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Episode.9
大嫌いだったはずなのに②
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ねえ、お母さん。その女子高生みたいなノリ何とかならないの? いや、なるわけがないか。元々こういう人だし……そんなこんなで女子会が始まって、オールするはめになったのは言うまでもない。
「美冬、付き合わせてごめんね? バイト大丈夫?」
「余裕。オールとか慣れてるし、雫さんとワイワイすんの好きだし。んじゃ、行ってくるわ」
「うん、気をつけてね」
「雫さんによろしく」
「は~い」
お酒を飲みすぎてまだ爆睡中のお母さん。すると、ピンポーンとインターホンが鳴った。美冬かな? 忘れ物……?
モニターを確認すると、そこに立っていたのは桐生さんだった。慌てて玄関を開けると私の顔をジッと見て、頬に手を添えてきた桐生さん。
「眠れなかったか?」
そう言ってなぜか辛そうな表情を浮かべている。たしかに眠れなかったよ? 女子会が盛り上がっちゃってね。
「まあ……はい……」
「悪かった」
「え?」
いやいや、桐生さんは関係ないでしょ。なんで謝るの?
「俺がお前を巻き込んだ」
「いやいや、桐生さんは関係ないですけど……?」
桐生さんどうしちゃったんだろう……あ、忘れてた、あの出来事を。
「悪かった」
「え、あ、あの、桐生さん、違うよ? それは違います」
私に何かあるたびに、こうやって桐生さんを傷つけちゃうのかな……。
「悪っ」
「桐生さん!!」
私が大きな声を出すと、桐生さんは驚いた顔をしていた。
「謝らなきゃいけないのは私のほうです」
私に何かあるたびに、そうやって罪悪感を抱いてしまうあなたを私は── 好きになってしまったから。だから、謝らなきゃいけないのは私のほう。
「桐生さん……私、桐生さんのことが好っ!?」
桐生さんの大きな手が、私の口を塞いだ。
「悪い、梓。月城さんからは許可を得てる。ちょっと俺ん家に来てくれるか」
私がコクコクと頷くとゆっくり手を離して、そのまま私の手を取った桐生さん。
── 桐生さん家の玄関に入った途端、後ろからふわっと包み込むように抱きしめられた。
「梓……お前が欲しい」
ギュッと強く私を抱きしめて、ちょっとだけ不安そうな声でそう言った桐生さん。
「後悔させるかもしれねぇし、安全の保証なんてどこにもねえ。完全に俺の我儘でしかねぇけど、それでも俺は……梓が欲しい」
この先、何が起こるかなんて分からない。それでも私は、桐生さんと一緒にいたい……これからもずっと。
「後悔なんてしない。だって、こんなにも好きなんだもん……桐生さんのことが」
私は桐生さんの腕から離れて、ゆっくり振り向いた。
「梓」
「桐生さん」
見つめ合って、どちらからでもなく私達の唇は重なった。互いの気持ちを伝えるように、何度も何度も求め合って、甘くて深い濃厚なキスを交わす。
「はぁっ……桐生……さん」
「……っ、梓……愛してる」
「私も」
『愛してる』の言葉じゃだけじゃ足りない。もっと……もっと……って、欲張ってしまう。きっと桐生さんも同じ気持ちで、激しさと甘さが増したキスに、耐えられそうにない。
「……っ、待って……っ」
全身の力が抜けて、ガクンッと崩れ落ちそうになったのを、桐生さんがしっかり支えてくれた。
「悪い」
なんて言いながら、ちょっと意地悪な顔をして私の頭を優しく撫でる桐生さん。なんか無性に恥ずかしくて、ムギュッと桐生さんに抱きついた。
「桐生さん、余裕そうでズルい」
「あ? 余裕なんてあるわけねえだろ」
そう言った桐生さんの声が本当に余裕が無さそうで、すごくドキドキする。色っぽい表情で私を見下ろしてくる桐生さんと視線が絡み合って、吸い込まれるようにどちらともなく近づいて、私達は触れるだけの口づけを交わした。
「足りねえ」
私の顎を持ち上げて、そのまま唇を奪うと容赦なく甘いキスを降り注いでくる桐生さん。
── 好きが止まらない、大好きが加速していく。
大嫌いだったはずなのに、この梅雨時期が心底嫌いだったはずなのに、この時期がなければ私と桐生さんは、“恋仲”になっていなかったかもしれない。
桐生さんと出会って、お裾分けをし合ったり、傘を貸すようになって、この関係性が築けていなかったら今頃どうなっていたんだろう……そう思うと、少し怖かったりもする。
私の心の中は桐生さんでいっぱいになって、梅雨時期の嫌な印象が全て塗り替えられていく。
私の世界が、桐生さんの色に染まっていく。
── この梅雨時期も、悪くはないのかもしれない。
「考え事か? 随分と余裕そうじゃねえか」
目を細めて、獲物を狩るようなギラギラした瞳で私を見下ろすと、唇を喰らうように激しく求めてくる。
私に余裕なんてあるわけがない。心も体も桐生さんで満たされて、甘く絆されていく。ていうか桐生さんって、キス魔!?
「……っ、桐生……さんっ!」
限界に達した私は、桐生さんの胸元をトントン叩いた。すると、名残惜しそうに私から離れてチュッと触れるだけのキスを唇に落とされる。
「可愛いな」
そう言って優しく微笑み、私の頭を撫でてくる桐生さんに胸がドキドキして、ボンッと顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる。いっつもぶっきらぼうなくせに、こういう時にズルいよ……そういうの。
「桐生さん」
「ん?」
「それ、反則です」
「お互い様だろ」
── 甘く、刺激的で、少しだけ大人な恋。
2人だけの甘い雰囲気がとても心地よくて、このままずっと続けばいいのにって思った。
すると、桐生さんのスマホが鳴って、チラッとスマホを確認した桐生さん。その画面が一瞬見えちゃって、表示されていたのは“紗英子”の三文字だった。一気に現実へ戻されて、さっきまでの甘い空間が無くなっていく。
「悪い、梓。ちょっと出てくる」
「……そう……ですか。じゃあ、戻ります」
「後でな」
「はい」
私の頭をポンポンと撫でてくれる桐生さんの手が、こんなにも重く感じたのは初めてかもしれない。
「どうした」
「え?」
「言いたいことがあるなら言え」
・・・『紗英子さんって誰ですか?』その一言が、喉の奥につっかえて出てこない。きっと桐生さんは、聞けばちゃんと答えてくれる。でも、臆病な私は聞けない……そんなの、聞けないよ。
「美冬、付き合わせてごめんね? バイト大丈夫?」
「余裕。オールとか慣れてるし、雫さんとワイワイすんの好きだし。んじゃ、行ってくるわ」
「うん、気をつけてね」
「雫さんによろしく」
「は~い」
お酒を飲みすぎてまだ爆睡中のお母さん。すると、ピンポーンとインターホンが鳴った。美冬かな? 忘れ物……?
モニターを確認すると、そこに立っていたのは桐生さんだった。慌てて玄関を開けると私の顔をジッと見て、頬に手を添えてきた桐生さん。
「眠れなかったか?」
そう言ってなぜか辛そうな表情を浮かべている。たしかに眠れなかったよ? 女子会が盛り上がっちゃってね。
「まあ……はい……」
「悪かった」
「え?」
いやいや、桐生さんは関係ないでしょ。なんで謝るの?
「俺がお前を巻き込んだ」
「いやいや、桐生さんは関係ないですけど……?」
桐生さんどうしちゃったんだろう……あ、忘れてた、あの出来事を。
「悪かった」
「え、あ、あの、桐生さん、違うよ? それは違います」
私に何かあるたびに、こうやって桐生さんを傷つけちゃうのかな……。
「悪っ」
「桐生さん!!」
私が大きな声を出すと、桐生さんは驚いた顔をしていた。
「謝らなきゃいけないのは私のほうです」
私に何かあるたびに、そうやって罪悪感を抱いてしまうあなたを私は── 好きになってしまったから。だから、謝らなきゃいけないのは私のほう。
「桐生さん……私、桐生さんのことが好っ!?」
桐生さんの大きな手が、私の口を塞いだ。
「悪い、梓。月城さんからは許可を得てる。ちょっと俺ん家に来てくれるか」
私がコクコクと頷くとゆっくり手を離して、そのまま私の手を取った桐生さん。
── 桐生さん家の玄関に入った途端、後ろからふわっと包み込むように抱きしめられた。
「梓……お前が欲しい」
ギュッと強く私を抱きしめて、ちょっとだけ不安そうな声でそう言った桐生さん。
「後悔させるかもしれねぇし、安全の保証なんてどこにもねえ。完全に俺の我儘でしかねぇけど、それでも俺は……梓が欲しい」
この先、何が起こるかなんて分からない。それでも私は、桐生さんと一緒にいたい……これからもずっと。
「後悔なんてしない。だって、こんなにも好きなんだもん……桐生さんのことが」
私は桐生さんの腕から離れて、ゆっくり振り向いた。
「梓」
「桐生さん」
見つめ合って、どちらからでもなく私達の唇は重なった。互いの気持ちを伝えるように、何度も何度も求め合って、甘くて深い濃厚なキスを交わす。
「はぁっ……桐生……さん」
「……っ、梓……愛してる」
「私も」
『愛してる』の言葉じゃだけじゃ足りない。もっと……もっと……って、欲張ってしまう。きっと桐生さんも同じ気持ちで、激しさと甘さが増したキスに、耐えられそうにない。
「……っ、待って……っ」
全身の力が抜けて、ガクンッと崩れ落ちそうになったのを、桐生さんがしっかり支えてくれた。
「悪い」
なんて言いながら、ちょっと意地悪な顔をして私の頭を優しく撫でる桐生さん。なんか無性に恥ずかしくて、ムギュッと桐生さんに抱きついた。
「桐生さん、余裕そうでズルい」
「あ? 余裕なんてあるわけねえだろ」
そう言った桐生さんの声が本当に余裕が無さそうで、すごくドキドキする。色っぽい表情で私を見下ろしてくる桐生さんと視線が絡み合って、吸い込まれるようにどちらともなく近づいて、私達は触れるだけの口づけを交わした。
「足りねえ」
私の顎を持ち上げて、そのまま唇を奪うと容赦なく甘いキスを降り注いでくる桐生さん。
── 好きが止まらない、大好きが加速していく。
大嫌いだったはずなのに、この梅雨時期が心底嫌いだったはずなのに、この時期がなければ私と桐生さんは、“恋仲”になっていなかったかもしれない。
桐生さんと出会って、お裾分けをし合ったり、傘を貸すようになって、この関係性が築けていなかったら今頃どうなっていたんだろう……そう思うと、少し怖かったりもする。
私の心の中は桐生さんでいっぱいになって、梅雨時期の嫌な印象が全て塗り替えられていく。
私の世界が、桐生さんの色に染まっていく。
── この梅雨時期も、悪くはないのかもしれない。
「考え事か? 随分と余裕そうじゃねえか」
目を細めて、獲物を狩るようなギラギラした瞳で私を見下ろすと、唇を喰らうように激しく求めてくる。
私に余裕なんてあるわけがない。心も体も桐生さんで満たされて、甘く絆されていく。ていうか桐生さんって、キス魔!?
「……っ、桐生……さんっ!」
限界に達した私は、桐生さんの胸元をトントン叩いた。すると、名残惜しそうに私から離れてチュッと触れるだけのキスを唇に落とされる。
「可愛いな」
そう言って優しく微笑み、私の頭を撫でてくる桐生さんに胸がドキドキして、ボンッと顔が真っ赤になってるのが自分でも分かる。いっつもぶっきらぼうなくせに、こういう時にズルいよ……そういうの。
「桐生さん」
「ん?」
「それ、反則です」
「お互い様だろ」
── 甘く、刺激的で、少しだけ大人な恋。
2人だけの甘い雰囲気がとても心地よくて、このままずっと続けばいいのにって思った。
すると、桐生さんのスマホが鳴って、チラッとスマホを確認した桐生さん。その画面が一瞬見えちゃって、表示されていたのは“紗英子”の三文字だった。一気に現実へ戻されて、さっきまでの甘い空間が無くなっていく。
「悪い、梓。ちょっと出てくる」
「……そう……ですか。じゃあ、戻ります」
「後でな」
「はい」
私の頭をポンポンと撫でてくれる桐生さんの手が、こんなにも重く感じたのは初めてかもしれない。
「どうした」
「え?」
「言いたいことがあるなら言え」
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