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番外編
ルーカスと言う人
しおりを挟む日本にいるルーカスの友人視点です。
*******
『ハロー、ミオ。俺は今、日本の山にいるよ。
下山したら、一緒に食事しよう。』
添付されていたのは紅葉の写真。
それが彼からの最後のメッセージだった。
ルーカスとはアメリカに留学している時に出会った。
同じ映像学科の学生で、皆から少し距離を置いているルーカスと、余り英語が上手くなくてグループ実習から外れがちな私はいつの間にか仲良くなっていた。
ルーカスは優しい人で、アメリカでの生活に慣れていない私の事をいつも気にかけてくれていた。
おかげで私の留学体験はとても良いものになった。
感謝してもしきれない。
黒い髪に知的な青みのある灰色の瞳。
ミケランジェロの彫刻のように整った顔立ち。
実は最初の頃、私は恋愛的な意味で彼を好きだったのだが、その気持ちは直ぐに砕け散った。
彼は同性愛者だったのだ。
いつも皆から一歩引いたところにいるのは、そのせいで傷ついた事が何度もあったからだそう。
打ち解けてくると、彼は私に色々な話をしてくれた。
スポーツをするのが好きで、一人でできる釣りやカヤック、登山なんかが好きだとか、家で料理もするとか。
金髪の可愛いパートナーが欲しいとか。
日本に行ってみたいとか。
一度、酔った勢いで私と付き合わないかと聞いたら謝られたっけ。
次の日は覚えてないふりをして事なきを得た。
留学が終わってからも彼とは時々会ったり、一緒にオンラインゲームをしたりと交流があった。
そんな彼から最後のメッセージが来た次の日、テレビを見ていると、天気の急変で遭難者が出たという放送があった。
そこには『ルーカス・バウム』と言う名前。
私は慌ててルーカスに連絡を入れたが、彼からの返事は2度と来なかった。
一緒に遭難した人たちによると、下山途中に急に季節外れの暴風雪に合い、後から来たルーカスが助けてくれたと言う。
その時にルーカスは滑落しそうになった女性を助けて自分が落ちたそうだ。
助けられた女性はルーカスを心配して泣いていた。
残された荷物にはルーカスのパスポートがあり、私は遭難したのがルーカスだと確信した。
ルーカスと言う人は自分より人の事を優先する人だった。
私の時もそうだった。
自分が傷付いても我慢してしまう。
臆病なくせに、人を助ける事を迷わずにする人。
その後、数日間の捜索が行われたが、結局ルーカスは見つからなくて、捜索は打ち切られたのだった。
私も何度か彼を探しに山へ入った。
一緒に遭難した人たちも協力して探してくれたが、未だに見つかってはいない。
あれから何年も経った頃、私はゲーム制作会社で働いていた。
会社では初めての乙女ゲームを作るとかで、原案やキャラクターデザイン担当などをコンペで決める事になった。
そこで私はその頃良く見ていた夢を元にした原案で応募したところ、運よく入選したのだった。
その夢と言うのは、毎日少しづつ読めるチープな少女マンガみたいな話で、なかなか面白く、私はその夢のおかげで親友を失ったショックから少し立ち直れたと言っても過言ではない。
会社の仲間と一緒にゲームを作っていくうちに、良くあるざまぁ要素や育成システムなんかも入れてシナリオを詰めて行く。
そこでキャラクターを練っていくうちに、私はふと、ルーカスを出したいと思った。
デザイナーに頼み、黒髪に青灰色の格好良いキャラクターを描いてもらう。
名前はもちろん『ルーカス・バウム』。
主人公とは敵対する国の人物だが、攻略対象だ。
先にキャラクターを作り、無理矢理会議にかけるという暴挙だが、平民出身と言う事で苗字はいらないんじゃないかと言われたのを「他国なので!」と押し切ったくらいで会議を突破して、無事にゲームへ出す事ができた。
そして初乙女ゲームという事もあり、会社が宣伝に力を入れてくれたおかげでゲームの売り上げもそこそこあり、他機種への移植も決まったのだった。
せめてゲームの中だけでもルーカスには幸せになって欲しい。
彼は私のヒーローなのだ。
他のキャラクターには申し訳ないが『幻想交響曲~わたしの王子様』の原案である私の一番の推しキャラは、ルーカスである。
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