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しおりを挟むサットン・プレイスには戦前の大型高級ビルコンドミニアムが多く残っている。イーストリバー沿いの通りは、石畳の道に優雅なブラウンストーンが建ち並び、絵葉書のような美しい街並みになっていた。その中でもザックに連れてこられたこのコンドミニアムは比較的新しい建物のようだ。高階層のビルはエレガントで、高級ブティックのように洗練された雰囲気がある。開放的なロビーは白い大理石の床だ。
おまけにコンシェルジュがいる。なんてこった。
ジーンの住むアパートの不愛想な管理人とは全然違う。
ザックは朗らかにコンシェルジュと挨拶を交わすと、エレベーターに向かう。ジーンは呆然としたまま、ザックに連れられてエレベーターに乗り込んだ。
最上階の54階にはルーフトップがあって、全面ガラス張りでマンハッタンが一望できるらしい。そんな説明を受けながら、みるみるうちにエレベーターは上昇し、あっという間に目的地らしい50階に到達した。
乗り込んだエレベーターがプライベートエレベーターで、階を選択するボタンの数が極端に少なかったことからも薄々気付いてはいたが、どうやらこのフロアがひとつの物件らしい。部屋に入って驚いた。天井は高く、4mほどあるだろうか。天井から床までがすべてガラス張りで、ニューヨークの冬の澄んだ青空がとても近くに感じられる。
あれこれと楽しげに部屋について説明するザックは、呆然とするジーンの代わりに彼の首からマフラーを外し、コートを脱がせた。それからちゅっと唇の端を吸って満足そうに微笑む。
「どうかな、ダーリン」
「どうって……ビックリしてる。ここ、どうしたんだ?」
ザックにダーリンと呼び掛けられるたび、ジーンは毎回とろけるような幸せな気持ちになるが、今回ばかりはそれどころではない。
「先週売買契約が完了ばかりなんだ。今日に間に合ってよかった。ピーター・クーパー・ビレッジとも迷ったんだけど、この辺りの落ち着いた雰囲気が気に入った。きみも気に入ってくれるといいんだけど」
「買ったんだ……」
まさかジーンのために買ったとは思わないけれど……さすがに、まさか、ありえない。
戸惑うジーンの手に、ザックが何かを握らせた。カードキーのようだ。
「いつでも使ってくれていい。何ならずっとここにいてくれてもいいんだけど――」
ブンブンと無言で首を激しく振るジーンに、ザックは苦笑した。
「でも、鍵は受け取ってくれるね?」
突き返すわけにもいかず、だからと言って素直に頷くことも躊躇われた。
「どうして僕にここまでしてくれるんだ?」
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