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第34話:縮こまるゲラシウスその2

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「今のパルフェ殿の口述によると、ゲラシウス殿がパルフェ殿にリザレクション対応の患者を斡旋していたことになります。間違いないですか?」
「間違いないである」

 断罪が来るであるか?
 司法官はどこまでの情報を掴んでいて、どう責めてくるのであろう?
 何でもいいから助かりたいである。

 フェリックス様が沈痛な表情で言う。

「左腕の利かなくなった騎士シリル・アーロンや、半身不随だったクローディア・スモールウッド嬢をゲラシウス殿に紹介したのはわしじゃ。良かれと思ってしたことであったが……」
「ボクも聖女様のリザレクションで治してもらったのです。聖女様の魔法治療自体が悪いものとは思えません」

 これも全員が頷く。
 あああああ、しかし司法官の追及が。

「続けます。謝礼金をゲラシウス殿が独り占めしていたのではないかという疑惑がありますが、それについては?」
「何だと!」
「ま、間違いないである」
「強欲なやつめが! それでも聖職者か!」

 ひゃあああああ、ローダーリック陛下の怒鳴り声は本当に怖い!
 部屋の気温が下がった気がするである。
 それなのに汗ばかり出てくるである。

 厳密に言えば謝礼金の独り占めは罪ではないはずであるが、そんなこと言い出せない雰囲気である。
 吾輩の印象がいっぺんに悪くなったである。

「自然派教団のテロの際、パルフェ殿が癒しで出遅れたのはゲラシウス殿の斡旋した患者のせいであったのにも拘らず、パルフェ殿の追放に賛成したことに関して申し開きはありますか?」
「な、ないである」
「私腹を肥やした上に見殺しか?」
「聖女を守るのも聖教会幹部の役目であろうが!」
「何という恥知らずな!」

 視線が痛い視線が痛い!
 ゴミを見るような目で見ないで欲しいである。
 居たたまれないである。

 賢者フースーヤ殿が吠える。

「そんな枝葉のことはどうでもよい! パルフェを追放し、放置したのは何故じゃ!」
「待たれよ! パルフェを追放した責任は私にある」

 あざああーす!
 この吹きすさぶ逆風の中で反論してくれるアナスタシウス殿下好き。
 しかし追及の手を緩めない司法官は嫌いである。

「当時大司教職にあったアナスタシウス殿下には、パルフェ殿の追放が国防結界の維持において致命的になるという判断基準がなく、その追放も聖教会幹部の多数決を取った末でありました。独断ではなく、聖教会全体の判断と認められます」
「ゲラシウス殿を後任の大司教に推したのは私なのだ!」
「大司教職にある者が職務を遂行できなくなった場合、筆頭枢機卿が職務を代行することは当然であります。そしてゲラシウス殿の大司教就任もまた、聖教会幹部の承認を得ております」
「そもそも多数決でこの守銭奴が追放側に回らなんだら、アナスタシウス殿が大司教を辞任することもなかったろうが!」

 旗色が非常に悪いである。
 生きた心地がしないである。
 フースーヤ殿の舌鋒が鋭過ぎるである。

「聖教会大司教の一番の職務は、聖教会最上位者としての振る舞いである。聖教会の存在意義が国防結界の維持である以上、大司教は結界維持のための根本である聖女の確保に動かねばならぬ」

 フースーヤ殿がチラリとアナスタシウス殿下に視線を走らせる。

「パルフェの存在が見出された時、アナスタシウス殿が自ら招聘に訪れたと聞く。結果的にそれが正解とは言えず、パルフェは辺境にいた方が国防結界は安泰だったかもしれぬ。しかしワシはそれを責める気になれぬ。何故ならアナスタシウス殿の行動は聖教会大司教としての理にかなっているからじゃ」

 深い納得の空気。
 吾輩も思わず首を縦に振ってしまったである。

 フースーヤ殿が憎々しげに吾輩を見る。
 本当に勘弁して欲しいである。
 何でもしますから!

「しかるにそこの守銭奴は何であるか! 危うき旧態に頼り切り、確実に国防結界を維持できるパルフェを監視下に置かず、かといって新しき手段を模索しようともしなかった。ヴィンセント聖堂魔道士長の注意喚起があったのにも拘らずじゃ! 世界を危険に晒したのじゃぞ! 許しがたき不覚である!」

 一言もないである。
 首を竦めるしかできないである。

 陛下が厳かに申し渡す。

「判決並びに命を下す。アナスタシウスは大司教に、パルフェは聖女に復帰せよ。そしてゲラシウスは大司教職剥奪の上……」
「待った!」

 ひやあああああ!
 完全に首ちょんぱの流れであったである!
 助かったである。

 しかし陛下の発言に待っただと?
 どこまでも不敬な小娘ではないか。

「王様、ちょっといいかな?」
「うむ、聖女パルフェの発言を許す」
「ダンディなおっちゃんも悪いことばかりじゃなかったよ。クインシー殿下はじめ、救われた人が何人かいた」

 『ダンディなおっちゃん』発言に困惑する一同。
 吾輩のことである。
 今更ながら恥ずかしい。
 穴があったら入りたいである。

「救ったのは聖女の御業ではないか」
「ううん。さっきも話が少し出たけど、あたしはあんまり魔法医じみたことには積極的になれなかったんだ。意見してくれたり患者を連れて来てくれたりしたのはダンディなおっちゃんなの」
「……謝礼金を独占したことについては?」
「これは魔法医のお仕事の範疇だから、斡旋料? 紹介料? をもらうことは当然だと思う。少なくともその謝礼金を渋った人はいないんじゃないかな。皆喜んでくれたって聞いたよ」
「聖女殿には見返りがなかったではないか。それでいいのか?」
「あたしは聖女のお給料たくさんもらってるから、足りないことないもん」
「何と無欲な」
「これが聖女パルフェか」

 まさか小娘に弁護されるとは思わなかったである。
 吾輩は金銭を得るために小娘を利用する立場だったのに。
 泣けてくるである。

 フースーヤ殿が言う。

「しかしパルフェよ。そやつが大司教に就任した後の怠慢は、とても責任を免れ得ぬぞ」
「それは単純に能力が足んなかったんだから仕方なくない? 責任がないとは言わないけど、任命したおっちゃんや承認した聖教会幹部の責任だってあるんだし」

 会場がざわつく。

「あたしのリザレクション治療関係でダンディなおっちゃんの人格が非難されてて、その後の大司教就任後の事績で能力が非難されてるじゃん? 別個に考えるべきなんじゃないかな。一緒くたにして罰則を科すのはフェアじゃないと思うんだけど。具体的に罪になるのは師匠も言ってた大司教就任後の事績であって、それは確かによろしくはないよ? でもそれだけなら重い罪になるほどかなあと」

 流れが変わった?
 おおおおお? 逆転があるのか?

「結界崩壊の危機だったかもしれないけど、結局被害はなかったわけじゃん? これでダンディなおっちゃんの罪が重くなったら、寝覚めが悪くて仕方がないよ。あたしが罰則食らった感じになるのは、ひじょーに納得がいかない」
「ハハハ。よし、最大の迷惑を被った聖女パルフェがこう言うのだ。ゲラシウスの処分内容は聖女パルフェに一任しよう」

 助かった!
 一生感謝するである!

「ほんと? じゃあダンディなおっちゃん一生あたしの下僕ね」
「全然助かってないである! 屈辱である!」

 大笑いする場面ではないである!
 ひどいである!

 後になってわかったことであったが、吾輩筆頭枢機卿に戻って聖女付きになっただけだったである。
 実にありがたいことである。
 感謝の気持ちを込めて『聖女様』と呼ぶことにしたである。
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