33 / 48
1976
33 2021 楓の落胆
しおりを挟む
親が留守でいない家の女子の部屋に連れ込み、胸まで触らせてあげたのに、結局駿は何もしなかった。
Tシャツの上から触ってるだけでそれ以上してこないので、ジレてしまい、ズボンの上からアイツのを触ったら、
「あっ・・・」
と言って腰を引き、顔を真っ赤にしてそのまま帰ってしまったのだ。
なんで? なんでこうなるの? 何が悪かったんだろ?
サッパリ訳がわからなかった。
女子にここまでヤラせておいて・・・。
めっちゃ傷ついたし、クソむかついた。
そのまま部屋にいると気が滅入る一方だった。
ラジオを点けた。プリセットのローカルFMが古い洋楽を流していた。
--それでは次のリクエスト行ってみましょう。ラジオネーム、『老人ホームの5歳児』さんからで・・・。
ディアラプレイセス、アイリメンバー・・・--
つまんね・・・。
こういう時はばあばん家の蔵に行くに限る。何故か不思議にあの中にいると落ち着くのだ。
死んでしまった人もいれば まだ生きている人もいる
この人生で出会ったそんな人達みんなを僕は愛している・・・
娘の塔子の運転する車の助手席でウトウトしかけていたら、カーラジオから懐かしい曲が流れてきました。
--ビートルズで、イン・マイ・ライフ、お届けしました。いや、いつ聴いても心にしみる名曲ですねえ。『老人ホームの5歳児』さん、どうもありがとうございました・・・--
その曲にずっと聞き惚れたい、そう思っていると、
「・・・ねえ、どうすんの!」
ドスの利いた低い声で振り向きました。ハンドルを握る塔子が怖い顔で前を見ています。
四人の娘の中では一番の器量良し。家庭的で、おしとやか。
でも、これでも母親だけにそれが上辺だけなのを十分に知っていました。真面目で芯が強く、我慢強い子でした。ですが一旦怒ると手が付けられないほどに猛々しい子でもありました。子供のころ長女の奈津子としょっちゅうケンカしてましたが、体格が小さくても絶対に負けていないのです。打ち負かされても何度も立ち上がって大きな姉に掴みかかっていました。最後には根負けしてわかったわかったと逃げるのはいつも姉の奈津子の方だったのです。
こんな険しい気性の子ですから普通に結婚しパートナーと幸せな家庭を作れるのだろうかと危ぶんでいました。持ち前の粘り強さで猛勉強し四人の中で唯一旧帝国大に入り、かつてのヤマダさんのように官僚にでもなりたいのかと思っていたら、卒業と同時に小学校からの幼馴染を家に連れて来て、
「お父さん、お母さん。あたし結婚するから」
真っ先に家庭を作り専業主婦になりわたしの最初の孫である楓を産みました。
塔子はそんな不思議な娘なのです。
「・・・どうする、って?」
「もう、決めないと」
「・・・何を?」
「ねえ、ふざけてんの? センセから言われたじゃないの! 今月中にも治療を始めないと、って」
「そんな、怒鳴らなくても聞こえてます。まだ耳もアタマもボケちゃいないんだから・・・」
「そうやってお母さんがいつまでもズルズルしてるから! もう、見てるとイライラしてくるっ!」
「あんまりカッカすると身体に毒よ。それに運転中でしょ。事故するわよ」
奈津子に頼まれた書類の手続きで県庁を訪れたあと、塔子に引きずられるようにして行ったのはショッピングモールでもレストランでもなく、病院でした。塔子が言っているのはそのことなのです。
「気持ちは嬉しいけど、自分のことは自分が一番よく知ってるの。気を揉ませて悪いけど、これだけはあたしの好きにさせて欲しいの。
今日は疲れちゃった。どこにも寄らないでまっすぐおうちに帰りたいわ」
仏頂面のままの塔子に家の前で下ろしてもらいました。
「姉さんにちゃんと今日のこと報告すること。いいわね? 後から確認するからね」
「だったら、あんたが説明してくれればいいじゃないの。
・・・ありがとうね、トコ・・・」
「・・・ん、もうっ!」
娘の車を見送って家に入り、もう一度カーラジオで流れていた「In My Life」を聴きたくなりポータブルCDプレイヤーを引っ張り出して、ついでにちょっと飲みたくなって水割りを用意して、さて聴きましょうかとPLAYボタンを押そうかというところにまたもや楓が現れました。もうヒグラシが鳴き始めていて陽も傾きつつありました。いつも突然な孫娘の襲来に備えてアブナイ写真や手紙は全て再び戸棚の中にしまってありました。慌てずに済んでよかったです。
「あっ! ばあば、お酒飲んでるぅ」
「また来たのォ? あんたも飽きないわねえ・・・」
結婚しておじいさんが亡くなるまでの間、わたしは一切お酒を絶っていましたが、ここ最近また飲み始めていました。飲む、といってもせいぜいが水割り一二杯程度です。ですがそれすら孫に咎められます。
「お薬効かなくなるから飲んじゃだめって。お医者さんから言われてるんでしょ」
「そうだったわね。ダメね。すぐ飲んじゃう。さ、そろそろお夕飯の支度を・・・」
孫娘はため息をついて縁側から上がってくると彼女のスマートフォンを見せてくれました。
「ナツおばさんから。会合で遅くなるから先に寝ててって。ばあばに伝えてって」
「ナツもねえ。なんであんたのスマホに打ってくるのかしらね」
「ばあばがスマホ見ないからでしょ」
そう言って楓は抱えて来た小さな汚らしい段ボール箱を脇に置いてゴザの座布団にぺたんと座り、麦茶をゴクゴクと飲み干しました。
亡くなったおじいさんは、男の子が欲しかった人でした。でも最初に長女のナツが生まれると、
「なんだ、女か。お前適当に名前考えとけ。まあ、夏生まれだからナツでいいだろう」
ヒドイことをいうものだと思いましたが、それでも単に「夏子」では可哀そうだから(「夏子」という名前の方には申し訳ありませんが)、「奈津子」と名付けました。その流れが楓の母になる次女の時も続き、
「また女か。フユとでもしておけ」
というのを「塔子」とし、三女四女となるともう、ものも言わなくなり、それぞれ「亜紀」「波留」と名付けました。五回目の正直で、とさらに産ませようとするのでさすがにおじいさんを諫めました。
「女だっていいじゃないの。この世には男より稼いでる女だってたくさんいるんだからね!」
するとおじいさんはそれきり何も言わなくなりました。長女のナツがおじいさんの後を継いで植木屋になると言い出したのは、わたしのその言葉を憶えていたからではないかと思うのですが、本人に確かめても「そうだったかな。もう忘れちゃった」というだけで未だにハッキリ教えてくれません。
「もう一杯飲む?」
孫のグラスを取り上げようとすると、
「それよりさ、これ知ってた?」
と段ボール箱の中から古いカメラを取り出したのです。
「ね? 値打ちものでしょ、これ。鑑定お願いしてもいいかな」
わたしの目はその古いカメラにくぎ付けになりました。
「・・・それも蔵にあったの?」
孫娘の手からそのニコンのカメラを受け取るとしみじみと見つめました。
「無理だわね。値段なんかつかないよ、これ」
「どうして? フィルムのヤツでしょ。今じゃ作ってないでしょ」
「あのね、古いからいいってもんじゃないのよ。それにこれ、壊れてるもの」
「ええっ、ウソ」
「ホラ、ここ。穴が開いてる」
「・・・ほんとだ」
ちょうどボディーと付け替え式のレンズの合わせ目がボコッとへこんでいるのです。そのせいでボディーが変形し、もう二度とレンズが交換できなくなってしまっていたのです。
「今も動くならそれなりの価値があると思うけど、これじゃあねえ・・・」
「じゃあ、いいよ。一度さ、こういうものですけどって、聞くだけ聞いてみれば」
「およしなさい」
わりとキツめに言いました。
「あんたもそろそろお夕飯でしょ。おうちに帰ってたまにはお母さんの手伝いでもしなさい。お母さん今日ばあばに付き合ってくれて疲れてると思うから。ね?」
「じゃあさ、ばあばも一緒に行こう。どうせナツおばさん帰ってこないならウチで一緒に晩ご飯食べればいいじゃん」
「お昼の残りがあるの。それ片付けたいから。あんたはもう帰りなさい。だいたい夏休みの課題終わったの? 予備校の夏期講習もあるんでしょ? 今日トコから聞いたわよ。志望校の偏差値スレスレだって・・・」
「ちっ・・・。ママ、なんでばあばに余計なこと言うかなあ・・・」
「勉強したくなくて逃げて来るなんて許しませんからね。ばあばがトコから、あんたのお母さんから怒られちゃうもん」
「わかったよ」
「あしたはここに来ないでみっちり家でやることやりなさい。それが終わってから好きなことしなさい。いいわね?」
「・・・はあい」
「わかったら、帰りなさい」
「・・・じゃあね、お休み、ばあば」
「カエデ。それは置いて行きなさい。ばあばのうちのは、ばあばのもの。勝手に持って行ったら泥棒よ」
楓が何気に段ボール箱を持ってゆこうとするのでたしなめました。
「わかったよ。じゃね、ばあば。お薬飲むんだよ。お酒はほどほどにね」
「はいはい。お休み」
孫が次女の家に帰ってしまうと縁側の蚊取り線香を中に入れ、網戸を締めました。そうして段ボール箱を膝の上に載せました。座卓の布巾で箱の埃を拭い、もう一度中身を取り出してその汚れも拭き取りました。部屋の灯りにボディーのへこみを翳し、もう一度そこをながめ、指でそのへこみを撫でました。
かつて、その壊れたカメラを譲り受けた時、実はそのへこみにはあるものが埋まっていたのです。ですが、あまりにも忌まわしいので人に頼んで取り去ってもらったのでした。
もう一杯飲みたくなってしまいました。
わたしはもう一度CDプレーヤーのボタンを押し、「In my life」を聴き直しました。
Tシャツの上から触ってるだけでそれ以上してこないので、ジレてしまい、ズボンの上からアイツのを触ったら、
「あっ・・・」
と言って腰を引き、顔を真っ赤にしてそのまま帰ってしまったのだ。
なんで? なんでこうなるの? 何が悪かったんだろ?
サッパリ訳がわからなかった。
女子にここまでヤラせておいて・・・。
めっちゃ傷ついたし、クソむかついた。
そのまま部屋にいると気が滅入る一方だった。
ラジオを点けた。プリセットのローカルFMが古い洋楽を流していた。
--それでは次のリクエスト行ってみましょう。ラジオネーム、『老人ホームの5歳児』さんからで・・・。
ディアラプレイセス、アイリメンバー・・・--
つまんね・・・。
こういう時はばあばん家の蔵に行くに限る。何故か不思議にあの中にいると落ち着くのだ。
死んでしまった人もいれば まだ生きている人もいる
この人生で出会ったそんな人達みんなを僕は愛している・・・
娘の塔子の運転する車の助手席でウトウトしかけていたら、カーラジオから懐かしい曲が流れてきました。
--ビートルズで、イン・マイ・ライフ、お届けしました。いや、いつ聴いても心にしみる名曲ですねえ。『老人ホームの5歳児』さん、どうもありがとうございました・・・--
その曲にずっと聞き惚れたい、そう思っていると、
「・・・ねえ、どうすんの!」
ドスの利いた低い声で振り向きました。ハンドルを握る塔子が怖い顔で前を見ています。
四人の娘の中では一番の器量良し。家庭的で、おしとやか。
でも、これでも母親だけにそれが上辺だけなのを十分に知っていました。真面目で芯が強く、我慢強い子でした。ですが一旦怒ると手が付けられないほどに猛々しい子でもありました。子供のころ長女の奈津子としょっちゅうケンカしてましたが、体格が小さくても絶対に負けていないのです。打ち負かされても何度も立ち上がって大きな姉に掴みかかっていました。最後には根負けしてわかったわかったと逃げるのはいつも姉の奈津子の方だったのです。
こんな険しい気性の子ですから普通に結婚しパートナーと幸せな家庭を作れるのだろうかと危ぶんでいました。持ち前の粘り強さで猛勉強し四人の中で唯一旧帝国大に入り、かつてのヤマダさんのように官僚にでもなりたいのかと思っていたら、卒業と同時に小学校からの幼馴染を家に連れて来て、
「お父さん、お母さん。あたし結婚するから」
真っ先に家庭を作り専業主婦になりわたしの最初の孫である楓を産みました。
塔子はそんな不思議な娘なのです。
「・・・どうする、って?」
「もう、決めないと」
「・・・何を?」
「ねえ、ふざけてんの? センセから言われたじゃないの! 今月中にも治療を始めないと、って」
「そんな、怒鳴らなくても聞こえてます。まだ耳もアタマもボケちゃいないんだから・・・」
「そうやってお母さんがいつまでもズルズルしてるから! もう、見てるとイライラしてくるっ!」
「あんまりカッカすると身体に毒よ。それに運転中でしょ。事故するわよ」
奈津子に頼まれた書類の手続きで県庁を訪れたあと、塔子に引きずられるようにして行ったのはショッピングモールでもレストランでもなく、病院でした。塔子が言っているのはそのことなのです。
「気持ちは嬉しいけど、自分のことは自分が一番よく知ってるの。気を揉ませて悪いけど、これだけはあたしの好きにさせて欲しいの。
今日は疲れちゃった。どこにも寄らないでまっすぐおうちに帰りたいわ」
仏頂面のままの塔子に家の前で下ろしてもらいました。
「姉さんにちゃんと今日のこと報告すること。いいわね? 後から確認するからね」
「だったら、あんたが説明してくれればいいじゃないの。
・・・ありがとうね、トコ・・・」
「・・・ん、もうっ!」
娘の車を見送って家に入り、もう一度カーラジオで流れていた「In My Life」を聴きたくなりポータブルCDプレイヤーを引っ張り出して、ついでにちょっと飲みたくなって水割りを用意して、さて聴きましょうかとPLAYボタンを押そうかというところにまたもや楓が現れました。もうヒグラシが鳴き始めていて陽も傾きつつありました。いつも突然な孫娘の襲来に備えてアブナイ写真や手紙は全て再び戸棚の中にしまってありました。慌てずに済んでよかったです。
「あっ! ばあば、お酒飲んでるぅ」
「また来たのォ? あんたも飽きないわねえ・・・」
結婚しておじいさんが亡くなるまでの間、わたしは一切お酒を絶っていましたが、ここ最近また飲み始めていました。飲む、といってもせいぜいが水割り一二杯程度です。ですがそれすら孫に咎められます。
「お薬効かなくなるから飲んじゃだめって。お医者さんから言われてるんでしょ」
「そうだったわね。ダメね。すぐ飲んじゃう。さ、そろそろお夕飯の支度を・・・」
孫娘はため息をついて縁側から上がってくると彼女のスマートフォンを見せてくれました。
「ナツおばさんから。会合で遅くなるから先に寝ててって。ばあばに伝えてって」
「ナツもねえ。なんであんたのスマホに打ってくるのかしらね」
「ばあばがスマホ見ないからでしょ」
そう言って楓は抱えて来た小さな汚らしい段ボール箱を脇に置いてゴザの座布団にぺたんと座り、麦茶をゴクゴクと飲み干しました。
亡くなったおじいさんは、男の子が欲しかった人でした。でも最初に長女のナツが生まれると、
「なんだ、女か。お前適当に名前考えとけ。まあ、夏生まれだからナツでいいだろう」
ヒドイことをいうものだと思いましたが、それでも単に「夏子」では可哀そうだから(「夏子」という名前の方には申し訳ありませんが)、「奈津子」と名付けました。その流れが楓の母になる次女の時も続き、
「また女か。フユとでもしておけ」
というのを「塔子」とし、三女四女となるともう、ものも言わなくなり、それぞれ「亜紀」「波留」と名付けました。五回目の正直で、とさらに産ませようとするのでさすがにおじいさんを諫めました。
「女だっていいじゃないの。この世には男より稼いでる女だってたくさんいるんだからね!」
するとおじいさんはそれきり何も言わなくなりました。長女のナツがおじいさんの後を継いで植木屋になると言い出したのは、わたしのその言葉を憶えていたからではないかと思うのですが、本人に確かめても「そうだったかな。もう忘れちゃった」というだけで未だにハッキリ教えてくれません。
「もう一杯飲む?」
孫のグラスを取り上げようとすると、
「それよりさ、これ知ってた?」
と段ボール箱の中から古いカメラを取り出したのです。
「ね? 値打ちものでしょ、これ。鑑定お願いしてもいいかな」
わたしの目はその古いカメラにくぎ付けになりました。
「・・・それも蔵にあったの?」
孫娘の手からそのニコンのカメラを受け取るとしみじみと見つめました。
「無理だわね。値段なんかつかないよ、これ」
「どうして? フィルムのヤツでしょ。今じゃ作ってないでしょ」
「あのね、古いからいいってもんじゃないのよ。それにこれ、壊れてるもの」
「ええっ、ウソ」
「ホラ、ここ。穴が開いてる」
「・・・ほんとだ」
ちょうどボディーと付け替え式のレンズの合わせ目がボコッとへこんでいるのです。そのせいでボディーが変形し、もう二度とレンズが交換できなくなってしまっていたのです。
「今も動くならそれなりの価値があると思うけど、これじゃあねえ・・・」
「じゃあ、いいよ。一度さ、こういうものですけどって、聞くだけ聞いてみれば」
「およしなさい」
わりとキツめに言いました。
「あんたもそろそろお夕飯でしょ。おうちに帰ってたまにはお母さんの手伝いでもしなさい。お母さん今日ばあばに付き合ってくれて疲れてると思うから。ね?」
「じゃあさ、ばあばも一緒に行こう。どうせナツおばさん帰ってこないならウチで一緒に晩ご飯食べればいいじゃん」
「お昼の残りがあるの。それ片付けたいから。あんたはもう帰りなさい。だいたい夏休みの課題終わったの? 予備校の夏期講習もあるんでしょ? 今日トコから聞いたわよ。志望校の偏差値スレスレだって・・・」
「ちっ・・・。ママ、なんでばあばに余計なこと言うかなあ・・・」
「勉強したくなくて逃げて来るなんて許しませんからね。ばあばがトコから、あんたのお母さんから怒られちゃうもん」
「わかったよ」
「あしたはここに来ないでみっちり家でやることやりなさい。それが終わってから好きなことしなさい。いいわね?」
「・・・はあい」
「わかったら、帰りなさい」
「・・・じゃあね、お休み、ばあば」
「カエデ。それは置いて行きなさい。ばあばのうちのは、ばあばのもの。勝手に持って行ったら泥棒よ」
楓が何気に段ボール箱を持ってゆこうとするのでたしなめました。
「わかったよ。じゃね、ばあば。お薬飲むんだよ。お酒はほどほどにね」
「はいはい。お休み」
孫が次女の家に帰ってしまうと縁側の蚊取り線香を中に入れ、網戸を締めました。そうして段ボール箱を膝の上に載せました。座卓の布巾で箱の埃を拭い、もう一度中身を取り出してその汚れも拭き取りました。部屋の灯りにボディーのへこみを翳し、もう一度そこをながめ、指でそのへこみを撫でました。
かつて、その壊れたカメラを譲り受けた時、実はそのへこみにはあるものが埋まっていたのです。ですが、あまりにも忌まわしいので人に頼んで取り去ってもらったのでした。
もう一杯飲みたくなってしまいました。
わたしはもう一度CDプレーヤーのボタンを押し、「In my life」を聴き直しました。
1
あなたにおすすめの小説
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】美しい人。
❄️冬は つとめて
恋愛
「あなたが、ウイリアム兄様の婚約者? 」
「わたくし、カミーユと言いますの。ねえ、あなたがウイリアム兄様の婚約者で、間違いないかしら。」
「ねえ、返事は。」
「はい。私、ウイリアム様と婚約しています ナンシー。ナンシー・ヘルシンキ伯爵令嬢です。」
彼女の前に現れたのは、とても美しい人でした。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる