SAND PLANET

るなかふぇ

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第五章 覚醒

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 連なって戻った二台のバギーを、マレイアス号の兵士や科学者たちは一様に怪訝な顔で出迎えた。
 「ヴォルフたちはどうした」という当然の質問に対して、グイドは「知らねえよ。俺らが見つけたときには、このバギーは無人だったぜ」と平気な顔でうそぶいた。
 フランは例によって宇宙服姿にされている。要するに、出かけたときにはいたピットとかいう男の代わりにされた形だった。

 傭兵どもはそのままどやどやと船内の一室にフランを連れ込んだ。誰かの私室なのだろう。基本的な形状はヴォルフの部屋と大差なかったが、中はひどく汚かった。酒や煙草といった嗜好品の残骸があちらこちらに放置され、服などもぞんざいに床に積み上げられている。そういうものから発するらしいえた臭いが鼻をついた。
 もうひとつ、ヴォルフの部屋と違うのは、寝台の形式だった。
 彼のベッドは壁から回転して現れる形状だったが、こちらのものは床からせりあがる形である。そして、シングルサイズよりもかなり大きめに見えた。要するに、だからこそこの部屋が選ばれたということらしい。
 連中はすぐにフランの宇宙服を脱がせると、その下の衣服もひん剥き始めた。濁って黄色く血走った彼らの目が、ぎらぎらと光っている。言われなくても分かった。それが獣欲によるものだということが。

「い……やだ。いやっ……!」

 フランも抵抗はした。両腕を振り回し、近寄ってくる顔を押しのけ、足をばたつかせた。さすがにここまで離れれば、ヴォルフの首の爆弾を爆発させることはできないはずだったからだ。
 だが、何人ものいかつい男どもに四肢を押さえつけられていたのでは無理だった。頬を何度も張り飛ばされ、腹部に重いパンチを食らい、フランの動きが次第に緩慢になっていく。やがて素っ裸に剥かれて、体のすべての場所を男どもの目に晒すことになった。

「……へえ」
「こりゃあ……」
 男どもが息を呑むのが分かった。
「ふん。こりゃあ、思った以上に上玉じゃねえか。ああん? お嬢ちゃんよ」

 グイドがにたにたとほくそ笑む。脳裏で早速「さていくらになるかな」とばかり、売り値の皮算用を始めているのは明らかだった。
 おい、と男が目配せをすると、両足を押さえつけていた男二人がぐいとフランの足を押し広げた。グイドがそこに顔を突っ込むようにしてじろじろと吟味する。

「ふうん。大事な場所も十分きれいだ。あのゴリラ野郎とヤッたばかりのわりにはな」
 げへへへ、と周囲の男たちが下卑た笑いを洩らす。
「それに、なんだかいいニオイがするぜ。……あんたやっぱ『魔性』ってやつだろ、ええ? 男の相手だって十分こなせる体だぜ、こりゃあ」
「んうっ」
 フランがびくっと腰を揺らした。腕を抑え込んでいた男の片手が伸びてきて、胸の突起をくりくりといじっている。

──イヤ、ダ。

 それは、なんだったのだろう。
 なんというか、それはもう、言葉なんてものではなかった。

 拒否。拒絶。嫌悪。忌避。
 そんな言葉で表現されるような、なにか赤黒くてみっちりとした感情が、うわっと閃いてあふれ出し、頭の全部を支配した。
 どうしてだか、よくわからない。

 どうせこんな体、あの兄に散々に弄ばれてきたものだ。
 何年も何年も、この惑星でたった二人で。それで、何万回も繋がって。ありとあらゆるプレイをさせられ、足を開いておねだりをさせられて。全身、互いの体液で何度も何度もどろどろに塗れて。
 崩れて。腐って。
 ……とっくに汚れきって、めちゃくちゃになったもの。
 こんな体に価値はない。

 だから今さら、誰にどんなにけがされようが同じだ。
 何が変わるというものでもない。
 むしろ好きなようにさせてやって、彼らが油断した隙に逃げる。そうして、ヴォルフたちを助けに戻ればいいのだ。そう思ってここまで唯々諾々とついてきたはずだったのに。
 それなのに。

──イヤダ、イヤダ……いやだ──!!

 溢れ出てくるその思いだけは、どうしようもなかった。
 触られたくない。もう、誰にも触られたくない。

 だっては、あの人が触ってくれたものだから。
 やっとやっと、あんな風に大切に、優しく触ってくれた人の痕が、匂いがまだ、あっちにもこっちにも残っている体なのに。

 ……それに。

 この体には、もう別の命が宿っている。
 大切な大切な、彼にもらった新しい命が。
 そのことだけは、なぜかはっきりと本能的に分かっていた。

 もしもこの場で彼らに無体な真似をされたら。
 その子にどんな影響が出るかわからない。

「やめて、お願い……!」

 フランは必死で、体じゅう渾身の力をこめて暴れまくった。跳ねた左足が、そこを抑えていた男の顎にヒットする。男が「ぎゃあっ」と悲鳴をあげた。
「うるせえッ!」
 途端、また凄まじい勢いで頬に拳がお見舞いされた。一瞬、ぐわんと頭蓋が痺れ、目の前が暗くなる。
 と、両のてのひらにすさまじい痛みが走った。

「ひぎっ……あああああ──っ!」

 見ればそこに、太いナイフが突き立っている。ぎざぎざした刃をもついかついナイフによって、両手が寝台に縫い留められていた。
 悲鳴を上げて身をよじるフランを見て、男たちはさらに下卑た笑いを浮かべた。グイドの冷徹な声が落ちてくる。

「大人しくしやあがれ! これ以上痛え目にあいたくなかったら観念しろっつの。どう足掻あがいても、もうおめえは逃げられねえよ」
「…………」

 歯を食いしばり、薄く目を開いて見返すと、男たちはもうとっくに、てんでに下半身の衣服をくつろげていた。皆がにやにやと舌なめずりをして、晒されたフランのそこを見つめている。その目には明らかな嗜虐の光がともっていた。

「諦めな。俺らでじっくり、味見してやる。おとなしくしてりゃあ、ちゃあんと優しくしてやっからよ。怪我の治療だってしてやるし。イイ思いだって、さしてやろうってもんじゃねえか。なあ?」
「…………」
 フランは唇を噛みしめた。激痛と悔しさで涙があふれる。それ以外の、何ができるはずもなかった。
「ほれ、おめえだろが。さっさとしろや」
 グイドが言って顎をしゃくると、先ほどからずっと「俺が一番乗りしたい」としつこく言っていた男が、いそいそとフランの足の間にやって来た。
 すうっと血の気が引いていく。

「や……だ。やだああっ! お願い、許して。お願いいっ……!」

 やめて。
 許して。
 この子を許して──。

 必死で逃げようともがくが、それは直接てのひらの激痛に変換されるだけだった。しかも、それは結局腰を淫らに揺らすぐらいのことで、かえって相手を煽るだけのことでしかなかった。
 男が嬉しげにフランの足をいっそう開く。ぐいと持ち上げ、ガチガチになって先走りを滴らせているその先端をフランのそこに押しあてた。

「や、……やあっ……!」

 フランはガッと目を剥いた。

「いや……いやだああああああ────ッ!!」

 その途端。
 脳の中心が発光した。
 




 その日。
 宇宙調査船マレイアス号は、謎の爆発に見舞われた。
 船体の横腹に突然大穴があき、強靭な外殻の一部を吹き飛ばして大破させた。
 生存していた乗員二十七名のうち、死傷者は十数名。
 原因不明の大惨事であった。

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