみました。

「いいのか?」

「お母さんが言ってるんだもん。お母さんも楽しそうだし、ね?」

「じゃ、お言葉に甘えようかな」

「甘えて、ワシオ君・・・」

 わたしは彼の唇の中に舌を入れました。ワシオ君もちょっと襖の方を気にしながら舌に絡め吸ってくれました。
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