笑わない(らしい)黒の皇子の結婚~元聖女の皇子の強すぎる執着を元黒竜の訳あり令嬢は前向きに検討することにしました~

HarukaR

文字の大きさ
19 / 61

19. 皇子、父と語る

しおりを挟む
 アルフォンソは、その夜、王家秘蔵の連絡用魔道具『魔鏡』を起動させた。
 その日は運がよかったようで、ほどなく、その面に、ローザニアン皇国国王アルメニウス一世がたった一人自室でくつろぐ姿が映し出された。

 3日に一度は、どこに居ようと、魔鏡で父王と密かに連絡を取ること。
 それが、王宮どころか自国にも居つかない息子に、王が求めた唯一の義務だった。

 いつも通りの主観の一切混じらない客観的な報告の後に続けられた言葉に、王の眉がピクリと動いた。

「本気でそう申しておるのか、アルフォンソ?王族としての地位を捨て、異国の子爵令嬢の婿になると?」

 アルメニウス一世は、第二王子の驚くべき申し出を、表面上は、冷静に問い直した。

 『伝説の勇者』そのものを彷彿させる見事な体躯に、金色の髪、真っ青な瞳。彫の深い精悍な顔立ちは、アルフォンソと通じるところは、ほぼゼロに等しかった。
 アルフォンソの容貌は、男と女という違いこそあれ、産後まもなく亡くなった実母に生き写しなのだ。その瞳と髪の色を除いて。
 皇子が極めて端正な貴公子だとすれば、アルメニウス王は、まさに大国の王者にふさわしい風格を持った美丈夫だった。

「その通りです、陛下」

 アルフォンソは、父王の問に臆することなく答えた。

「故に、王位継承権は、返上させていただきたく存します」

 王は、魔鏡越しに、アルフォンソを推し量るように見つめている。

 今生の父ながら、何を考えているのかわからない男だと、アルフォンソは改めて思う。
 いや、無表情なところは、似た者父子と言えるのかもしれないが。

 思い起こせば、父王が、心の底から笑ったり、悲しんだり、檄したりする姿を見たことは一度もない気がする。はたして、己の感情を揺らがすことなどあるのだろうか?常に人としてというより、王としてふるまうこの男に。

 アルフォンソが知る限り、王の国益に反する唯一の行動は、アルフォンソの実母、とるに足らない地方貴族の娘を、側室に迎えたことくらいだろうか。
 常に冷静沈着で公平無私な統治者。為政者としては立派かもしれない。が、父親としては、夫としては、どうなのだろう?物心つく前から母方の離宮で育てられたアルフォンソには、成人するまで、父子らしい語らいなどした覚えもなかったが。

「王位はアルバート兄上が継がれるはず。第三皇子のアルサンドも第一王女のアマリアーナ姉上もいます。側室腹の私が抜けても、何の支障もありますまい。少なくとも義母上は、お喜びになるかと」

「王族の義務をも捨て去ると申すのだな?」

「王族の義務?そんなものより、私ははるかに大切な者を見つけました」

 周囲に誰もいないのをいいことに、アルフォンソは、不敬にも言い放った。

「それに、軍を預かる身として、すでに十分すぎるほどに皇国に尽くしてきたと自負しております」

「私が許しても、大臣どもが黙って認めると思うか?お前の優秀さは、誰が見てもずば抜けている」

「では、お伺いします。陛下は、この私が、王にふさわしい器だと、お思いか?いえ、それ以前に、私が皇国に長く留まることはできぬ身だとご存じのはす。私は、少しでも長く、かの令嬢とともに過ごしたいのです」

 父子は、しばし、見つめあった。どちらも感情を出すこともなく、黙して対峙する。向かい合わせに飾られた、異なる匠による美しい二つの像のように。

「お前の意、重鎮たちには、しかと伝えよう」

 王が面会の終了を告げた。

「吉報のみをお待ちしております」

 アルフォンソは、一礼した。

*  *  *  *  *

「アル、陛下には、ちゃんと話したんだろうな?」

 部屋から出ると、待ちかねていたエクセルが、いの一番に尋ねてきた。

「ああ。だが、まだ、確約は」

 返す言葉が、中途半端に途切れた。
 エクセルだけではない。扉の前には、黒騎士団の主要メンバーがほぼ全て集合状態。ちょっとした人だかりができていたのだ。

「お前たち、夕食はどうした?先に済ませるように言ったはずだが」

 アルフォンソは、一同の心配そうな、もの問いたげな様子に、面食らっていた。
 彼の表情筋は慣れ親しんだ者たちだけが判別できるくらいしか動いてはいなかったが。

「そりゃ、気になりますよ。団長、一大宣言かまして、そのまま、部屋に籠っちまったんだから」

 アルフォンソと比較的年が近い、自称若手有望術者のケインが言った。その言葉に、皆が頷きあう。

「ベルウエザーのご令嬢と結婚して、婿養子になる!だから、第二騎士団はじきに解散になるかもしれない、だなんて」

「すまない。ここまで付いてきてくれた皆には、本当に悪いと思っている。先ほど言った通り、お前たちのことは、決して悪いようにはしないから、安心してくれ」

 呆れたように首をふる者多数。ため息を吐いた者多数。

「ね。私が言った通りになったでしょ?やっぱり、二人は一目で恋に落ちたのよ」

 シュール・ファレルが、なぜか嬉しそうに言った。
 彼女は、運命の出会いを扱う恋愛小説の密かなファンだった。
 ちなみに、ファレルは見舞いに来たシャルを案内して接待してくれた女騎士である。

「なんにせよ、団長が身を固める気になったってのは、めでたいことだよな?」

「実は心配してたんです。団長、自分が美形すぎるから、一生、女性に興味が持てないんじゃないかって」

「ベルウエザー一族って美形ぞろいで有名らしいぞ。なんでも、先祖にエルフがいたって話だ」

「ベルウエザー夫人って美人だよな。術師としても、ものすごいし」

「ベルウエザー卿は、元傭兵から婿養子になったんだと。で、あの夫人に今でも頭が上がらないって」

「婿養子?じゃ、母娘そろって婿をもらうことになるのかしら?」

 てんでばらばらに、皆がしゃべりだす。

「サミュエル様は将来楽しみな美形だけど、ベルウエザー嬢は、可憐って感じ。ですよね、団長?」

「眼鏡はずしたら、かなりの美人だとみたよ、俺は」

「眼鏡があろうとなかろうと、関係ないよね、団長?」

「ともかく、ご婚約おめでとう!」

「いや、まだ正式に決まったわけではないんだ。ただ、ベルウエザー夫人に、明日、内輪の晩餐に招待していただいた」

 アルフォンソが、ほんの微かだが、顔を赤らめたのを、もちろん、見逃した者はいなかった。

「とにかく、皆の実力は私が保証する。解散後も、それぞれの希望に沿うようにするつもりだ。約束する。第一騎士団でも、近衛にでも、移りたい部署を願い出てくれ」

 アルってば、そんなのは、一つしかないだろ。お前が、ベルウエザー領に行く以上。

 エクセルが心の中で突っ込みを入れた。

 『黒の皇子』率いる無敗の少数精鋭部隊『黒騎士団』。その実態は、世間の噂とは少し、いや、かなり、かけ離れていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく

かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。 ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!? 俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。 第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。 「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」 信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。 賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。 様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する! 異世界ざわつき転生譚、ここに開幕! ※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。 ※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !

恋せよ恋
ファンタジー
 富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。  もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、  本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。  ――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。  その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、  不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。  十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。  美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、  いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。  これは、  見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、  無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 エール📣いいね❤️励みになります! 🔶表紙はAI生成画像です🤖

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

処理中です...