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第三十八話 ヤキを入れる

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 昴side

「中に居る…よな?」
「居るな」
「もう入って見るしかないんじゃない?」

 警察での処理を済ませ、元カレを地下に拘束してきた。
 一旦蒼の様子を見に来たが…事務所にいるはずが、ノックをしても誰も出て来ない。
 メッセージにも電話にも応答がなく、誰も彼もが音信不通。
 何か起きてるのか?

 慧が警戒しながらそっとドアを開ける。



「「「おおー!」」」
「マクロを組んだりすればもっと楽になるんだけど、私はそこまでは知らないの。雪乃の方が知ってるんじゃない?」

「このように工夫をすればよいとは存じ上げませんでした。経営をしていた人の生きた知恵ですわね!」
「お前ちゃんと社長してたんだな」

「個人事業主だから、表計算出来ないと年末に泣くことになるからね。銀だってやってるんじゃないの?」

「俺は税理士雇ってんだよ。桃太郎はおつきの猿にでもやらせてんのか?」

「太郎はつけるなって言ってんのにひどいな。猿なんかいるわけないだろっ!」

「ふふ。桃と雪乃はどうしてるの?スネークはご実家でされてるのかな?」
「そうですよ。私はパソコンを触ったことはありません」
「わたしも税理士に丸投げですわ~」
「ボクは知り合いに頼んでる。資格持ってないけど」

「組織でやればいいのにね?経理部作って源泉徴収して。ボスに頼んでみる?」
「ますますホワイト企業になっちまうな」

 ワハハ、と大勢が笑う声。
税理士???お前達税金納めてたのか?!
驚愕の事実…。そしていつの間に名前呼びに?俺すら知らないんだが。桃太郎と銀はコードネームそのままか。



 それにしても…何が起きてるんだ??

 部屋に入ると黒山の人だかりが一台のパソコンを取り囲んで、みんなで笑っている。
 なんだこれ。ここウチの組織だよな?

「ん?あっ!ボス帰ってきた!」

 人だかりが割れて、その中から蒼がひょこっと顔を出す。

 パタパタと駆け寄ってきた蒼が飛びついてきた。抱きしめて、ため息をつく。
 よかった。何もなかったのか…。


「誰も返事をしないから心配したんだぞ。何かあったのか?」

 俺たち三人が来ても全員リラックスモードなのはどういうことなんだ。いつもはピリピリしてたのに。
 和やかな雰囲気でコーヒーの匂いがしている。
 荒れ放題だった室内が綺麗になって、まるで普通のオフィスのようだ。
 窓が開け放たれてそこいらに消臭剤まで置かれている。

「随分室内の様子が変わったな…」
「確かに。いかにも犯罪者の事務所って感じだったのに」

 千尋も慧も呆然としている。


「時間かかりそうだったし、お掃除してたの。銀と桃と雪乃とスネークと事務所の人で!今エクセルの使い方教えてたところ」

「な、名前呼びになったのか?」
「うん、そう。みんながそうしろって。だから昴達もそうして。ねっ」

 シルバー達はこちらを見ながら照れている。名前を明かすとは…どういう風の吹き回しだ?



「なぜスネークはそのままなんだ」
 いや、そうじゃない。と思いつつ口が勝手に開く。
驚きのあまり頭がうまく回らない。

「スネークはお寺さんの名前だから、あんまり呼ばれたくないって。だからそのままなの」

「寺?出身が寺なの?」
「慧知らなかったの?」
「いや、素性なんかよっぽど仲良くなければみんな知らないよ…」

「蒼が何かやらかしたなこれは」
「えぇー千尋の言い方ひどいー」
「いい意味だよ。仲良くなったのか?」
「うん。みんないい人なの。大好き」

 複雑だ。また蒼の大好きが増えた。




「と、とりあえずそれは置いといてだ。ちゃんとご飯食べれなかっただろ?何か食べるか?」
 千尋が蒼の顔を覗き込む。

「…忘れてた…」
「クッキーは?」
「食べてないの。言われたらお腹空いてきた」

 お互い呆然とする。
 もしかしてお腹空いても泣かなくなったのか?慧と話した感じだと軽減はしそうではあったが。
 あんな事の後で厳しいだろうと思ってメッセージをしたのにそれにも返事はなかったし。俺たちは完全に忘れられていたな。



「きゃっ!鬼着信ですわ~!」
「わっ!ボクも」
「気づきませんでした、私も鬼着信です」
「すまん、楽しすぎて携帯を見るの忘れてたぜ」

 楽しすぎて??混乱が強まる。本当に何が起きた?



 シルバー…銀か?がやってきて、蒼の頭をポンポンとたたく。

「ボス、こいつすげーぞ。事務所の仕事も改善したんだ。明日から事務員の奴らも仕事ちゃんとできるってよ」

「な、何がどうなってそうなった」

「組織の人たちは戦う術は知ってても普通のお仕事は知らない事ばっかりなんだから教えてあげなきゃダメだよ。
 教えたらちゃんとできるようになったし、お掃除の仕方も知らなかっただけ。
 あんな風に環境が悪いとお仕事やりづらいでしょう?これで千尋の仕事も減ると思うよ」

「蒼…」
「タバコやめなきゃだから、徹夜はもうしちゃダメ。ねっ」
「あぁ、そうだな…」

 千尋が微笑むと、今度はそっちに飛びつく。


「蒼、俺には?」
「ふふ、順番ね」

 千尋から離れようとすると、力を入れて千尋が蒼を抱きしめ、慧が怒る。

 その様子を組織のメンバー達や事務員が笑顔で見守っている。



「そう言うわけだ。明日から俺らもここにフツーに出勤するんでよろしくな」
「は?」

 銀がタイムカードを切ってスタスタと部屋を出て行く。
 なんでタイムカード押した?

「じゃあ私たちも~」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様…です」

「みんなまた明日ね~」

 蒼が手を振ると、振り向いた全員が笑顔で手を振って帰って行く。


「千尋、いい加減離してくれる?」
「いやだ。お前昨日蒼といちゃついただろ。今日は俺の当番だ。」
「そう言うこと言っていいのかなー。蒼の気持ちいいツボ見つけたんだけどなー」
「…教えろ」


「ちょっと!二人ともこんなとこでやめてっ!恥ずかしいでしょ!」

「なんで?俺は聞かれてもいいのに」
「もっ!もう!千尋と同じこと言わないの!」



 うん、いったん休憩にしよう。ツボは気になるが。
 事務員達に手を挙げて、三人まとめて引っ掴み、エレベーターに向かった。

 ━━━━━━

「それでね、業務改善についてまとめておいたので昴達に見てもらいたいの」

 ソファーでクッキーを齧ってる蒼が、俺たちにプリントされた紙を渡してくる。

「警察公認企業になるんだから、会社らしくしないといけないと思う。タイムカードを作ったし、税金の手続き、雇用保険とか全部まとめてあります」

「ふ、なるほどな。もう組織改革に着手したのか」

「わかった。まとめてやっておく。」
「千尋、事務員さんも活用してあげてね。一通りは教えてるから」
「マジか」
「うん。」
「蒼すごいね?」


 ふふん、と得意げに笑う蒼。

「私、自分のことを大切にするの。だから組織もちゃんとした会社にしたいの」


 ハッとする。蒼が自分の手に巻かれた包帯をさすりながら呟く。



「みんなのことが好きだから、そうしないといけないって。銀が言ってた」




 俺たちがいない間に、今日の野戦の話でもしたか?
 蒼が自分を大切に思ってくれるなら、嬉しいが…。



「みんな、そう言ってくれたの。あの人、地下室にいるの?」
「あ、あぁ。連れてきてはいるが」

「会わせてほしいな」

「蒼…嫌な思いをわざわざしなくてもいいんだぞ?」
「ううん、違うの。ぶん殴るの」



「「「えっ?」」」

 ニコニコ笑顔の蒼がサムズアップしている。




「私のことを大切にしなかったから…ええと、ヤキを入れるの!」
「誰だ、蒼に変な知識を教えたのは」

「雪乃が言ってた。再起不能にしておやりなさいって」
「あいつらに預けたのが間違いだった」

「どうして?色んなこと教わったの。殴り方もちゃんとこう、男の人のあの、あそこに…」
 千尋が青い顔をして、口を塞ぐ。




「どうするんだ、昴。蒼がヤンキーになってしまったんだが」
「ぷはっ。ヤンキー!犯罪組織で…うぐっ」

 慧が笑い出して、それを見て蒼が口を塞がれたままニコニコしてる。




「本当に会うのか?口は動くぞ?蒼がこれ以上傷つけられるのは耐えられないんだが」
「むむむーうーむー」
「千尋、離してやれ」
「嫌だ。この流れは良くない」

 蒼が何かして、びっくりした千尋が手を離す。
「ふふ、ごちそうさま」
「な、なな…」

 …舐められでもしたか?




「大丈夫。潜入作戦が始まる前に、けじめをつけたいの。ちゃんとして、お仕事して…」
「イチャイチャしたいんだったな」
「うん、そうだよ」


「はぁ……」
「蒼は言い出したら聞かないから。俺たちも一緒に行くよ?」
「うん、お願いします」




 三人で顔を見合わせ、苦笑いになる。
「仕方ないな。行くか」

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「おぉ、すごいね。拘束衣?」
「そう。千尋、口もガムテープしたらいいんじゃないかな」
「そうするか」

「やっ!やめてくれ!!!蒼!助けて!」



 青を通り越して白くなった蒼の元カレ。
 白い拘束衣を着せてギチギチに締め上げ、床に転がっている。



「わー、たくさん道具がある…これなぁに?」
「わっ!触っちゃダメだよ!ばっちいから!それは爪を剥がすやつ」
「それも言っちゃダメだろ…」

 拷問道具に興味津々の蒼を抱えて千尋と慧が慌てている。
 完全に無視されている元カレは不思議そうな顔してるな。



「あ!鞭!猫鞭はダメだなぁ。皮が剥げちゃうもんね」
「えっ、何で知ってるの?」
「私拷問も習ってるよ。基本的にすぐ死なない道具しかないんだよね、こう言うの」



「「「……」」」
 思わず沈黙してしまう。蒼はどこまでやったことがあるんだ?怖いんだが。



「そんな顔しないで。みんなにはしないよ。あ、これ懐かしいなぁ」

 手に取ったのはクラッキングという長いムチ。それは危ないブツなんだが…。


 鞭のグリップを右手で握り、左手で先までなぞって長さを確かめ…俺たちから少し距離をとって片足を前に出す。
 …ものすごく、色んな意味でドキドキする。

 水平に繰り出した手を急激に止め、空中でパァン!と大きな音が鳴る。



「えっ!うまっ!!それ難しいんだよ…」
「慧は知ってるの?先端が音速超えるんだよね。引っ張ると皮膚切れちゃうから気をつけてね。」
「ハイ」

 慧が真面目な顔で返事をしている。
 わかるぞ、その気持ち。




「道具はやめとこうかな。さてさて」

 ごろりと転がった元カレにトコトコと近づき、蒼がしゃがむ。

「ちょっ!待って!まだガムテープしてない!」
「いいの。お話ししたいから。ね、タカシ」

「……」


 元カレのタカシは涙目で蒼を見つめる。
 芋虫になってはいるが近づけたくない。
 蒼を抱きしめて芋虫から距離を取る。



「んもう。邪魔しないで」
「近づけたくない。こいつと蒼が同じ空間にいるだけで嫌なんだ」
 必死で言うと蒼が困った顔で頷く。

「うーん、わかった。タカシ、昨日会ったっていう女の子はどうしたの?」

「は?いや、まず俺を助けろって!女なんかどーでもいいだろ!」




 すう、と蒼の目が細くなる。

「質問に答えなさい。昨日の子はどうしたの」



 間近にいる俺の背筋に怖気が走る。
 なんて気配になってるんだ…。
 ゾクゾクした震えが手足の先まで走る。




「…は?蒼だよな?えっ?」

「質問に、答えなさい」




 目つきの鋭くなった蒼の声色が変わる。
 顔からまた表情が消えた。
 …拷問を習ったのは確かなようだ。空気が冷たくなっていく。
 蒼を離さないように腕に力を込める。


 そろりそろりと千尋と慧が俺の後ろに隠れた。

「殺気?なんか違うよね」
「わからん。ゾクゾクする」

 俺もだ。殺気も含まれているが、何かを支配しようという感じの雰囲気。
 俺たちの殺気がわからなかったタカシもガタガタと震えている。




「な、なななんだよ!こえぇよ!!昨日の女はラブホでクスリ使って…ヤって、朝になっても起きないからそのまま逃げてきた」



「ねぇ、女の子はどうなったの?」

 振り向いた蒼はいつもの顔つき。空気がふわりと暖かくなる。
 被害者の女の子を心配してたんだな。


「特定、保護済みだ。現在入院している。薬よりも体の中の怪我が酷い」

 伝えた瞬間に蒼が泣きそうな顔になる。
 腕の力を緩め、もう一度ギュッと抱きしめた。
 目をつぶって、開いた蒼の目は悲しみに満ちている。



「…またやったんだ…いつもそうだった。どうして女の子にそんな風にするの?いつまで人を傷つければ気が済むの?」

「め、めんどくさいんだよ!前戯とかしなくたって突っ込みゃ濡れるし。どうせ気持ち良くなるんだからいいだろ!」

「それは緊急性生理現象なの。決して気持ちいいわけじゃない。あなたは人としておかしい。どんなに痛いか知らないから繰り返すの?内臓が切れるのと同じくらい痛いのに」

「な、何言ってんだよ!?お前だってそうだっただろ?濡れないのが悪いんだよ!マグロだし、ちっとも感じねーし!ていうかさっきの彼氏じゃなくて何でコイツら…ハッ!パパ活か?」

 おい、パパ活って歳じゃない。
 …ないよな?




「バカにしないで。シルバーは組織の大切な仲間だから恋人じゃない。
 それから、パパ活じゃなくて将来を誓う恋人です。
 タカシと違って優しくて、強くて、カッコよくて、私の大切な人たちなの。セックスは愛があるから気持ちいいんだよ。あなたと私の間には無い物だから気持ち良くなかった。
 どうしてそんな事すらわからないの…どうしたら理解るの…?女の子が本当にかわいそう……」

「な、何だよそれ…い、意味わかんねーよ!そもそもお前の締まりが悪かったから!!」

「は?何言ってんだお前。蒼はキツキツだが。お前のが小さいんじゃないのか?」

「ちょっ!?」
(何言ってるの!?千尋!)

 蒼が口パクしてる。千尋がちらっと目線を遣す。なるほど。そういう作戦か。それはいいな。慧も頷いてる。


「蒼は小さいというよりは、筋肉があるから締まりがいいんだ。柔軟性もあるし奥が深い」
(ちょっと!昴!!) 

「あー、確かに。あと感じやすいし濡れやすいよね。ていうか、マグロって嘘でしょ?蒼は可愛いくらい積極的だよ。恥ずかしがりながらされるとたまらなくなる」
(け、慧っ!!)


「そうだな。俺は縛られた。最高だった。」
「何だと…??俺は蒼からその…い、入れて貰ったし」
「おねだりも上手だし、おかわりも好きだよね」
「「たしかに」」

「自分の方が夢中になってしまって手加減ができないのが問題なんだ」
「俺もだ…どうしたら優しくできるんだ?蒼の声を聞いてると、限界がわからなくていつまでも求めてしまう」
「蒼が可愛すぎて暴走しちゃうんだよね。こんな子今まで経験した事ないよ」

「「本当にな」」

 


蒼が真っ赤になって胸元に顔を押し付けてる。

 蒼が怖い顔なんかしなくていいんだ。
 殴るなら立ち会ってすぐ殴っただろうに、そうしなかった。
 反省してくれるかもしれないと思ったんだろ?

 そう思う蒼は心が綺麗だと思うが、こういう手合いは反省なんかしない。
 自分の非力さを思い知るしかないんだ。

 狙いどおり元カレは魂が抜け出てる。



「お前さ、締まりが悪いって感じてるのに何で傷つけた?そもそも矛盾した話なんだが。サイズが小さいのに相手を痛い目に合わせるってどんだけ下手なんだ。
 粘膜の中に入れるのに、どうして触ってあげないんだよ。好きなら彼女の気持ちいい顔が見たいんじゃないのか?」

「そうだねぇ。目的が出したいだけなら自分一人でした方がいいんじゃない?セックスの目的は出す事じゃない。気持ちを伝え合うための大切な方法だよ。お互いが信頼しあってこそ、そうする資格がある。」

「資格がないということが自覚できないほど猿なんだろう。技術もない、愛情もない小さな凶器で人を傷つけて。最低だな。
 相手が愛おしくてたまらない感情、自分の手で感じてくれて、可愛い顔を見せてくれる幸せを知れないなんて哀れな奴だ」



 蒼が涙を溜めてる。
 すまん、こんなこと言って。当たり前の事なのにな。
 蒼が愛おしいんだ。大切だから触れ合いたいし、傷つけたくない。
 自分のことしか考えずに蒼を傷つけたコイツはボコボコにしたって気が済むような存在じゃないが、蒼がそう出来ないならせめて精神的にだけでも潰してやりたい。



 蒼が殴ったらきっと拳を痛める。殴る相手のことを思ってしまうから。
 そんなの嫌なんだ。
 俺たちは、同じ気持ちでいる。
 蒼を通して前よりも絆が深くなっている。
 蒼がいてくれたからそうなったんだ。




「もう、いいかな。なんか、バカらしくなってきちゃった。この人どうなるの?」

 涙を拭ってやると、蒼がしょんぼりしながら尋ねてくる。


「暴行の罪状が多数、麻薬を所持、使用、窃盗もしてる。楠よりも長い間刑務所の中だ」



「そう…。よかった。」

 呟いて、真っ白になっている元カレを眺めている。


「私、あなたと付き合っていた時自分の事が嫌いだった。今は自分のことを大切にしなきゃって思ってる。私といて幸せな顔してくれるから、私自身のことも好きになれそうなの。
 私が傷つくと、その人たちが傷つくの。
 自分しか大切じゃないのに、人にも大切にしてもらえないなんて…寂しい人だったんだね。かわいそう……」

 蒼の哀れみの言葉にさらに顔色が悪くなる。
 なかなかいいトドメだ。




「刑務所に入ったら女の子の気持ち、わかると思うよ。頑張ってね」

「そうだな。こいつのお仲間が刑務所にはたくさんいる。男に穴は一つしかないが」

「軟膏は支給されるぞ。理由と使用目的が聞かれるが」
「あー、なるほど。正しく地獄なんだね」




「…えっ?」

 自分の世界から帰ってきたが、会話は理解できてないようだ。

「尻が裂けると痛いぞ。頑張れよ」

 転がったままの元カレは、呆然としたままこちらを見上げていた。
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