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第7話:新聖女パルフェ誕生
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――――――――――王都聖教会本部礼拝堂宝玉の間にて。ゲラシウス筆頭枢機卿視点。
アナスタシウス大司教猊下と吾輩ゲラシウス、カーティス聖堂主管、ナイジェル神職長、ヴィンセント聖堂魔道士長、マイルズ聖騎士団長、シスター・ジョセフィン聖女代行が宝玉の間に集まった。
聖女候補パルフェ・カナンの資質を見極めるためだ。
集まった七人は聖教会本部の運営に関わる幹部である。
それぞれの思惑はあるだろうが、最終的にどういった結論になる?
正直吾輩の思いも、無礼デメリットと魔力メリットの間で揺れているである。
ナイジェル神職長が疑問を呈する。
「そもそも聖女発見とはどういうことだったのですか?」
「ああ、すまない。急いでいたので報告していなかったな。辺境区に別件の調査で向かった宮廷魔道士が偶然発見したのだ」
「宮廷魔道士が?」
吾輩はアナスタシウス大司教猊下が王都を出発する前に聞いたが、神職長は聞いていなかったらしい。
どうということのない情報とはいえ、聖堂魔道士長め。
何故猊下の代理で王都聖教会を預かっていた吾輩に報告を寄越さなかったのだ。
「猊下の見立てでそのパルフェなる少女の資質はいかがです?」
修道士修道女や位階持ち神職には貴族出身の者も平民出身の者もいる。
平民聖女となれば神職者を統括するナイジェル神職長の元には、賛否両論の意見が届けられるであろう。
よって神職長は立場上中立にならざるを得まい。
田舎無礼少女パルフェを聖女として承認するかは、その場の流れに任せると思われるである。
「かなりの魔力の持ち主であることは間違いない。結構な規模の祝福を行えることは私自身が確認した。性格やマナーは……まあ」
「性格には自信あるけど、マナーは自信ないなー」
「お主には聞いておらん!」
「ごめんよ、カツラのおっちゃん」
ぐっ、またしてもこやつは。
悪びれた様子がこれっぽっちもないではないか。
マナーよりも性格の方を反省しろ!
「聖女ともなれば、やんごとなき方々にお目見えすることもあるのですぞ!」
「とも限るまい。辺境区出身であることはいずれ知れるのだ。マナーが覚束ないのであればその旨を公表しておき、貴人の前には出さぬようにしてもよい」
「庶民派聖女ってことだね?」
「そうだ。大衆の人気を得てくれると助かる」
なるほど、結界維持要員と割り切って採用するということか。
さらに庶民の支持を得てくれれば万々歳という目論見であるな。
皆が頷いている。
大司教猊下が厳かに言う。
「鑑定の儀を行う。パルフェよ。宝玉に触れてみよ」
そうだ、聖女としての資質を確かめぬ内は賛成も反対もない。
鑑定の宝玉は、触れた者の持つ魔力属性を正しく判定する魔道具だ。
む? しかし田舎少女は何を躊躇っているのだ?
「うーん、これって貴重なものなんでしょ? 壊しちゃうといけないから、誰か見本見せてくれないかな?」
「シスター・ジョセフィン。任せていいか?」
「はい、では失礼いたします」
シスター・ジョセフィンが鑑定の宝玉に触れる。
「そーか、魔力を流し込めばいいんだね?」
「はい。掌に魔力を集めるイメージで思い切り流し込むと……」
白く柔らかく輝く宝玉。
白は聖属性の証だ。
さすがはシスター・ジョセフィン。
「御苦労だった、シスター・ジョセフィン。ではパルフェ、同じようにやってみよ」
「おっけー。えーと、魔力を流し込む、と……」
ん? 青く光ってるじゃないか。
青は水属性の証だ。
聖女に必要なのは純粋な聖属性だぞ?
「どういうことなのだっ!」
「えっ? 何が?」
「宝玉の色だ! 青く光っているではないかっ!」
「カツラのおっちゃん、あたしをバカにしてんの? 青くらいあたしにだってわかるわ」
「そうではない! 聖女なら白く輝かせなければならんのだ!」
「色が大事なん? 言ってくれなきゃわかんないじゃないか。色変えるにはどうしたらいいの?」
「は?」
「ああ、そうか。魔力の属性を変えりゃいいんだね? ちょっと待ってね……」
赤黒黄色と宝玉の白が変化していくである。
えっ? 何が起きているのだ?
こんなのは初めて見るである。
どうしてこんな現象が?
ヴィンセント聖堂魔道士長が驚愕の表情を浮かべているが……。
「できた。こんな感じでどお?」
ただただ白い。
一切の混じりけを許さない、クリアで鋭さを覚えるほどの白い輝きだ。
前任の聖女ヘレン様に見せていただいたあの色。
一目見ればわかる。
シスター・ジョセフィンよりも上、紛れもなく純粋な聖属性である。
聖堂魔道士長が興奮気味に言う。
「パルフェ様は全属性持ちなので?」
「うん、そーだよ」
全属性の魔力持ち?
土・水・火・風・雷・闇・聖の七つの魔力属性を全て備えているだと?
バカな、そんな人間がいるとは……。
「通常人間は一つの魔力属性しか持たない。二属性を持つ者さえもそう多くはないということを、パルフェ様は御存知ですか?」
「うん、師匠に教わったから知ってる」
「複数の魔力属性を持っていても、それぞれの属性魔力を別々に使うことなどできぬはずですが」
そうだ、それが可能であるならば、シスター・ジョセフィンも純粋な聖属性魔力を扱えるはずではないか。
田舎小娘め、どんなカラクリを用いているのだ?
「各属性魔力を単独で出力できるようにしろって、師匠に訓練させられたの」
全属性持ちで、各属性魔力を単独で出力できる?
結界の維持には純粋な聖属性の魔力が必要だと聞いている。
聖属性持ちは極端に少ないわけではないが、どういうわけか他の属性を併せ持ってしまうことがほとんどなのだ。
だからこそ聖属性を単独で持つ聖女は特別な存在なのであるが……。
「全属性持ちなら聖女ではないではないか!」
「初代の聖女様は全属性持ちだって聞いたけど?」
「その通りです!」
くっ、ヴィンセント聖堂魔道士長め。
小娘の尻馬に乗りおって。
大司教猊下が吾輩を諭すように言う。
「何の属性持ちかということは重要ではない。問題は国防結界の維持に必要である純粋な聖属性を操れるかどうかだ。違うか? ゲラシウス筆頭枢機卿」
「……仰せの通りです」
「決を取る。パルフェを聖女として認める者は挙手せよ」
ヴィンセント聖堂魔道士長は当然賛成。
新聖女のデビューは信徒の信仰心を底上げするだろうから、カーティス聖堂主管も賛成。
ナイジェル神職長とマイルズ聖騎士団長は、少なくとも反対する理由がない。
反対は吾輩とシスター・ジョセフィンの二人だけか。
「五対二でパルフェ・カナンを聖教会の聖女として承認する」
「ありがとうございまーす。頑張りまーす」
「試みに問う。ゲラシウス殿の反対する理由は?」
「……品の問題です」
「品があり過ぎるのも困ったもんだなー」
「違うである!」
何をヘラヘラしているのだ、この小娘は!
聖女の気品ではないと言っているのだ。
シスター・ジョセフィンを見習え!
「シスター・ジョセフィンの反対する理由は?」
「貴族階級の支持を失うと思います」
「ふむ、それは構わない」
「えっ?」
大司教猊下らしいシャープな見切りである。
シスター・ジョセフィンは驚いているが、聖教会と王国は一心同体のようなものだ。
国防結界が維持できなくなれば、ウートレイド王国は滅びるかもしれない。
小娘の多少の欠点には目を瞑り、貴族の支持よりも結界の安全を優先するということであろう。
「これは決定事項だ。ゲラシウス殿とシスター・ジョセフィンもこれを遺恨と思わず、聖教会の体制と至らぬ聖女に協力してくれ」
「「もちろんです」」
新聖女パルフェの誕生か。
どうなることやら。
アナスタシウス大司教猊下と吾輩ゲラシウス、カーティス聖堂主管、ナイジェル神職長、ヴィンセント聖堂魔道士長、マイルズ聖騎士団長、シスター・ジョセフィン聖女代行が宝玉の間に集まった。
聖女候補パルフェ・カナンの資質を見極めるためだ。
集まった七人は聖教会本部の運営に関わる幹部である。
それぞれの思惑はあるだろうが、最終的にどういった結論になる?
正直吾輩の思いも、無礼デメリットと魔力メリットの間で揺れているである。
ナイジェル神職長が疑問を呈する。
「そもそも聖女発見とはどういうことだったのですか?」
「ああ、すまない。急いでいたので報告していなかったな。辺境区に別件の調査で向かった宮廷魔道士が偶然発見したのだ」
「宮廷魔道士が?」
吾輩はアナスタシウス大司教猊下が王都を出発する前に聞いたが、神職長は聞いていなかったらしい。
どうということのない情報とはいえ、聖堂魔道士長め。
何故猊下の代理で王都聖教会を預かっていた吾輩に報告を寄越さなかったのだ。
「猊下の見立てでそのパルフェなる少女の資質はいかがです?」
修道士修道女や位階持ち神職には貴族出身の者も平民出身の者もいる。
平民聖女となれば神職者を統括するナイジェル神職長の元には、賛否両論の意見が届けられるであろう。
よって神職長は立場上中立にならざるを得まい。
田舎無礼少女パルフェを聖女として承認するかは、その場の流れに任せると思われるである。
「かなりの魔力の持ち主であることは間違いない。結構な規模の祝福を行えることは私自身が確認した。性格やマナーは……まあ」
「性格には自信あるけど、マナーは自信ないなー」
「お主には聞いておらん!」
「ごめんよ、カツラのおっちゃん」
ぐっ、またしてもこやつは。
悪びれた様子がこれっぽっちもないではないか。
マナーよりも性格の方を反省しろ!
「聖女ともなれば、やんごとなき方々にお目見えすることもあるのですぞ!」
「とも限るまい。辺境区出身であることはいずれ知れるのだ。マナーが覚束ないのであればその旨を公表しておき、貴人の前には出さぬようにしてもよい」
「庶民派聖女ってことだね?」
「そうだ。大衆の人気を得てくれると助かる」
なるほど、結界維持要員と割り切って採用するということか。
さらに庶民の支持を得てくれれば万々歳という目論見であるな。
皆が頷いている。
大司教猊下が厳かに言う。
「鑑定の儀を行う。パルフェよ。宝玉に触れてみよ」
そうだ、聖女としての資質を確かめぬ内は賛成も反対もない。
鑑定の宝玉は、触れた者の持つ魔力属性を正しく判定する魔道具だ。
む? しかし田舎少女は何を躊躇っているのだ?
「うーん、これって貴重なものなんでしょ? 壊しちゃうといけないから、誰か見本見せてくれないかな?」
「シスター・ジョセフィン。任せていいか?」
「はい、では失礼いたします」
シスター・ジョセフィンが鑑定の宝玉に触れる。
「そーか、魔力を流し込めばいいんだね?」
「はい。掌に魔力を集めるイメージで思い切り流し込むと……」
白く柔らかく輝く宝玉。
白は聖属性の証だ。
さすがはシスター・ジョセフィン。
「御苦労だった、シスター・ジョセフィン。ではパルフェ、同じようにやってみよ」
「おっけー。えーと、魔力を流し込む、と……」
ん? 青く光ってるじゃないか。
青は水属性の証だ。
聖女に必要なのは純粋な聖属性だぞ?
「どういうことなのだっ!」
「えっ? 何が?」
「宝玉の色だ! 青く光っているではないかっ!」
「カツラのおっちゃん、あたしをバカにしてんの? 青くらいあたしにだってわかるわ」
「そうではない! 聖女なら白く輝かせなければならんのだ!」
「色が大事なん? 言ってくれなきゃわかんないじゃないか。色変えるにはどうしたらいいの?」
「は?」
「ああ、そうか。魔力の属性を変えりゃいいんだね? ちょっと待ってね……」
赤黒黄色と宝玉の白が変化していくである。
えっ? 何が起きているのだ?
こんなのは初めて見るである。
どうしてこんな現象が?
ヴィンセント聖堂魔道士長が驚愕の表情を浮かべているが……。
「できた。こんな感じでどお?」
ただただ白い。
一切の混じりけを許さない、クリアで鋭さを覚えるほどの白い輝きだ。
前任の聖女ヘレン様に見せていただいたあの色。
一目見ればわかる。
シスター・ジョセフィンよりも上、紛れもなく純粋な聖属性である。
聖堂魔道士長が興奮気味に言う。
「パルフェ様は全属性持ちなので?」
「うん、そーだよ」
全属性の魔力持ち?
土・水・火・風・雷・闇・聖の七つの魔力属性を全て備えているだと?
バカな、そんな人間がいるとは……。
「通常人間は一つの魔力属性しか持たない。二属性を持つ者さえもそう多くはないということを、パルフェ様は御存知ですか?」
「うん、師匠に教わったから知ってる」
「複数の魔力属性を持っていても、それぞれの属性魔力を別々に使うことなどできぬはずですが」
そうだ、それが可能であるならば、シスター・ジョセフィンも純粋な聖属性魔力を扱えるはずではないか。
田舎小娘め、どんなカラクリを用いているのだ?
「各属性魔力を単独で出力できるようにしろって、師匠に訓練させられたの」
全属性持ちで、各属性魔力を単独で出力できる?
結界の維持には純粋な聖属性の魔力が必要だと聞いている。
聖属性持ちは極端に少ないわけではないが、どういうわけか他の属性を併せ持ってしまうことがほとんどなのだ。
だからこそ聖属性を単独で持つ聖女は特別な存在なのであるが……。
「全属性持ちなら聖女ではないではないか!」
「初代の聖女様は全属性持ちだって聞いたけど?」
「その通りです!」
くっ、ヴィンセント聖堂魔道士長め。
小娘の尻馬に乗りおって。
大司教猊下が吾輩を諭すように言う。
「何の属性持ちかということは重要ではない。問題は国防結界の維持に必要である純粋な聖属性を操れるかどうかだ。違うか? ゲラシウス筆頭枢機卿」
「……仰せの通りです」
「決を取る。パルフェを聖女として認める者は挙手せよ」
ヴィンセント聖堂魔道士長は当然賛成。
新聖女のデビューは信徒の信仰心を底上げするだろうから、カーティス聖堂主管も賛成。
ナイジェル神職長とマイルズ聖騎士団長は、少なくとも反対する理由がない。
反対は吾輩とシスター・ジョセフィンの二人だけか。
「五対二でパルフェ・カナンを聖教会の聖女として承認する」
「ありがとうございまーす。頑張りまーす」
「試みに問う。ゲラシウス殿の反対する理由は?」
「……品の問題です」
「品があり過ぎるのも困ったもんだなー」
「違うである!」
何をヘラヘラしているのだ、この小娘は!
聖女の気品ではないと言っているのだ。
シスター・ジョセフィンを見習え!
「シスター・ジョセフィンの反対する理由は?」
「貴族階級の支持を失うと思います」
「ふむ、それは構わない」
「えっ?」
大司教猊下らしいシャープな見切りである。
シスター・ジョセフィンは驚いているが、聖教会と王国は一心同体のようなものだ。
国防結界が維持できなくなれば、ウートレイド王国は滅びるかもしれない。
小娘の多少の欠点には目を瞑り、貴族の支持よりも結界の安全を優先するということであろう。
「これは決定事項だ。ゲラシウス殿とシスター・ジョセフィンもこれを遺恨と思わず、聖教会の体制と至らぬ聖女に協力してくれ」
「「もちろんです」」
新聖女パルフェの誕生か。
どうなることやら。
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