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12 I saw her standing there
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五右衛門風呂というのをご存じでしょうか。
わたしの家のお風呂はそれでした。ちょっと膝を緩めに抱えた大人が一人ゆうに肩まで浸かれるぐらいの鋳物の風呂釜で、内蓋と外蓋とがあり内蓋の上に足を載せてお湯に沈めてはいります。
膝の上までジーンズをまくり上げ、ワシオ君に入り方を実演して見せました。知らないで内蓋まで外してしまうと足の裏に大やけどしてしまうからです。
「おおおおおおー・・・」
わたしの実演に目を丸くして感動している彼が何故か可笑しかったです。
そうしておいて勝手口から外に出て釜口に薪を放り込んで追い炊きします。湯気の出てくる風呂場の窓を見上げて、
「ワシオ君、湯加減どお?」と、言うと、
「・・・サイコー・・・。たまんねー・・・」
と返ってきました。
わたしが中学生のころまでは毎日これでお風呂に入っていました。釜焚きは次兄の役目でした。彼が大学に合格して東京に行ってしまうと女手一人でコレをする大変さを父が慮り、灯油を焚いて給湯するシステムを入れていました。ですが、父も上の兄もこれが好きで、家に帰ってくるたびに薪で焚き上げたのに入りたがります。追い炊きの威力が違いましたし、あの薪の燃える香りがなんとも言えずいいのだと言っていました。五右衛門風呂はその時だけの我が家のイベントになっていたのです。
それを是非ワシオ君にも楽しんでもらいたいと母がわたしに命じたのでした。
夜は夜で真っ白なご飯の上に直径数ミリのイクラをこぼれるほどに載せたイクラ飯をはじめとして、母はまたしてもワシオ君を数々の珍味でごちそう攻めにしました。
ちぃ兄の部屋にお布団敷いてあげなさい。
お風呂から上がると、ワシオ君のために床を延べました。母がおろしたてのシーツと枕カバーを置いておいてくれたのでそれを使いました。ふとんを敷いているとどうしようもなくムラムラが起こりましたが我慢しました。我慢せざるを得ません。さすがに母のいる同じ屋根の下でワシオ君と致すことは憚られましたし、まだ生理が三日目でした。わたしはキツイほうではありませんでしたがやっぱり無理です。自分から言い出したことでしたが、むしろ彼には帰ってもらった方がよかったかもしれませんでした。ある意味、酷でした。
母は余計なことを一切言いませんでした。
あんたは自分の部屋に寝るのよ、とか、夜中にワシオ君の部屋に行っちゃだめよ、とか、結婚前の男女なんだから、慎みなさいね、とか。へんに信用されてそれが更に酷でした。
床を延べたことを言いに階下に降りると、ワシオ君と母が楽しそうに語らっていました。しかもちぃ兄のパジャマを着てちぃ兄の丹前を羽織ったワシオ君はなんとビールまで勧められて顔を赤くしているではありませんか。
わたしの母だけでなく、このころの大人は未成年の飲酒に寛容なところがありました。母も、「自分の背丈より大きな人間は大人」という大まかな基準しか持たない昔の人でした。
何故かムカつきました。自分がまるで一人で盛っているピエロみたいに感じてしまったのです。母にワシオ君を取られるんじゃないかと錯覚してしまいそうなほど、二人は楽し気に見えました。
「お布団、敷けたよ」
なるべく不機嫌に聞こえないように気を遣ったつもりでしたが、わたしの一言で二人の和やかな談笑は途切れました。
「ありがと、ミオ」
「お母さん、ホントにどうもいろいろありがとうございました。めちゃくちゃ美味しかったです。こんなにあったかい、美味しいご飯を食べたのは何年振りかでした」
「こんなのでよかったらいつでもいらっしゃい。これでまたしばらく母娘二人きりの家になっちゃうから、男の子がいてくれる方が賑やかでいいわ。さ、ワシオ君も寝なさい。これ歯ブラシとタオルね」
二人で歯を磨き一緒に二階にあがりました。
「おやすみ、ワシオ君」
「今日はありがとな、おやすみハヤカワ」
二人ともまだ母が起きているのを意識していますからどことなくぎこちなかったです。まだ十時でした。母はいつも十一時か十二時まで起きていてそれでも四時半ごろには起きます。
もちろんそのままなんか寝られません。彼の布団を敷いてからのムラムラは続いていて、その彼が一つ屋根の下にいるのです。胸のドキドキが止まらず、それなのに自分で宥めることも憚られ、悶々となかなか時間の経たないもどかしさを堪えるしかありませんでした。そういうときは教科書を読むとか有効な時間の使い方があるはずなのですが、そんなものを読んだら眠ってしまいそうで読めませんでした。眠ったらせっかくのワシオ君との夜がもったいなさ過ぎます。悶々ムラムラは増すばかり。自然に彼とのセックスの情景が浮かんできて、濡らしてしまいました。
そんなこんなしていると階下で静かな襖の音がして水道の蛇口をひねる音がしてそれが止みました。冬、外の全ての音は雪に吸収されて聞こえなくなります。家の中の音だけが特に大きく響きます。それで母の寝る前の一連の行動がありありと浮かび、やがて静かになりました。そしてほんの僅かに、微かなラジオの音が聞こえてきました。母の寝る前の習慣でした。
ラジオを聞いているなら上の少々の物音はわからないはず。
わたしは布団を跳ね上げ、そーっと襖を開けゆっくりと冷たい廊下の床に素足を踏み出しました。ラジオの音が階下の暗闇から異常に大きく聞こえてきて寒いのに冷や汗が背中を伝います。そうして、向かい側のちぃ兄の部屋、ワシオ君のいる部屋の襖に手を掛けました。
それは夜這いでした。
とてもはしたないことをしている自覚があり、余計に恥ずかしくて昂ってしまいましたが、ここまで来ればもう止められませんでした。
部屋の中は月明かりとそれを反射する雪明りに浮かぶカーテンでぼんやりした布団の輪郭が浮き上がっていました。
わたしはじゅうたんに膝をつき、ごくりと唾を飲み込んでから囁きました。
「(ワシオ君・・・)」
その声が届くスピードが遅かったのか、何拍も置いて彼の小さな歌声が聞こえてきました。
「Well, she was just seventeen, You know what I mean・・・」
彼は起きていました。
「(おふとん、入ってもいい?)」
「And the way she looked was way beyond compare・・・」
「(ねえ、ワシオ君!)」
「She wouldn`t dance with another whooh・・・、And I saw her standing there・・・」
この期に及んでわたしを揶揄うなんて。本気でムカつきました。
わたしは強引にワシオ君の布団の中に這入ってしまったのです。
彼は少しずれて場所を開けてくれました。
「(いらっしゃい)」
と、彼は言いました。
わたしの足はもう冷えていて、それを彼の足が挟んで温めてくれました。
「(寒いだろ、もっと来いよ)」
彼の腕枕の中にはいりました。そしてキスをしました。濃厚なヤツを。お互いの唇や舌を貪るようなヤツを。歯磨き粉の香りがしました。母が階下にいると思うと、余計に昂りを感じました。布団を引っ張り上げて、爪先がはみ出るのも構わず、その中に潜りました。声を忍んだからです。
「(・・・したい)」
まだ生理が完全に終わっていなかったにもかかわらず、股間にはしっかりタンポンを入れているにもかかわらず。一度は無理だと諦めたにもかかわらず・・・。欲望が止められませんでした。あれを入れるのが無理なら、せめて肌を合わせたかったのです。
布団の中で彼とわたしの熱い吐息が混ざり合い、ムンムンした熱気になりました。
「(無理言うな。オレだってガマンしてるんだからな)」
「(だよね。でも、したいの・・・てか、しなくてもいいから、ギュッとしてほしいの)」
「(ガマンしろ。絶対ダメ。ここじゃだめ。そんなことしたらヤリたくてたまんなくなるよ。それでなくてもお前の胸が・・・ああ、やっぱダメ。離れてくれ)」
「(・・・ケチ)」
「(ミオのお母さんにあんなにもてなされたら、出来ないよ)」
彼の股間に手を添えました。パジャマの下のものがハッキリ固くなって膨らんでいます。そこを擦りながらなおも粘ってみました。
「(固すぎでしょ)」
彼の意思と股間のもの、どっちもが、です。
「(当たり前だろ。お前と一緒に寝てるんだぜ。オレだってしたくてたまんねーよ。すぐにでもお前の中に入りたい。でもダメ。この家で出しちゃうとマズいって。わかっちゃうぞ、お母さんに!)」
わたしの昂りに比べてあまりにも冷静なワシオ君に腹が立ちましたが、考えてみれば彼の言う通りなのです。ワシオ君が帰った後、シーツを洗うのは母なのです。彼は後々のわたしのことを心配してそう言ってくれているのがやっとわかりました。
出来もしないのに布団の中でごそもそするなんて滑稽以外のなにものでもありませんでした。
「(ミオが風呂に入ってるとき、お母さんが言ってた。ふつつかな娘だけど、よろしくお願いしますねって。それ聞いたら、出来ないよ。ここじゃ無理だ。あんないいお母さんがいるミオが羨ましいよ・・・)」
「(・・・わかったよ)」
どうせ、生理なのです。するのは諦めました。
その代わり、もう一度とっても濃厚なキスをしました。思う存分彼の唇と舌とを貪り尽しました。そのまま朝まで抱き合って眠りたかったです。でもマズいので、仕方なく自分の部屋に戻りました。
「(おやすみ、ワシオ君)」
「(おやすみ、ミオ)」
わたしの後ろ髪は引かれやすくできているのでしょう。なんとか身体を引っ張って自分の部屋に戻りましたが襖と廊下ともう一枚の襖を隔ててそこにワシオ君がいると思うとなかなか寝付けず、結局二時間くらいしか眠れずに朝になってしまいました。
目覚ましの最初のジリ・・・で飛び起きました。
すぐにワシオ君のいる部屋に行きました。
「ワシオ君、朝だよ。開けるね」
彼は布団から半身を起こして目をこすっていました。
「おお。おはよ・・・。元気だなあ、ミオは・・・」
そこで何をするでもないのです。どうしようもなく、一緒にいたかった、触れ合いたかったのです。ムラムラが限界に来ていました。たぶんその頃、性欲という部分では確実にわたしの方が彼よりも上回っていたと思います。布団の上から彼に跨り、彼の頭を抱えて貪るようにキスしていました。
また炊き立てのご飯に盛りだくさんのイクラを載せたのを食べ、駅まで彼を送りました。
「またいらっしゃいね」
母は玄関で彼に声を掛けていました。
「お世話になりました。ありがとうございました」
彼は律儀に頭を下げていました。
駅までの凍てついた道を二人で並んで歩きました。
「寒いね」とわたしは彼の腕を取りました。
「うん・・・」と彼は言いました。
駅に着くと架線のトラブルで一時間ほどダイヤに遅れが出ていると駅員さんがメガホンでアナウンスしていました。
わたしはすぐにワシオ君の手を引いて駅の外れに行きました。
「どこ行くの?」彼の質問にも答えず、半ば強引に。
そこには本線からの引き込み線があり使われなくなった客車や車掌車が置いてあり、小さいころに兄たちや近所の子供たちとよくかくれんぼして遊んでいた場所でした。
朽ちた客車は屋根に堆く雪を載せてまだそこにいました。窓はへばりついた雪や露が結晶になって真っ白に凍り付いていました。幼いころそのドアのカギが壊れているのをいいことに中に入って遊びましたが、ラッキーなことにそれは今も壊れたままでした。凍り付いたドアを力任せに押すとそれは難なく開きました。外はマイナス七八度、車内も同じようなものです。冷凍庫の中よりも冷えていたでしょう。タールを塗り込んだ木の床には新聞紙が散乱していてました。誰かいろんな人がいろんな目的でこの中に来たのでしょう。
二人で四人掛けの座席に並んで座りました。真っ白な窓が陽の光に輝いた車内は異様なほど明るく、不思議な空間でした。
すぐにお約束のディープキスです。
「ワシオ君。わたし今、生理なんだ。でも、ワシオ君、したいでしょ?」
「・・・うん」
彼の手袋を取り、わたしの防寒具の下のセーターの下のアンダーの下の素肌に導きました。冷たい、凍るような手がわたしの乳房を愛撫します。
「あったけえ・・・。でも、冷たいだろ」
「うん。でも、いいの。触って欲しいの。ワシオ君は? 出したいでしょ。ずっとガマンしてくれてたもんね」
私も手袋を取り掌にはあーっと息を吹きかけて揉んでから彼のジーンズのベルトを緩め中に手を忍ばせました。
「うふふ。ちっちゃくなってる」
寒いと男の子はみんなこうなります。子供のころから兄たちを見て知っていましたので全然驚きませんでした。そこを少しずつ解してゆくと次第に熱を帯びて大きくなってきます。
そこまでしてやるか!
この二三年後、わたしは東京で女子大生になりましたが、その時すでに高校時代のこのすさまじいセックスへの執念が理解できなくなっていました。なにしろセックスを覚えたてでしたし、そのくせ高校生はなにかと制約が多く、文字通り「寸暇を惜しんで」という感じだったのです。
あのころは凄まじかったなー・・・。
今から見れば単純に基地外(ワザと誤変換しております)と断罪し呆れて吐き捨てます。
ですが、当時は二人とも大真面目でした。とにかく彼を満足させたかったのです。そのぐらい、彼が好きでした。
「ああっ! チクショっ、気持ちい、出そうだっ!」
咄嗟にハンカチを出してそれで彼の先っちょをくるみました。
「いいよっ、出して。いっぱい出してっ」
「やべっ!・・・出る・・・っくふ、んん・・・ああ・・・」
彼の唇を吸い、そこをしっかりと扱きました。
「気持ちよかった? ふふっ。いっぱい、出たね」
「なんか、・・・悪ぃよ」
「気にしないで。出して欲しかったの。もうすぐ生理終わるから。そしたら、お返しして」
「・・・ありがとな。大好きだよ、ミオ」
一時間ほど遅れた列車に乗ってワシオ君は帰ってゆきました。もちろんプラットフォームで手を振りました。僅か駅5つ。それも明後日には会えるのに大袈裟の極みでしたが、当人たちにとってはやっぱり大真面目でした。
そんなふうに彼を見送って家に帰ると母も、
「いい男の子じゃないの」と彼を誉めてくれました。
「でも、お兄ちゃんたちとはどこか違うわね。なんか、こう、陰っていうか、ミステリアスっていうのかしらね。そういうのがある男の子ね」
その時のわたしは、母のその何気ない言葉の真意にはもちろん気づきませんでした。
わたしの家のお風呂はそれでした。ちょっと膝を緩めに抱えた大人が一人ゆうに肩まで浸かれるぐらいの鋳物の風呂釜で、内蓋と外蓋とがあり内蓋の上に足を載せてお湯に沈めてはいります。
膝の上までジーンズをまくり上げ、ワシオ君に入り方を実演して見せました。知らないで内蓋まで外してしまうと足の裏に大やけどしてしまうからです。
「おおおおおおー・・・」
わたしの実演に目を丸くして感動している彼が何故か可笑しかったです。
そうしておいて勝手口から外に出て釜口に薪を放り込んで追い炊きします。湯気の出てくる風呂場の窓を見上げて、
「ワシオ君、湯加減どお?」と、言うと、
「・・・サイコー・・・。たまんねー・・・」
と返ってきました。
わたしが中学生のころまでは毎日これでお風呂に入っていました。釜焚きは次兄の役目でした。彼が大学に合格して東京に行ってしまうと女手一人でコレをする大変さを父が慮り、灯油を焚いて給湯するシステムを入れていました。ですが、父も上の兄もこれが好きで、家に帰ってくるたびに薪で焚き上げたのに入りたがります。追い炊きの威力が違いましたし、あの薪の燃える香りがなんとも言えずいいのだと言っていました。五右衛門風呂はその時だけの我が家のイベントになっていたのです。
それを是非ワシオ君にも楽しんでもらいたいと母がわたしに命じたのでした。
夜は夜で真っ白なご飯の上に直径数ミリのイクラをこぼれるほどに載せたイクラ飯をはじめとして、母はまたしてもワシオ君を数々の珍味でごちそう攻めにしました。
ちぃ兄の部屋にお布団敷いてあげなさい。
お風呂から上がると、ワシオ君のために床を延べました。母がおろしたてのシーツと枕カバーを置いておいてくれたのでそれを使いました。ふとんを敷いているとどうしようもなくムラムラが起こりましたが我慢しました。我慢せざるを得ません。さすがに母のいる同じ屋根の下でワシオ君と致すことは憚られましたし、まだ生理が三日目でした。わたしはキツイほうではありませんでしたがやっぱり無理です。自分から言い出したことでしたが、むしろ彼には帰ってもらった方がよかったかもしれませんでした。ある意味、酷でした。
母は余計なことを一切言いませんでした。
あんたは自分の部屋に寝るのよ、とか、夜中にワシオ君の部屋に行っちゃだめよ、とか、結婚前の男女なんだから、慎みなさいね、とか。へんに信用されてそれが更に酷でした。
床を延べたことを言いに階下に降りると、ワシオ君と母が楽しそうに語らっていました。しかもちぃ兄のパジャマを着てちぃ兄の丹前を羽織ったワシオ君はなんとビールまで勧められて顔を赤くしているではありませんか。
わたしの母だけでなく、このころの大人は未成年の飲酒に寛容なところがありました。母も、「自分の背丈より大きな人間は大人」という大まかな基準しか持たない昔の人でした。
何故かムカつきました。自分がまるで一人で盛っているピエロみたいに感じてしまったのです。母にワシオ君を取られるんじゃないかと錯覚してしまいそうなほど、二人は楽し気に見えました。
「お布団、敷けたよ」
なるべく不機嫌に聞こえないように気を遣ったつもりでしたが、わたしの一言で二人の和やかな談笑は途切れました。
「ありがと、ミオ」
「お母さん、ホントにどうもいろいろありがとうございました。めちゃくちゃ美味しかったです。こんなにあったかい、美味しいご飯を食べたのは何年振りかでした」
「こんなのでよかったらいつでもいらっしゃい。これでまたしばらく母娘二人きりの家になっちゃうから、男の子がいてくれる方が賑やかでいいわ。さ、ワシオ君も寝なさい。これ歯ブラシとタオルね」
二人で歯を磨き一緒に二階にあがりました。
「おやすみ、ワシオ君」
「今日はありがとな、おやすみハヤカワ」
二人ともまだ母が起きているのを意識していますからどことなくぎこちなかったです。まだ十時でした。母はいつも十一時か十二時まで起きていてそれでも四時半ごろには起きます。
もちろんそのままなんか寝られません。彼の布団を敷いてからのムラムラは続いていて、その彼が一つ屋根の下にいるのです。胸のドキドキが止まらず、それなのに自分で宥めることも憚られ、悶々となかなか時間の経たないもどかしさを堪えるしかありませんでした。そういうときは教科書を読むとか有効な時間の使い方があるはずなのですが、そんなものを読んだら眠ってしまいそうで読めませんでした。眠ったらせっかくのワシオ君との夜がもったいなさ過ぎます。悶々ムラムラは増すばかり。自然に彼とのセックスの情景が浮かんできて、濡らしてしまいました。
そんなこんなしていると階下で静かな襖の音がして水道の蛇口をひねる音がしてそれが止みました。冬、外の全ての音は雪に吸収されて聞こえなくなります。家の中の音だけが特に大きく響きます。それで母の寝る前の一連の行動がありありと浮かび、やがて静かになりました。そしてほんの僅かに、微かなラジオの音が聞こえてきました。母の寝る前の習慣でした。
ラジオを聞いているなら上の少々の物音はわからないはず。
わたしは布団を跳ね上げ、そーっと襖を開けゆっくりと冷たい廊下の床に素足を踏み出しました。ラジオの音が階下の暗闇から異常に大きく聞こえてきて寒いのに冷や汗が背中を伝います。そうして、向かい側のちぃ兄の部屋、ワシオ君のいる部屋の襖に手を掛けました。
それは夜這いでした。
とてもはしたないことをしている自覚があり、余計に恥ずかしくて昂ってしまいましたが、ここまで来ればもう止められませんでした。
部屋の中は月明かりとそれを反射する雪明りに浮かぶカーテンでぼんやりした布団の輪郭が浮き上がっていました。
わたしはじゅうたんに膝をつき、ごくりと唾を飲み込んでから囁きました。
「(ワシオ君・・・)」
その声が届くスピードが遅かったのか、何拍も置いて彼の小さな歌声が聞こえてきました。
「Well, she was just seventeen, You know what I mean・・・」
彼は起きていました。
「(おふとん、入ってもいい?)」
「And the way she looked was way beyond compare・・・」
「(ねえ、ワシオ君!)」
「She wouldn`t dance with another whooh・・・、And I saw her standing there・・・」
この期に及んでわたしを揶揄うなんて。本気でムカつきました。
わたしは強引にワシオ君の布団の中に這入ってしまったのです。
彼は少しずれて場所を開けてくれました。
「(いらっしゃい)」
と、彼は言いました。
わたしの足はもう冷えていて、それを彼の足が挟んで温めてくれました。
「(寒いだろ、もっと来いよ)」
彼の腕枕の中にはいりました。そしてキスをしました。濃厚なヤツを。お互いの唇や舌を貪るようなヤツを。歯磨き粉の香りがしました。母が階下にいると思うと、余計に昂りを感じました。布団を引っ張り上げて、爪先がはみ出るのも構わず、その中に潜りました。声を忍んだからです。
「(・・・したい)」
まだ生理が完全に終わっていなかったにもかかわらず、股間にはしっかりタンポンを入れているにもかかわらず。一度は無理だと諦めたにもかかわらず・・・。欲望が止められませんでした。あれを入れるのが無理なら、せめて肌を合わせたかったのです。
布団の中で彼とわたしの熱い吐息が混ざり合い、ムンムンした熱気になりました。
「(無理言うな。オレだってガマンしてるんだからな)」
「(だよね。でも、したいの・・・てか、しなくてもいいから、ギュッとしてほしいの)」
「(ガマンしろ。絶対ダメ。ここじゃだめ。そんなことしたらヤリたくてたまんなくなるよ。それでなくてもお前の胸が・・・ああ、やっぱダメ。離れてくれ)」
「(・・・ケチ)」
「(ミオのお母さんにあんなにもてなされたら、出来ないよ)」
彼の股間に手を添えました。パジャマの下のものがハッキリ固くなって膨らんでいます。そこを擦りながらなおも粘ってみました。
「(固すぎでしょ)」
彼の意思と股間のもの、どっちもが、です。
「(当たり前だろ。お前と一緒に寝てるんだぜ。オレだってしたくてたまんねーよ。すぐにでもお前の中に入りたい。でもダメ。この家で出しちゃうとマズいって。わかっちゃうぞ、お母さんに!)」
わたしの昂りに比べてあまりにも冷静なワシオ君に腹が立ちましたが、考えてみれば彼の言う通りなのです。ワシオ君が帰った後、シーツを洗うのは母なのです。彼は後々のわたしのことを心配してそう言ってくれているのがやっとわかりました。
出来もしないのに布団の中でごそもそするなんて滑稽以外のなにものでもありませんでした。
「(ミオが風呂に入ってるとき、お母さんが言ってた。ふつつかな娘だけど、よろしくお願いしますねって。それ聞いたら、出来ないよ。ここじゃ無理だ。あんないいお母さんがいるミオが羨ましいよ・・・)」
「(・・・わかったよ)」
どうせ、生理なのです。するのは諦めました。
その代わり、もう一度とっても濃厚なキスをしました。思う存分彼の唇と舌とを貪り尽しました。そのまま朝まで抱き合って眠りたかったです。でもマズいので、仕方なく自分の部屋に戻りました。
「(おやすみ、ワシオ君)」
「(おやすみ、ミオ)」
わたしの後ろ髪は引かれやすくできているのでしょう。なんとか身体を引っ張って自分の部屋に戻りましたが襖と廊下ともう一枚の襖を隔ててそこにワシオ君がいると思うとなかなか寝付けず、結局二時間くらいしか眠れずに朝になってしまいました。
目覚ましの最初のジリ・・・で飛び起きました。
すぐにワシオ君のいる部屋に行きました。
「ワシオ君、朝だよ。開けるね」
彼は布団から半身を起こして目をこすっていました。
「おお。おはよ・・・。元気だなあ、ミオは・・・」
そこで何をするでもないのです。どうしようもなく、一緒にいたかった、触れ合いたかったのです。ムラムラが限界に来ていました。たぶんその頃、性欲という部分では確実にわたしの方が彼よりも上回っていたと思います。布団の上から彼に跨り、彼の頭を抱えて貪るようにキスしていました。
また炊き立てのご飯に盛りだくさんのイクラを載せたのを食べ、駅まで彼を送りました。
「またいらっしゃいね」
母は玄関で彼に声を掛けていました。
「お世話になりました。ありがとうございました」
彼は律儀に頭を下げていました。
駅までの凍てついた道を二人で並んで歩きました。
「寒いね」とわたしは彼の腕を取りました。
「うん・・・」と彼は言いました。
駅に着くと架線のトラブルで一時間ほどダイヤに遅れが出ていると駅員さんがメガホンでアナウンスしていました。
わたしはすぐにワシオ君の手を引いて駅の外れに行きました。
「どこ行くの?」彼の質問にも答えず、半ば強引に。
そこには本線からの引き込み線があり使われなくなった客車や車掌車が置いてあり、小さいころに兄たちや近所の子供たちとよくかくれんぼして遊んでいた場所でした。
朽ちた客車は屋根に堆く雪を載せてまだそこにいました。窓はへばりついた雪や露が結晶になって真っ白に凍り付いていました。幼いころそのドアのカギが壊れているのをいいことに中に入って遊びましたが、ラッキーなことにそれは今も壊れたままでした。凍り付いたドアを力任せに押すとそれは難なく開きました。外はマイナス七八度、車内も同じようなものです。冷凍庫の中よりも冷えていたでしょう。タールを塗り込んだ木の床には新聞紙が散乱していてました。誰かいろんな人がいろんな目的でこの中に来たのでしょう。
二人で四人掛けの座席に並んで座りました。真っ白な窓が陽の光に輝いた車内は異様なほど明るく、不思議な空間でした。
すぐにお約束のディープキスです。
「ワシオ君。わたし今、生理なんだ。でも、ワシオ君、したいでしょ?」
「・・・うん」
彼の手袋を取り、わたしの防寒具の下のセーターの下のアンダーの下の素肌に導きました。冷たい、凍るような手がわたしの乳房を愛撫します。
「あったけえ・・・。でも、冷たいだろ」
「うん。でも、いいの。触って欲しいの。ワシオ君は? 出したいでしょ。ずっとガマンしてくれてたもんね」
私も手袋を取り掌にはあーっと息を吹きかけて揉んでから彼のジーンズのベルトを緩め中に手を忍ばせました。
「うふふ。ちっちゃくなってる」
寒いと男の子はみんなこうなります。子供のころから兄たちを見て知っていましたので全然驚きませんでした。そこを少しずつ解してゆくと次第に熱を帯びて大きくなってきます。
そこまでしてやるか!
この二三年後、わたしは東京で女子大生になりましたが、その時すでに高校時代のこのすさまじいセックスへの執念が理解できなくなっていました。なにしろセックスを覚えたてでしたし、そのくせ高校生はなにかと制約が多く、文字通り「寸暇を惜しんで」という感じだったのです。
あのころは凄まじかったなー・・・。
今から見れば単純に基地外(ワザと誤変換しております)と断罪し呆れて吐き捨てます。
ですが、当時は二人とも大真面目でした。とにかく彼を満足させたかったのです。そのぐらい、彼が好きでした。
「ああっ! チクショっ、気持ちい、出そうだっ!」
咄嗟にハンカチを出してそれで彼の先っちょをくるみました。
「いいよっ、出して。いっぱい出してっ」
「やべっ!・・・出る・・・っくふ、んん・・・ああ・・・」
彼の唇を吸い、そこをしっかりと扱きました。
「気持ちよかった? ふふっ。いっぱい、出たね」
「なんか、・・・悪ぃよ」
「気にしないで。出して欲しかったの。もうすぐ生理終わるから。そしたら、お返しして」
「・・・ありがとな。大好きだよ、ミオ」
一時間ほど遅れた列車に乗ってワシオ君は帰ってゆきました。もちろんプラットフォームで手を振りました。僅か駅5つ。それも明後日には会えるのに大袈裟の極みでしたが、当人たちにとってはやっぱり大真面目でした。
そんなふうに彼を見送って家に帰ると母も、
「いい男の子じゃないの」と彼を誉めてくれました。
「でも、お兄ちゃんたちとはどこか違うわね。なんか、こう、陰っていうか、ミステリアスっていうのかしらね。そういうのがある男の子ね」
その時のわたしは、母のその何気ない言葉の真意にはもちろん気づきませんでした。
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