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転換点
しおりを挟むここが何階層かは分からない。
分かるのは、罠に嵌まってしまった事。かなり落ちてしまった事。
更に、目の前に現れたのは、数える気も起きない程の無数の四足獣のモンスターであった事。
モンスターハウス。
長いスロープの先にたどり着いたのが、いや。滑り落ちたのが、そこだった。
ズジャジャジャジャ~~~ッと辺りに響き渡る痛々しい音を立て、通常なら肉まで削られ、骨まで達しているんじゃないかと思われるゴガガガガッとの音も出し、そのフロアに現れた人間。それがスインだった。
だが、いくら無敵状態とは言え、戦闘馴れもしていないスインが直ぐに反応できるはずもなく、何をするでもなくモンスターの攻撃を受ける事になった。
狼のようなモンスター。でも角がある。鑑定を見る隙もなく、ドスッとやられたり、ガブッとやられた。
「っぐわああぁぁ~~~っ!!!」
痛くはないはずなのに、ついそんな声を出してしまった。俺はここで死ぬんだ。そう思ってしまった。
そんな事を一瞬で悟ってしまった刹那にも、更に追撃が全身を襲う。
痛くはない。痛くはないのだが、やはり痛い気がしてしまう。ここまでやられると、流石に不味いとも思ってしまう。
数の暴力、モンスターの凶悪さがよく分かった。これぞ臨死体験。このまま無敵期間が終われば死んでしまうのだろう。
そんな諦めを抱かされるのも仕方なかった。あまりの物量に体が動かないのだから。
必死に抵抗しようとしてもダメ。動くには動くが、思うようには動かせない。そんなもどかしい時間が暫く続いた。
頼むからもう暫くはもってくれよ。それだけは必死に願いつつ。早く飽きてどっか行け。そんな事も思ったりもした。
暫くすると、俺の願いは聞き遂げられた。
本当に諦めが悪かった。モンスターなんて大嫌いだ。どころじゃねえ。確実に全部ぶっ殺してやる。心にそう誓った。それ程の恐怖体験だった。
角で突いても血も出ないどころか怪我も追わない。防具はぼろぼろになったが、肉体まではたどり着いてない。
いくら噛んでも引きちぎれない。噛み応えはそれなりにあるのだが、いつもと違う。
そんな感情を持ち合わせているかどうかは分からないが、ここのモンスターにとっても初めての体験だったと思われる。
人間であるはずの物体が、本能が殺せと訴えてくる対象が、いくら攻撃してもその身を崩さない。そして反応がなくなった。
誰に指示されるでもなく、無数のモンスターが距離を取る。そこには、素っ裸の人間であろう物体が横たわっていた。
肉体は無敵でも、防具や服やそうではない。
モンスター達が必死で攻撃していたのは、スインの装備だった。勿論、そこには服も含まれる。……
終わったか?
色んな所から視線を感じる気がするが、少し距離はある気もする。
伏したまま薄目を開けて確かめる。
お、おお。見られてる。
やっぱり狼のモンスターだったか。
まだ警戒してやがるのか。ちっくしょう。好き放題やってくれやがって。それは俺もだったかもしれないけど、俺はたった1人で来たんだぞ。
それをどれだけ居るか確認も出来ない数で襲ってきやがって。
ここからは俺のターンだ。
……。どうしようかな。
……
ここで置き上がっても、同じ結果になる未来しか見えないぞ。でも、それでも1体ずつでも地道に殺っていけばいつかは終わるかな。
それより俺の無敵期間が終わるのが早いかもしれないし、リポップなんてもんがあったらエンドレス。それは悪手だろうな。握手して和解できるような相手じゃないだろうしな。
ちっ。
あっ。そうだった。これで行くか。おっし。これしかない。
そうだ。どうせなら全部出し切ってやる。これで時間切れになる可能性もあるんだ。やりたい事はやっておこう。
よし。
そう気合いを入れると、スインの髪がずずずと伸びて逆立った。しかも色は金髪でつやっつや仕様。ひかりを当てれば反射するんじゃないかと思われるくらいの艶加減。
オーラを纏っているでもない、気が溢れているでもない。
本人はそんなイメージでやってるのかもしれないが、モンスターから見れば、突然ふらりふらりと立ち上がった人間の頭の上の物が伸び、色まで変わって行ったという事だろう。
理解不能。それで動き出す事を一瞬止めてしまった。その意味では、スインのした髪型チェンジは成功だったと言えるのかもしれない。
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