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8 交霊会での出来事
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その時のことを思い出して、ヴィヴィアンは身震いした。
文字盤の上に覆い被さるように浮かんでいた、あれは、悪意の塊だった。邪悪でおぞましい、得体の知れないもの。
あの部屋に集まった霊たちもあれには近づけず、遠巻きに円を描いて漂うだけだった。不用意に近づきすぎた一体が、スウッとあれに取り込まれた。また一体が。また。
取り込むごとに闇が濃くなっていき、その度に霊がざわざわと揺れる。
おぞましい光景だった。あれの昏く虚ろな目が私を捉えた時、瞳の奥で火花が散ったように一瞬輝いた。
来る!と思って身構えたが、文字盤の上から離れることができないようだった。
良かった。一応縛られてはいるのね、と安堵した。
「いやー!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」」
「た、助けて!お願いします、誰か!」
「くそっ!何が起きてるんだ?」
「おい、何なんだ、あの黒い塊は!」
「何が見えてる?俺には何も見えない」
「お願い、誰か助けて!いやよ、まだ死にたくない」
「ごめんなさい、許して!死にたくない、死にたくないわ」
「怖い、怖い怖い怖い怖い怖い」
その場にいた一人の女性が叫び声をあげて失神した。それでも皆身動き一つせずにいた。まるで少しでも動くとあれに襲われるとでも思っているみたいだった。皆文字盤から目を逸らせず、ただじっと蹲っている。
パシッ、パシッ!ラップ音が鳴る。
「キャー!怖い怖い怖い怖い怖い、助けてー!」
「何か光ってるものがこっちに来る!いやー」
「何が、誰か助けてくれ!」
あれが震えると書架の一つが浮いた。そして伸び上がって捩れると書架が勢いよく私に向かって飛んできた。慌てて避けると、私の背後で書架同士がぶつかり合う音が聞こえた。
あれが次々と書架を投げつけてくる。その度に避けるが気が抜けない。室内はパニック状態になり、女性の金切声が耳をつんざいた。
「大丈夫ですから、落ち着いて下さいませ」
凛とした声が辺りに響いた。あら、思ったより響いたわ。
皆の動きが止まった。固唾を飲んでこの状況を見守っている。私は努めてにっこりと笑った。
「皆さま、学園内で交霊会が密かに流行っているようですが、面白半分でされるのはお勧めしませんわ。でもせっかくですから続きをいたしましょう」
皆の息を呑む音が聞こえた、気がした。
あれがゆらりと上体を揺らす。
「そこの文字盤上の貴方?貴方のお名前を教えて下さいな」
文字盤上のコインがゆっくりと文字をなぞった。
「しにがみ」
「死神?」
文字を読み上げた瞬間、黒くぼんやりとしていたあれが、大鎌を背負った死神の姿になった。両手を大きく広げると、ローブが闇と同化した暗さでゆらゆらと揺らめいた。
「あらまあ、死神、ですか。かなりの大物ですね。さて、死神さん。お帰り願いたいのですが」
「だめだ たましいを」
「……ですよねぇ。でもそれ以外でお願いします」
「いな」
「やはりダメ、ですか。仕方がないですね。すみません、どなたか死んでもいいと仰る方は」
皆は大慌てで首を横に振った。何度も何度も。
「……そりゃあ、いませんよね。皆さま、これに懲りて、今後、交霊会はおやめ下さいね」
今度は大きく頷いた。何度も何度も、首が取れそうなくらい。
「お願いしますね。では、参ります」
私はゆっくりと死神に向かって歩いた。死神はゆらりと揺れながら、背中の大鎌を手に取り、ゆらゆらと揺れながらそれを構えた。
文字盤の上に覆い被さるように浮かんでいた、あれは、悪意の塊だった。邪悪でおぞましい、得体の知れないもの。
あの部屋に集まった霊たちもあれには近づけず、遠巻きに円を描いて漂うだけだった。不用意に近づきすぎた一体が、スウッとあれに取り込まれた。また一体が。また。
取り込むごとに闇が濃くなっていき、その度に霊がざわざわと揺れる。
おぞましい光景だった。あれの昏く虚ろな目が私を捉えた時、瞳の奥で火花が散ったように一瞬輝いた。
来る!と思って身構えたが、文字盤の上から離れることができないようだった。
良かった。一応縛られてはいるのね、と安堵した。
「いやー!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」」
「た、助けて!お願いします、誰か!」
「くそっ!何が起きてるんだ?」
「おい、何なんだ、あの黒い塊は!」
「何が見えてる?俺には何も見えない」
「お願い、誰か助けて!いやよ、まだ死にたくない」
「ごめんなさい、許して!死にたくない、死にたくないわ」
「怖い、怖い怖い怖い怖い怖い」
その場にいた一人の女性が叫び声をあげて失神した。それでも皆身動き一つせずにいた。まるで少しでも動くとあれに襲われるとでも思っているみたいだった。皆文字盤から目を逸らせず、ただじっと蹲っている。
パシッ、パシッ!ラップ音が鳴る。
「キャー!怖い怖い怖い怖い怖い、助けてー!」
「何か光ってるものがこっちに来る!いやー」
「何が、誰か助けてくれ!」
あれが震えると書架の一つが浮いた。そして伸び上がって捩れると書架が勢いよく私に向かって飛んできた。慌てて避けると、私の背後で書架同士がぶつかり合う音が聞こえた。
あれが次々と書架を投げつけてくる。その度に避けるが気が抜けない。室内はパニック状態になり、女性の金切声が耳をつんざいた。
「大丈夫ですから、落ち着いて下さいませ」
凛とした声が辺りに響いた。あら、思ったより響いたわ。
皆の動きが止まった。固唾を飲んでこの状況を見守っている。私は努めてにっこりと笑った。
「皆さま、学園内で交霊会が密かに流行っているようですが、面白半分でされるのはお勧めしませんわ。でもせっかくですから続きをいたしましょう」
皆の息を呑む音が聞こえた、気がした。
あれがゆらりと上体を揺らす。
「そこの文字盤上の貴方?貴方のお名前を教えて下さいな」
文字盤上のコインがゆっくりと文字をなぞった。
「しにがみ」
「死神?」
文字を読み上げた瞬間、黒くぼんやりとしていたあれが、大鎌を背負った死神の姿になった。両手を大きく広げると、ローブが闇と同化した暗さでゆらゆらと揺らめいた。
「あらまあ、死神、ですか。かなりの大物ですね。さて、死神さん。お帰り願いたいのですが」
「だめだ たましいを」
「……ですよねぇ。でもそれ以外でお願いします」
「いな」
「やはりダメ、ですか。仕方がないですね。すみません、どなたか死んでもいいと仰る方は」
皆は大慌てで首を横に振った。何度も何度も。
「……そりゃあ、いませんよね。皆さま、これに懲りて、今後、交霊会はおやめ下さいね」
今度は大きく頷いた。何度も何度も、首が取れそうなくらい。
「お願いしますね。では、参ります」
私はゆっくりと死神に向かって歩いた。死神はゆらりと揺れながら、背中の大鎌を手に取り、ゆらゆらと揺れながらそれを構えた。
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