39 / 41
番外編
ギムレット、グーテベルクに来る1
しおりを挟むレン
ギムレットが約束通りにキルシュからグーテベルクへやって来た。
そしてなぜかルーカスもギムレットの護衛という名目で一緒に来ている。いいのか?
さして目立つところのないギムレットに比べて、男前のルーカスは目立つんですけれど。
「お忍びだから気にするな。」とか言っているけれど、城にはルーカスの顔を知っている人もいるよね。
さっきもすれ違った人がびっくりしていた。
まぁ、兄たちも黙って見逃してくれているみたいだからいいのか?
俺はギムレットの方へ視線をやった。
温室の中の植物に囲まれた場所へ誂えられたテーブルにお茶の用意がされていて、俺の向かいのソファーにはギムレットがルーカスとベルンハルトに囲まれて座っている。
普通の3人掛けのソファーに男3人は流石にきつそうだ。
「・・・天国、天国だ。
ベルンハルト様とルーカスに囲まれて、目の前にはアルフォンス様とか。
僕、もう死んじゃうのかもぉ。」
真ん中のギムレットはブルブル震えている。
ルーカスは慣れているのか相変わらずだが、ベルンハルトは完全に引いている。
「しかもエミルさんに給仕してもらって、これどこのホストクラブですか!?
全財産取られちゃうんじゃ?」
皆のカップにお茶を注いでいたエミルは苦笑いだ。
「バカな事言ってないで落ち着け。
それにしても、見事な温室だな。
キルシュにも一つくらいあっても良いな。
アルフォンス、良かったら技術者を紹介して欲しい。」
「それは構わないけど・・・あっ!」
ギムレットが胸を押さえて前のめりに倒れた。
「べ、ベルンハルト様と目が合った・・・」
「アルフォンス、こいつ大丈夫なのか?」
ベルンハルトがギムレットから少し距離を置いた。
「多分・・・」
「今日は君たちに会えてだいぶ興奮しているが大丈夫だよ。
悪いな、付き合わせてしまって。」
ルーカスは呆れている。
いつもと違って座ったままなのが居心地が悪いらしいベルンハルトが提案してきた。
「いえ、平気です。
ルーカス様こそ何処か行きたい所とかないんですか?」
「んー、そうだな。
君が訓練している所とか見てみたいな。」
「・・・行きましょう。僕も行きたいです。
ベルンハルト様が戦っているところ・・・はぁはぁ。」
ギムレットは急に顔を上げたが、明らかに興奮状態だ。
護衛も無しにウロウロさせられないので、ルネからキルシュから来た護衛を借りた。
「これは、ルーカス様ではありませんか。」
デニスと言う名の男はルーカスに一礼してからギムレットに目を向けた。
「・・・ギムレットさん。お変わりないようで。」
「デニスじゃん、久ぶりぃ~」
「こちらに滞在する間は、俺があなたの専属護衛になりましたよ。
ありがたく護衛されてください。」
「ルーカスがいるじゃん。」
「貴方、ルーカス様に護衛させるとか何考えてるんですか?」
「ルーカスが良いって言ったのに。ベルンハルト様は?」
「ベルンハルト様は今日、アルフォンス様の護衛ですから。」
「ちっ」
ギムレットの行儀が悪いとデニスが窘めたが、ギムレットは意にも介さない
それどころか「ああ、アルフォンス様とベルンハルト様が並んでる、素晴らしい目の保養!」とか言って、やりたい放題だ。
エミルの機嫌も悪くなってきたし、俺はそれとなく訓練場へと皆を促した。
「はっ!」
「とうっ!」
「ベルンハルト様、頑張って!ルーカスも頑張れ!」
訓練場ではなぜかベルンハルトとルーカスが手合わせしている。
勝ったほうは俺と二人きりでデートできる権利をもらえるとか勝手に決めて。
それをギムレットが応援している。いいのかそれで。
流石ベルンハルトは強いな。
向こうではスポーツマンだったと言うルーカスもベルンハルトに良く付いて行ってる、凄い。
切り付けてもギリギリで避け、剣で剣を防ぎ、時には足技を交えて一進一退の攻防が続く。
どうやら実力は同じくらいらしく、なかなか勝負が付かなかった。
白熱した勝負を見て、周りにいた訓練中の騎士達もだんだん集まってきて、大騒ぎになり始める。
「盛り上がっていますね。」
「あ、ルネ。」
余りの盛り上がりにルネや兄のエーレンフリートもやってきた。
ルネ喜んでる。可愛い。
肩に手を添えてぎゅっと引き寄せた。
汗臭い男ばっかりの中でもルネは良い匂いがする。
俺は試合そっちのけで、真剣に試合を見ているルネを見続けた。
(ついでに匂いを嗅いでいた。)
「勝者、ベルンハルト!」
訓練場が歓声で揺れて審判の声がした。
訓練場の方を見ると倒れたルーカスをベルンハルトが助け起こしていた。
「凄かった!良いもの見れた!」
「来て良かった!」
ギムレットとデニスも感動している。
「お二人とも素晴らしかったですね、アル!」
「う、うん・・・」
ルネに夢中で後半ほとんど見てなかったけれどね。
ニコニコしているルネを見ていると、ベルンハルトとルーカスが戻って来た。
「これはレナトス殿。我々の試合を見てくださっていたのですね。」
ルーカスがルネに挨拶する。
「流石はルーカス様。あのベ」
「じゃぁ、アルフォンス様とデート権はベルンハルト様でーす!」
ギムレットが高らかに宣言したので、俺はそっちを見て、次にそっとルネを見た。
「・・・デート、されるのですか?」
「いえ、あれは皆が勝手に。」
「私は用がありますので、お二人で楽しんで来てくださいね。」
にっこりと笑うルネの後ろにブリザードが見えた。
「行かないよ、ルネ!行くならルネと!」
俺は慌てて去っていくルネを追いかけたのだった。
その後、俺はルネの機嫌を取る為に一日費やしてしまったのだが、ギムレットとルーカスはデニスの案内で街を見て回ったそうだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った
しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー?
という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡
短編コメディです
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される
水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。
しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み!
生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。
ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。
しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。
「――俺の番に、何か用か」
これは破滅を回避するためのただの計画。
のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。
悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!
災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!
椿谷あずる
BL
かつて“災厄の魔導士”と呼ばれ恐れられたゼルファス・クロードは、転生後、平穏に暮らすことだけを望んでいた。
ある日、夜の森で倒れている銀髪の勇者、リアン・アルディナを見つける。かつて自分にとどめを刺した相手だが、今は仲間から見限られ孤独だった。
平穏を乱されたくないゼルファスだったが、森に現れた魔物の襲撃により、仕方なく勇者を連れ帰ることに。
天然でのんびりした勇者と、達観し皮肉屋の魔導士。
「……いや、回復したら帰れよ」「えーっ」
平穏には程遠い、なんかゆるっとした日常のおはなし。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる