ゼロから千まで

三旨加泉

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「ゼロから千まで」7話

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「ゼロから千まで」7話


「え。」
 あんぐり口を開けた千歳を世羅は何の気無しで見下ろしてくる。
「向こう、絶対千歳に気があるじゃん。向こうはもう別れてるんだし、付き合えば良くない?」
「うわぁ、軽ぅ~」
 二葉は少し引いてるが、半分同意してるかのように軽い反応だった。
「付き合うなんて、無理。」
 千歳の弱気な声に三人は一斉に千歳を見る。
「それにしても別れたばっかりだっていうのに、霧崎も手が早いね~。しかも、相手は千歳だし」
 来三は両手を頭の後ろに持っていきながら天井を見つめている。二葉は「それは千歳が可哀想だよ。」と軽く笑うと、来三はどこか腑に落ちない表情だった。
「だってさ、霧崎とそんな接点なくない?なんでそんなに距離縮んだの?」
 来三の言葉に千歳は唸りながら腕組みをした。
「分からない。子どもの頃とは違って、全然遊ばなくなったんだけどな。」
「子どもの頃?」
 千歳が見上げると、三人全員こちらを凝視していたので、千歳は思わず後退った。二葉はパクパクとまるで酸素不足の魚のように動揺していた。
「え、え?二人って、」
「幼馴染なの!?」
 二葉が言い終わる前に来三が口を挟んだ。
「なんで言わなかったの?その事実、今まで誰も知らなかったよ」
 世羅が困惑した表情で千歳を見たが、千歳もまた同じような顔をしていた。
「いや、なんでお前が動揺してんの。」
 千歳はモジモジと指を絡め、申し訳なさそうに俯く。
「言うタイミングが無くてさ」
「えー!教えてよー!ねぇねぇ、二人ともどんな感じだったの!?」と勢い良く二葉は千歳に歩み寄った。千歳は気まずそうにしていたが、やがてポツリポツリと口を開き始めた。


 千歳と霧崎零一は保育園の時から一緒だった。千歳は相変わらずのわんぱくで、周囲を困らせていたが、零一は大人しく、いつも千歳の後ろをついて歩いていた。遊ぶ時はいつも千歳が決めた「戦いごっこ」とやらに零一は付き合わされていた。
 二人は喧嘩したこともなく、ずっと一緒に遊んでいた。周りからの印象だと、よく零一は千歳の言うことを聞いていられるな、と感心する程には零一は千歳の無茶な遊びの要求を呑んでいた。恐らく零一本人も満更でもなかったのだろう。
 しかし、小学校卒業間近になって、零一は家庭の事情で引っ越し、中学校はお互い違う学校に通っていた。
 
 その頃だった。千歳が百合愛に出会ったのは。百合愛は千歳が一緒に連む相手にしては控え目で地味な生徒だった。初めは千歳も百合愛のことをなんとも思わず、ただの同級生だと思っていたが、通学路を歩いていると百合愛が男にナンパされて困っている様子を助けてからは、彼女とよく学校で話すようになった。百合愛も零一同様、聞き上手でよく千歳の突拍子もない発言に耳を傾けては笑ってくれていた。

 そんな中、千歳にある転機がやってくる。高校入学の時だ。千歳が初めての登校日、零一と再会した。離れてからは一度も顔を見ていなかったが、千歳は零一だとすぐに分かった。以前より背が伸び、より男らしい体つきになった彼は、恐らく同じ部活動希望の男子と校門近くで話をしていた。サッカーボールを持っている辺り、零一はまだサッカーを続けている様子だった。千歳は零一との再会が嬉しくて、すぐさま駆け寄った。

「れいちゃん!久しぶり!!」
 子どもの頃に呼んでいた渾名で彼を呼ぶ。零一は呆気に取られたような様子で千歳を見ていた。てっきり同じように挨拶をしてくれるかと思ったが、零一は口を中途半端に開けるだけで、何も言ってこなかった。すると、隣にいた男子は千歳を驚きながら指差した。

「あー!こいつ、南中の永遠じゃないか!?猿みたいに木登りするっていう」
 男子の指先を何も考えず、ジッと千歳は眺める。どうやら自分は他の学校でも名前を知られているらしい。
「知ってるのか?霧崎」
 零一の顔を見る為に千歳は顔を上げた。零一の顔が一瞬引き攣ったような気がした。
「あー、小学校一緒だったんだよ。それだけ。」
 零一は視線を逸らし、校門を潜って行ってしまった。男子は不思議そうに零一を見ていたが、すぐに後ろを追って行ってしまった。

 千歳はそんな彼の後ろ姿を眺める。零一の背中は、追いかけっこをしていたあの頃より一回りも二回りも大きく見えて、肩に乗った薄ピンク色の桜の花びらが似合わなく感じた。


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