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Episode.4
親友④
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これって、私のせい……なのかな。私が謝れば丸く収まる?
「なんか、すみません」
「え? なんで梓ちゃんが謝るの?」
「テメェのせいだろ」
「え? 僕?」
違う違う! そういうことじゃない! 悪化させないでよ、桐生さん!
「……ああ、ははは。私はこれでぇ……失礼します!」
この場から逃げようと走り出したら、桐生さんの親友さんにガシッ! と腕を掴まれた。
「こらこら、逃げない逃げない」
「おい、触んじゃねぇ」
「こんなことでいちいち怒っていたら、この先やっていけないよ~? 誠」
「触んなっつってんだろ。聞こえねぇのか」
── 声だけじゃない。私は初めて桐生さんが不機嫌そうな表情を浮かべているのを見た。いや、不機嫌そうっていうかもうこれは怒ってる……。
「はぁー。器の小さい男はどうかと思うよ? 誠」
なんて言いながら私の腕から手を離して、やれやれと言いたげな顔をしてる親友さん。そして何か言いたげな桐生さんは、めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしながら近づいてくる。
「おい」
「はっ、はい!」
「なってねぇ」
『なってねぇ』……とは?
「……えっとぉ……何がでしょうか……?」
「ははっ。『危機管理がまるでなってない』って言いたいんじゃないかな? 誠は」
「あ、ああ……」
危機管理がまるでなってないと言われても、危機管理がある程度できていたから、ひとり暮らしが継続できている……はずなんですけどね?
「危ねぇ」
『危ねぇ』……とは? 俺達は危ない野郎だぜ? という意味でしょうか。ま、まあ、“危険な人”ではあるのかな。私からしたら、ただのぶっきらぼうで言葉足らずな優しい強面イケメンなんだけど。でも、ヤクザ……なんだもんね、桐生さんって。
「『危ねぇ』……ですか……た、たしかに?」
私はススッと桐生さんから離れて、親友さんとも距離を取った。すると、大爆笑し始めた親友さん。そして、更に機嫌が悪くなった桐生さん。
「やっぱ面白いね~! 梓ちゃん」
「はぁーー」
目頭をぎゅっと摘まんで、めちゃくちゃ深いため息を吐く桐生さん。おそらく私は、解釈を間違えたっぽい。
「……すみません。何やら間違えたっぽい……ですね」
「いや? まぁそういうことだよ? “危ない人には気をつけようね? ”ってこと! ね、誠」
「チッ」
・・・一瞬、ほんの一瞬。桐生さんの瞳が切なげに揺らいで見えた。
「……あ、あのっ! 私、桐生さんは怖くないっていうか、怖いけど、怖くない……みたいな感じで。だから全然平気だし……桐生さんを危ない人だなんて思いながら接してない! です」
桐生さんに迫りながら大きな声を出して、私は一体なにがしたいんだろう。何をこんなにも必死になっているのだろう。ほら、桐生さんも困ってるじゃん……いや、いつも通りの真顔だけれども。
「……」
・・・ねえ、何か言ってよぉ。
「あ、あの……桐生さん」
何も言ってくれないのが不安になって見上げると、分かりづらい……分かりづらいんだけど、少し微笑んで心なしか機嫌の良さそうな桐生さんが私を見下ろしていた。
桐生さんの微笑みに胸が高鳴るのと同時に、私の中で桐生さんという存在が、ただのお隣さんから“特別”へと変わる……そんなような気がした。この特別がなんなのかは分からない。お友達……? お兄ちゃんみたいな……?
── そして、私の頭の中には“禁断”の二文字が浮かんできた。
ドクンッドクンッドクンッ……と、自分の心臓の音しか聞こえなくなって、『どうしよう』という焦りより『これがきっと“恋”なんだ』というワクワクとドキドキのほうが上回ってる。
「どうした」
「……へ?」
「顔、赤いぞ」
「え、あ、いっ、いえ!」
桐生さんの大きな手が伸びてきて私の額に触れようとした時、美冬が脳裏をよぎった。私の大切な存在、何よりも。
「……あ、あの……ごめんな……さい」
「いや、悪い」
私はいつも優しく頭をポンポンと撫でてくれる桐生さんの大きな手を……パチンッと振り払ってしまった。
だめ、だめだよ……禁断を破ることはできない。美冬と離ればなれになるなんて、そんなの私は耐えられない。そんな覚悟、できるわけがないじゃん。
それに相手は桐生さんだよ? 私なんか相手にされないって、どう考えても。女の人に困ってなさそうだし、なんならたくさんいそうだし……? 年の差だって結構ありそうだしさ……だって多分30歳前後でしょ? 桐生さん。
・・・なんて、こんなことごちゃごちゃ言ってるけど、はっきり言って私なんかと桐生さんが“釣り合うはずがない”……この言葉に尽きる。
それに桐生さんは、ヤクザ。しかも結構お偉いさんっぽいし、軽い気持ちなんかで好きになっては絶対にイケナイ人。
落ち着いて、今までずっと上手くやってきたじゃん。好きになるのも、なられるのも困るって、全て回避してきたじゃん。
「大丈夫か」
大丈夫だって、自分に言い聞かせる。気のせいだって……こんなのは気のせいだって……そう言い聞かせて、なかったことにする。
「……ははっ、すみません! ちょっとボーッとしちゃってて。手、痛くなかったですか?」
「別に」
「そうですか。じゃ……私はこれで」
「はいはい、ちょっと待ちなよ。梓ちゃん」
満面の笑みで私を引き止めた親友さん。ぶっちゃけ勘弁してほしい。
「……なんですか?」
「3人でタコパしようか」
「「は?」」
私と桐生さんが声を揃えたのは言うまでもない。だって、3人でタコパって……急すぎない!?
「誠ん家でね~」
「あ?」
「別にいいだろ? それとも梓ちゃん家に入ってもいい?」
「いいわけねぇだろ。テメェは死んでも入んじゃねえ」
「ははっ。引くほど器の小さい男だね~、誠は」
桐生さんの機嫌がまた悪くなったのを肌で感じる。もはや肌で感じるとか、それはもう殺気に近いものだよね。
「あ、あの~。タコパするにも、私ってお邪魔じゃないですか?」
「「全然」」
私のほうをバッと見て、即答で声を揃えた2人。
「あ……そうですか……」
としか言えない私。これって……タコパ決定パターン?
「いいか」
「え?」
「『俺ん家でいいか? 嫌なら断ってもいいぞ』ってことだと思うよ?」
「あ、ああ……なるほど」
どうしよう。正直、ちょっと楽しそうではある……でも、さっきのモヤモヤっていうか、桐生さんへの気持ち的な部分が……なんて言ってたら今まで通りの関係性じゃいられなくなっちゃうもんね、それはなんか嫌だし。
「やりたい……やりたいです! タコパ!」
「よしっ! タコパ決定! このまま買い出し行っちゃおうか!」
「はい!」
「まず着替えて来い」
「え? あ、いいですよ? このままで」
「ダメだ」
腕を組んで仏頂面な桐生さん。
「すぐそこですし、このままでも……」
「短ぇ」
「……え?」
「短すぎだろ、それ」
・・・制服のスカートの話……?
「なんか、すみません」
「え? なんで梓ちゃんが謝るの?」
「テメェのせいだろ」
「え? 僕?」
違う違う! そういうことじゃない! 悪化させないでよ、桐生さん!
「……ああ、ははは。私はこれでぇ……失礼します!」
この場から逃げようと走り出したら、桐生さんの親友さんにガシッ! と腕を掴まれた。
「こらこら、逃げない逃げない」
「おい、触んじゃねぇ」
「こんなことでいちいち怒っていたら、この先やっていけないよ~? 誠」
「触んなっつってんだろ。聞こえねぇのか」
── 声だけじゃない。私は初めて桐生さんが不機嫌そうな表情を浮かべているのを見た。いや、不機嫌そうっていうかもうこれは怒ってる……。
「はぁー。器の小さい男はどうかと思うよ? 誠」
なんて言いながら私の腕から手を離して、やれやれと言いたげな顔をしてる親友さん。そして何か言いたげな桐生さんは、めちゃくちゃ不機嫌そうな顔をしながら近づいてくる。
「おい」
「はっ、はい!」
「なってねぇ」
『なってねぇ』……とは?
「……えっとぉ……何がでしょうか……?」
「ははっ。『危機管理がまるでなってない』って言いたいんじゃないかな? 誠は」
「あ、ああ……」
危機管理がまるでなってないと言われても、危機管理がある程度できていたから、ひとり暮らしが継続できている……はずなんですけどね?
「危ねぇ」
『危ねぇ』……とは? 俺達は危ない野郎だぜ? という意味でしょうか。ま、まあ、“危険な人”ではあるのかな。私からしたら、ただのぶっきらぼうで言葉足らずな優しい強面イケメンなんだけど。でも、ヤクザ……なんだもんね、桐生さんって。
「『危ねぇ』……ですか……た、たしかに?」
私はススッと桐生さんから離れて、親友さんとも距離を取った。すると、大爆笑し始めた親友さん。そして、更に機嫌が悪くなった桐生さん。
「やっぱ面白いね~! 梓ちゃん」
「はぁーー」
目頭をぎゅっと摘まんで、めちゃくちゃ深いため息を吐く桐生さん。おそらく私は、解釈を間違えたっぽい。
「……すみません。何やら間違えたっぽい……ですね」
「いや? まぁそういうことだよ? “危ない人には気をつけようね? ”ってこと! ね、誠」
「チッ」
・・・一瞬、ほんの一瞬。桐生さんの瞳が切なげに揺らいで見えた。
「……あ、あのっ! 私、桐生さんは怖くないっていうか、怖いけど、怖くない……みたいな感じで。だから全然平気だし……桐生さんを危ない人だなんて思いながら接してない! です」
桐生さんに迫りながら大きな声を出して、私は一体なにがしたいんだろう。何をこんなにも必死になっているのだろう。ほら、桐生さんも困ってるじゃん……いや、いつも通りの真顔だけれども。
「……」
・・・ねえ、何か言ってよぉ。
「あ、あの……桐生さん」
何も言ってくれないのが不安になって見上げると、分かりづらい……分かりづらいんだけど、少し微笑んで心なしか機嫌の良さそうな桐生さんが私を見下ろしていた。
桐生さんの微笑みに胸が高鳴るのと同時に、私の中で桐生さんという存在が、ただのお隣さんから“特別”へと変わる……そんなような気がした。この特別がなんなのかは分からない。お友達……? お兄ちゃんみたいな……?
── そして、私の頭の中には“禁断”の二文字が浮かんできた。
ドクンッドクンッドクンッ……と、自分の心臓の音しか聞こえなくなって、『どうしよう』という焦りより『これがきっと“恋”なんだ』というワクワクとドキドキのほうが上回ってる。
「どうした」
「……へ?」
「顔、赤いぞ」
「え、あ、いっ、いえ!」
桐生さんの大きな手が伸びてきて私の額に触れようとした時、美冬が脳裏をよぎった。私の大切な存在、何よりも。
「……あ、あの……ごめんな……さい」
「いや、悪い」
私はいつも優しく頭をポンポンと撫でてくれる桐生さんの大きな手を……パチンッと振り払ってしまった。
だめ、だめだよ……禁断を破ることはできない。美冬と離ればなれになるなんて、そんなの私は耐えられない。そんな覚悟、できるわけがないじゃん。
それに相手は桐生さんだよ? 私なんか相手にされないって、どう考えても。女の人に困ってなさそうだし、なんならたくさんいそうだし……? 年の差だって結構ありそうだしさ……だって多分30歳前後でしょ? 桐生さん。
・・・なんて、こんなことごちゃごちゃ言ってるけど、はっきり言って私なんかと桐生さんが“釣り合うはずがない”……この言葉に尽きる。
それに桐生さんは、ヤクザ。しかも結構お偉いさんっぽいし、軽い気持ちなんかで好きになっては絶対にイケナイ人。
落ち着いて、今までずっと上手くやってきたじゃん。好きになるのも、なられるのも困るって、全て回避してきたじゃん。
「大丈夫か」
大丈夫だって、自分に言い聞かせる。気のせいだって……こんなのは気のせいだって……そう言い聞かせて、なかったことにする。
「……ははっ、すみません! ちょっとボーッとしちゃってて。手、痛くなかったですか?」
「別に」
「そうですか。じゃ……私はこれで」
「はいはい、ちょっと待ちなよ。梓ちゃん」
満面の笑みで私を引き止めた親友さん。ぶっちゃけ勘弁してほしい。
「……なんですか?」
「3人でタコパしようか」
「「は?」」
私と桐生さんが声を揃えたのは言うまでもない。だって、3人でタコパって……急すぎない!?
「誠ん家でね~」
「あ?」
「別にいいだろ? それとも梓ちゃん家に入ってもいい?」
「いいわけねぇだろ。テメェは死んでも入んじゃねえ」
「ははっ。引くほど器の小さい男だね~、誠は」
桐生さんの機嫌がまた悪くなったのを肌で感じる。もはや肌で感じるとか、それはもう殺気に近いものだよね。
「あ、あの~。タコパするにも、私ってお邪魔じゃないですか?」
「「全然」」
私のほうをバッと見て、即答で声を揃えた2人。
「あ……そうですか……」
としか言えない私。これって……タコパ決定パターン?
「いいか」
「え?」
「『俺ん家でいいか? 嫌なら断ってもいいぞ』ってことだと思うよ?」
「あ、ああ……なるほど」
どうしよう。正直、ちょっと楽しそうではある……でも、さっきのモヤモヤっていうか、桐生さんへの気持ち的な部分が……なんて言ってたら今まで通りの関係性じゃいられなくなっちゃうもんね、それはなんか嫌だし。
「やりたい……やりたいです! タコパ!」
「よしっ! タコパ決定! このまま買い出し行っちゃおうか!」
「はい!」
「まず着替えて来い」
「え? あ、いいですよ? このままで」
「ダメだ」
腕を組んで仏頂面な桐生さん。
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「……え?」
「短すぎだろ、それ」
・・・制服のスカートの話……?
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