ハーゲンの逆襲【生え際の型】~カリスマヘアーで最強に至れるかもしれないがそこは目指さない男~ ※本人談あれは薄毛だった

復活のおたけさん

文字の大きさ
3 / 10

チャレンジ

しおりを挟む

「せいっ!」

 スインは黒ケヤキの棒を叩き付けた。

 ベチャッと嫌な音を立てて潰れるモンスター。

 スライムは本来打撃には強いのだが、中級とは言え、浅い階層に出現するスライムならば、レベルが8もあれば潰す事は出来る。

 それくらい弱いモンスターだった。普通の冒険者はそんな事はしないのだが、魔法か魔石を突いて攻撃を加えるか、無視するのが普通であった。余程の事でもない限り。


 それでもそんな知識のないスインは、喜びと初めての挑戦に舞い上がっていた。

 誰に見せても恥ずかしくないと思われる髪のある喜びと、今まさに憧れもあったダンジョンに挑戦している興奮に。

 だから遭遇する初めてのモンスターには手を出し、一応自分がどこまでやれるかを確認しながら進んで行った。


 無敵とは言っても得物がこれでは限界はあるだろうし、出来るだけ経験値を稼ぎたいとは思うが、あまり無茶をし過ぎて死んでしまうのはもっと嫌だ。

 それくらいの分別はあった。元おっさんなだけに。


 ドロップアイテムの有無を確認し、魔石をアイテムボックスに収納したらまた下の階層を目指して駆ける。

 初見のモンスターが居れば、鑑定で弱点を確かめ、やれると判断できれば無謀にも真っ正面から突っ込み、全体重を乗せた黒ケヤキの棒を振り下ろす。

 そんなパワープレイを続けて行った。

 まだ大したパワーはないので、ごり押しプレイと言うべきか。『無敵』頼りの勇敢なるレベル上げ。本人はそう思って頑張っているのだが。



 歩いて2日の距離と言われたダンジョンだったが、休まず走り続けた事で1日も掛からなかった。辺りが暗くなる頃にはたどり着く事が出来た。出来てしまった。

 ここまでの道程も険しいものではなく、程よく整備されていたりもした。目印となる目標物もあったので、迷う事もなくたどり着けた。


 町から向かう馬車道もあったので、普通の冒険者はそちらを使う。あんな中途半端な場所から向かう者など居なかった為、誰とも出会でくわす事はなかった。


 中に入ってしまえば、ダンジョン内に外と同じ昼夜の理屈はない。ここは中級なだけに、様々な環境、仕掛けも用意されたダンジョンだが、暫くはずっと昼間のような明るさのフィールドが続く事になる。

 だからそこは気にせず駆け続ける事が出来ていた。


「せいっ! せいっ! せいっ!」

 どかっ どかっ どごっ

 下に降りる程にモンスターは強くなる。一撃で倒せていたものが、2撃、3撃と増えて行く。

 武器はこれしかないので仕方ない。

 黒ケヤキというだけあってそれなりの硬度を持つ戦闘用の棒ではあったが、そこまでお高い物でもない。

 恐らく、初級ダンジョンならばそれなりに活躍も出来たであろう装備であった。しかしここは中級ダンジョン。文字通り、初級よりは甘くない。


 弱点が分かるとは言え、特に戦闘のプロでもなかった元おっさん。剣術も無ければ格闘術も有していなかった。幸運以外は『並』のステータスの青年。

 それでも棒くらいは扱える。強く握って振り下ろすだけ。

 衝撃はそれなりに返ってくるはずなのだが、無敵状態のスインには、それすら何も感じられなかった。

 太刀打ち出来なくなってきたと感じたら直ぐに引き返す。そう思ってチャレンジしているのだが。もう暫くは大丈夫そうだと感じていた。

 階層を降りる度に感じるモンスターの手応えが、そこまで急激ではなかったから。まだ上層階だからなのだが、そこは降りてみないと分からない。


 それに、『数日間無敵で飲み食い要らず』と言うのは伊達ではなかった。飲み食いだけでなく、出るものも出なかった。もよおす事もなかった。大も小も。喉の渇きすら感じる事もなかった。

 まさに、無敵。いや。無滴。


 体が光っている訳ではなかったし、体当たりだけで敵が吹っ飛んで行くとか、倒せてしまうような無敵状態でもなかったが、ダメージと言われるものはスインには入らなかった。疲れもなかった。

 無敵とは言え重量の概念は存在しているので、殴られればダメージは入らなくとも、その反動を受ける事にはなるのだが、今の所そんな力のあるモンスターとは遭遇していなかった。

 だからスインは駆ける。

 散々お世話になった二次元知識を活用し、経験値を稼ぎながら、魔石を回収しながら、ドロップアイテムを拾いながら。一応、出来る限りの警戒はしながら。


 この先に恐ろしい罠が待っているとも知らずに。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...