3 / 41
年上の偉い人と仲良くなりたい
しおりを挟むエリーゼの父レナトス・シュミット伯爵は若い頃から天才と呼ばれ、王立の大学のような学問所を18歳で卒業して父王の侍従となった。
彼は優秀だったので、見習いだった頃から彼が担当した仕事はほとんどが成功している。
父王や当時の宰相に認められたレナトスは25歳で宰相になり、あまり政治的な才能が無い父王に代わって、様々な仕事を成し遂げた。
だから父王は彼との絆をさらに強くしたくて、俺と宰相の娘エリーゼを婚約させたらしいのだ。
「アルフォンス王子、シュミット様がいらっしゃいました。」侍女が伝えてくる。
「入ってくれ。」
数日後、俺はレナトスと会う約束をした。
公の話し合いでもないので気軽にサロンに呼んでしまったが、国の偉い人にここで会って良かったのか?と挙動不審になっているところへ、彼はエミルに案内されてやって来た。
俺よりも小柄で細いレナトスは細い銀縁の眼鏡をかけていた。
顔や雰囲気はエリーゼに良く似ていたが、少しうウェーブのある髪をショートカットにしていて女っぽいと言う訳でもなく、可愛らしい訳でもないのに色気がある。
36歳という年齢よりは若く見えるが、相応の落ち着いた佇まい。
光で溢れたサロンの中で、薄い水色の文官服を着た彼は神々しかった。
ゲームでは全く出てこなかったけれど、エリーゼを見ていたら、『きっと厳しい親だったんたろうな』と言う印象だったのに。
・・・男なのにめっちゃ俺の好み。
近づいて来てからもっと良く見ると、細い銀縁の眼鏡から水色の知的な瞳が覗いている。
疲れているのか、目の下の皮膚の薄い部分にはうっすらと隈があった。
いつまでも呆けていたらしい俺は、エミルに声を掛けられて我に返り、素早くアルフォンスの記憶を探ってみた。
でも残念な事にアルフォンスは彼に興味が無かったらしく、大した事は覚えていなかった。
仕方がないので俺は姿勢を正し、レナトスが美しい所作で挨拶をし、薄い唇で言葉を紡いでいるところを一つも見逃さない様にした。
「この度の娘の無礼をお許し下さるとの事、真に有り難うございます。」
侍女がお茶を用意してくれて、忙しいレナトスとつかの間のお茶会を始めた。
「いいえ、俺はエリーゼに迷惑を掛けられたとは思っていませんから。
そもそも婚約破棄になったのは俺のせいなんです。
もっとエリーゼを大切にしていれば良かったのに。
だから、気にしないで下さい。
エリーゼにはどうか幸せになって欲しいのです。」
俺は緊張で震える手を隠して、上手く受け答えできているだろうか。
まぁ、エリーゼに幸せになって欲しいのは本音だし。
「・・・貴方は随分とお優しい方なのですね。
しかし、それでは私の気が収まりません。
出来る事なら何でも致しますので、何なりとお申し付けください。」
何でもか。これはお近付きになるチャンスかな?
「それなら、レナトスに色々な仕事を教えてもらいたいです。
いずれ俺も兄の補佐になるのだから、そろそろ仕事について詳しくなっておいても良いと思うのです。」
そう提案すると、二つ返事で了承された。
この時は我ながら良い考えだと思ったんだ。
俺の考えは甘かった・・・
宰相の仕事と言うのは、実に多岐に渡っている。
日本だったら、大臣の仕事を全部一人でやっている感じ。
教えてもらおうにも、レナトスになかなか時間を取ってもらえなかった。
そこで俺は日本の行政機関を参考に、宰相の下に専門の部署を設ける事を提案してみた。
この王国はそんなに規模が大きくないので直ぐに話が通り、レナトスが主体になって試してくれた。
結果、上手く行きそうだったので、軌道に乗せてみると報告があった。
大変なのは最初だけ。
暫くすると宰相や騎士団長仕事まで各所に分けられて、大分少なくなってきたそうだ。
どんだけ過剰労働してたの?
「細分化された事で有能な者には階級に拘らず役職を与えて取り立て、細かいところまで目が届くようになり、遊んでいる貴族が大分減ったそうです。」
側近のエミルがお茶を飲んでいる俺に報告してきた。
平民出身のエミルはこの結果に大変満足しているそうだ。
「シュミット様も最近はお休みが取れるようになったそうで、アルフォンス様にお礼されたいと申しておりましたよ。」
「そうか。たまにはレナトスと話がしたいな。」
会いたいと思っているのにタイミングが合わす、レナトスとゆっくりと会うことはなかなか叶わないのだ。
「アルフォンス様、今度僕とも個人的にお話の時間を設けてくださいね。」
エミルが中性的な可愛らしい顔をこちらに向けてにっこり微笑んだ。
こちらの世界の人は皆、顔が良い。
乙女ゲームの強制力なのか?
俺の周りだけなのか?
「僕はアルフォンス様に僕の事をもっと良く知って欲しいです。」
エミルは一つに結った長い亜麻色の髪を握り、紫色の瞳を揺らし、上目遣いで俺を見た。
小動物みたいで可愛いが、相手はエミルだしな。
こいつは中々腹黒いから気を付けないと。
「よし!それじゃあ、この後の筋トレに付き合ってもらおうかな。
筋トレしながら話をしよう。」
「え~、まだそんな事してるんですか?」
「止める気ないし。」
「そんなぁ。男らしいアルフォンス様は可愛くないです!
僕はやっぱり天使の愛らしさを残しつつ大人の余裕を持ちその神々しい眼差しが皆に安らぎと平和をもたらす清らかな心の持ち主という光属性イメージに見合う姿に相反する高慢な心を隠し持つそんなあなたを僕は心から愛しているのです!」
「?」
鼻息荒く、一気に話し終えたエミルを凝視する。
こいつの言う事は、時々良くわからない。
大体アルフォンスはどうだかしらないけれど、俺は高慢じゃない。と思いたいし。
アルフォンスの記憶と俺の考えが一致しない事が多く、一年経つというのになかなか馴染んでいない。
もう、アルフォンスとか蓮とか考えないで、自分の考えに素直になっていいかな。
まあ、エミルはもっと鍛えた方が良いので、筋トレは強制参加だが。
城の騎士団の訓練場の端っこに場所を借りて、エミルを相手にトレーニングをしているとベルンハルトがやってきた。
「おう、エミルは大丈夫なのか?」
エミルはすぐにへばってしまい、今は塀にもたれて水を飲んでいる。
「もう・・・帰ります。」
「まだ何も話してないぞ。」
「無理・・・」
エミルはベルンハルトと交代すると、屋内へ戻ってしまった。
その後、約束どおりベルンハルトに剣の使い方を習って部屋へ戻ると、元気になったエミルが嬉々として俺の服を選んでいた。
・・・お前元気じゃん、筋トレが嫌なだけだったのか。
そう思ったが、俺も嫌な事からは逃げ出したいタイプなので、そこはグッと堪えてエミルと侍女に着替えを手伝ってもらい、夕食へと向かった。
俺になってからは、なるべく家族と過ごすようにしている。
ゲームのアルフォンスは家族との折り合いが悪く、自分の話を良く聞いてくれる優しい主人公にのめり込んで行ったのだ。
キャロルはあの王宮騎士ではなくて、一途で真面目な幼馴染と結婚したので、もう俺に絡んでくる事はないと思うが、ずっと家族と仲が悪いままじゃ辛いので、たまには家族と会えるように取り計らってもらっている。
今日は皆で夕食を一緒にと言う事で、祖父、父王、第一王妃、その子供の双子の第一王子、第二王子と王女、第二王妃である俺の母、俺、俺の弟の第四王子、祖父である前王そして第一王子の妻、息子が勢揃いした。
俺は先日行われた自分の19歳の誕生日パーティで、これからは兄の補佐をする事、王位は継がない事を宣言したので、最近は俺を目の敵にしていた第一王妃からの当たりも少なくなって過ごし易くなった。
兄たちと姉も前より仲良くしてくれるし、父や祖父も政治について積極的に教えくれるようになったので、俺の宣言は良い方向へ向かったようだ。
後は結婚相手か。
今日も食後に皆から良いと思った人物を紹介された。
俺は適当に相槌を打って、肖像画を受け取った。
ところで最近気付いたのだが、この世界は女性が圧倒的に少ない。
だから一人の娘に大勢の男が群がると言うハーレム展開も普通なのか。
そう言う訳で、男性同士で結婚などというのも普通にあるらしい。
現にお見合い相手に男が混じっている事も少なくない。
BLか?このゲームは乙女ゲームではなくてBLだったのか?
それならベルンハルトやエミルの俺に対する態度もそういう事なのか?
もう何に対して気を付ければ良いのか判らなくなった俺は、早々にその事に関しての考えを放棄する事にした。
とりあえず、自室の戸締りはしっかりしよう。
28
あなたにおすすめの小説
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった
カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。
ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。
俺、いつ死んだの?!
死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。
男なのに悪役令嬢ってどういうこと?
乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。
ゆっくり更新していく予定です。
設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
転生して王子になったボクは、王様になるまでノラリクラリと生きるはずだった
angel
BL
つまらないことで死んでしまったボクを不憫に思った神様が1つのゲームを持ちかけてきた。
『転生先で王様になれたら元の体に戻してあげる』と。
生まれ変わったボクは美貌の第一王子で兄弟もなく、将来王様になることが約束されていた。
「イージーゲームすぎね?」とは思ったが、この好条件をありがたく受け止め
現世に戻れるまでノラリクラリと王子様生活を楽しむはずだった…。
完結しました。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる