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Episode.9
大嫌いだったはずなのに③
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「いえ、何でもっ」
「これからもそうやって我慢すんのか」
「……」
桐生さんの瞳の中に私が映ってて、その瞳は私を捉えて離さない。きっと桐生さんには隠し事なんてできないし、するべきではないんだと思う。思いも、想いも、ちゃんと伝えなきゃいけない。
── 逃げるのはもうやめよう。この先も、桐生さんの隣に立つ為に。
「紗英子さんって誰ですか」
「……ああ」
ばつが悪そうな顔をして、私から目を逸らした桐生さん。
なにそれ、はぐらかすの?
「もういいです」
「あ?」
「もういい!!」
「……っ!! おい、梓!!」
玄関を開けて飛び出そうとした時だった。
「おっと……びっくりしたぁ~」
玄関先にとても綺麗な女の人が立っていた。
「紗英子」
背後から聞こえた桐生さんのその声に、胸がギュッと締め付けられる。
── 嫌、嫌だ。その声で、私以外の名前を呼ばないで。
「私の電話を無視するとはいい度胸してんじゃない」
「来んなっつったろ」
「はあ? 誰に口利きいてんのよ。わざわざ来てやったのに」
「来てくれなんて一言も言ってねえ」
「まあ、いいわ。で……この子が誠のお気に入り?」
そう言いながら私の爪先から頭のてっぺんまで、ジーッと凝視する紗英子さん。これって見定め? 宣戦布告でもされる? いや、戦う前から私の負けって決まってるじゃん。こんな美人な大人の女性に勝てるはずかない、勝ち目なんてない。
「……え、なに……かーわーいーいー♡ なぁにこれ! めちゃくちゃ可愛いじゃない!! きゃあー♡ 最高!! めっちゃ嬉しいー! お人形さんみたいね♡?」
ハイテンションで私の頬を摘まんで、こねくり始めた紗英子さんに唖然とするしかない私。……えっと、これは一体どういうこと?
「触んな」
ベジッと紗英子さんの手を払って、私の頬を撫でながら顔を覗き込んでくる桐生さん。
「大丈夫か」
「……え、あ、はい……」
「うわぁ……きっっしょ!! 弟のデレシーンほど気持ち悪いものはこの世に無いわね」
── 『弟』……? え、え、え、ええええーー!? ちょ、紗英子さんって、桐生さんのお姉さんだったのぉぉ!?
「見せもんじゃねえ、さっさと帰れ」
「アンタは黙ってなさい。で、可愛い子ちゃん? 本当にこんな男でいいの? 見てくれと金持ってるくらしいしか取り柄がないし、女心なんて死んでも分かんないタイプよ? コイツ」
「マジで黙れっ」
「もっと他にいい男いるでしょ? 勿体ないわ、こ~んなに可愛いのに」
── 私は、そんなことで桐生さんを好きになったわけじゃない。
「桐生さんは優しいんです。どこまでも優しくて、だから人一倍傷ついて……。それでも私のことを好きになってくれた人なんです。私はそんな桐生さんが、何も取り柄のない人だなんて思いません」
── 桐生さん以外にいい人なんて、私の世界の中にはいない。
私に何かあるたびに、きっと桐生さんは自分を責めて傷ついてしまう。それでも私を選んでくれた。そんな桐生さんを選んだのは、紛れもなくこの私。何もできないかもしれないけど、優しさゆえに傷ついてしまう桐生さんを……少しで支えてあげたい。
「……誠。この子、大切にしてやんなよ」
「いちいち当たり前なこと言ってくんじゃねえ」
ガバッと後ろから覆い被さるように私を抱きしめてくる桐生さん。私の肩にトンッと顎を乗せた。
・・・気のせいかもしれない、勘違いかもしれないけど……何となく桐生さんが私に甘えているような、そんな気がして、それがとても嬉しくて……愛おしいと思えた。
「あーー無理無理! キャラ崩壊ヤバすぎでしょ。きんっっも!! んじゃ、もう行くわ~。またね、可愛い子ちゃん♡」
「え、あっ……はい!!」
・・・ 嵐のような人だったな。
「紗英子のこと、不安にさせてたなら悪かった」
「……いえ、疑っちゃってすみません」
「いや、いい」
そう言って私から離れると、スマホを差し出してきた桐生さん。
「ん」
『ん』……とは?
「えっと……」
「連絡先」
「あ、はい」
連絡先を交換して、これでいつでもどこでも桐生さんと繋がっていられると思うと、それがすごく嬉しくて、自然と顔が緩んでしまう。
「あんま可愛い顔すんな、抑えが利かなくなる」
少し困ったような顔をして、私の頭を撫でる桐生さん。
「悪かったな、時間取らせて。月城さんが帰って来てんだ。一緒にいてやれ」
「はい、ありがとうございます。また連絡しますね」
「ん」
「お邪魔しました」
「ん」
私が手を振っても、振り返してくれることはないけど、“しゃーねぇな”って感じで手を上げてくれた。
── 家に戻ると、眠そうな顔……というか、絶っ不調な顔をしているお母さんがキッチンに立っていた。
「おかえりぃ~」
「ただいま」
「あれぇ、美冬はー?」
「バイト」
「そっかぁ、とりあえず頭痛くて死にそう」
「もぉ、調子に乗って飲むからだよ」
「それなぁー」
二日酔いの薬を飲んで、しばらくすると元気になったお母さん。
「で、誠君とはどうなったわけ?」
「どうって……」
── あれ、どうなったんだろう。
お互いの気持ちを伝え合って、確かめ合ったのはいいけど……で? どうなったのかな。
「これからもそうやって我慢すんのか」
「……」
桐生さんの瞳の中に私が映ってて、その瞳は私を捉えて離さない。きっと桐生さんには隠し事なんてできないし、するべきではないんだと思う。思いも、想いも、ちゃんと伝えなきゃいけない。
── 逃げるのはもうやめよう。この先も、桐生さんの隣に立つ為に。
「紗英子さんって誰ですか」
「……ああ」
ばつが悪そうな顔をして、私から目を逸らした桐生さん。
なにそれ、はぐらかすの?
「もういいです」
「あ?」
「もういい!!」
「……っ!! おい、梓!!」
玄関を開けて飛び出そうとした時だった。
「おっと……びっくりしたぁ~」
玄関先にとても綺麗な女の人が立っていた。
「紗英子」
背後から聞こえた桐生さんのその声に、胸がギュッと締め付けられる。
── 嫌、嫌だ。その声で、私以外の名前を呼ばないで。
「私の電話を無視するとはいい度胸してんじゃない」
「来んなっつったろ」
「はあ? 誰に口利きいてんのよ。わざわざ来てやったのに」
「来てくれなんて一言も言ってねえ」
「まあ、いいわ。で……この子が誠のお気に入り?」
そう言いながら私の爪先から頭のてっぺんまで、ジーッと凝視する紗英子さん。これって見定め? 宣戦布告でもされる? いや、戦う前から私の負けって決まってるじゃん。こんな美人な大人の女性に勝てるはずかない、勝ち目なんてない。
「……え、なに……かーわーいーいー♡ なぁにこれ! めちゃくちゃ可愛いじゃない!! きゃあー♡ 最高!! めっちゃ嬉しいー! お人形さんみたいね♡?」
ハイテンションで私の頬を摘まんで、こねくり始めた紗英子さんに唖然とするしかない私。……えっと、これは一体どういうこと?
「触んな」
ベジッと紗英子さんの手を払って、私の頬を撫でながら顔を覗き込んでくる桐生さん。
「大丈夫か」
「……え、あ、はい……」
「うわぁ……きっっしょ!! 弟のデレシーンほど気持ち悪いものはこの世に無いわね」
── 『弟』……? え、え、え、ええええーー!? ちょ、紗英子さんって、桐生さんのお姉さんだったのぉぉ!?
「見せもんじゃねえ、さっさと帰れ」
「アンタは黙ってなさい。で、可愛い子ちゃん? 本当にこんな男でいいの? 見てくれと金持ってるくらしいしか取り柄がないし、女心なんて死んでも分かんないタイプよ? コイツ」
「マジで黙れっ」
「もっと他にいい男いるでしょ? 勿体ないわ、こ~んなに可愛いのに」
── 私は、そんなことで桐生さんを好きになったわけじゃない。
「桐生さんは優しいんです。どこまでも優しくて、だから人一倍傷ついて……。それでも私のことを好きになってくれた人なんです。私はそんな桐生さんが、何も取り柄のない人だなんて思いません」
── 桐生さん以外にいい人なんて、私の世界の中にはいない。
私に何かあるたびに、きっと桐生さんは自分を責めて傷ついてしまう。それでも私を選んでくれた。そんな桐生さんを選んだのは、紛れもなくこの私。何もできないかもしれないけど、優しさゆえに傷ついてしまう桐生さんを……少しで支えてあげたい。
「……誠。この子、大切にしてやんなよ」
「いちいち当たり前なこと言ってくんじゃねえ」
ガバッと後ろから覆い被さるように私を抱きしめてくる桐生さん。私の肩にトンッと顎を乗せた。
・・・気のせいかもしれない、勘違いかもしれないけど……何となく桐生さんが私に甘えているような、そんな気がして、それがとても嬉しくて……愛おしいと思えた。
「あーー無理無理! キャラ崩壊ヤバすぎでしょ。きんっっも!! んじゃ、もう行くわ~。またね、可愛い子ちゃん♡」
「え、あっ……はい!!」
・・・ 嵐のような人だったな。
「紗英子のこと、不安にさせてたなら悪かった」
「……いえ、疑っちゃってすみません」
「いや、いい」
そう言って私から離れると、スマホを差し出してきた桐生さん。
「ん」
『ん』……とは?
「えっと……」
「連絡先」
「あ、はい」
連絡先を交換して、これでいつでもどこでも桐生さんと繋がっていられると思うと、それがすごく嬉しくて、自然と顔が緩んでしまう。
「あんま可愛い顔すんな、抑えが利かなくなる」
少し困ったような顔をして、私の頭を撫でる桐生さん。
「悪かったな、時間取らせて。月城さんが帰って来てんだ。一緒にいてやれ」
「はい、ありがとうございます。また連絡しますね」
「ん」
「お邪魔しました」
「ん」
私が手を振っても、振り返してくれることはないけど、“しゃーねぇな”って感じで手を上げてくれた。
── 家に戻ると、眠そうな顔……というか、絶っ不調な顔をしているお母さんがキッチンに立っていた。
「おかえりぃ~」
「ただいま」
「あれぇ、美冬はー?」
「バイト」
「そっかぁ、とりあえず頭痛くて死にそう」
「もぉ、調子に乗って飲むからだよ」
「それなぁー」
二日酔いの薬を飲んで、しばらくすると元気になったお母さん。
「で、誠君とはどうなったわけ?」
「どうって……」
── あれ、どうなったんだろう。
お互いの気持ちを伝え合って、確かめ合ったのはいいけど……で? どうなったのかな。
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