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しおりを挟む「え、なに? これ……マジで???」
そのままボーイさんが案内してくれた部屋に一歩はいって、俺はしばらく停止していた。
頭の中は真っ白。だからこのセリフは、だいぶ頭が解凍されてからのもんだ。
だって普通、ホテルの部屋って言ったらさあ。せいぜいうちのリビングぐらいの広さを想像しねえ? 少なくとも俺はするね。なんならリビングぐらいでも「おっ、広えじゃん。ラッキー」ぐらいは思うね。
でも、ここはとんでもなかった。
なにしろ広さがハンパねえ。その上、部屋が一個じゃない。何個もある!
ここまでくると「ラッキー」どころじゃねえよ。「ビビる」一択だよ。
「ちょ、ちょちょ……ちょっと待てよ? 皇子」
「なんだ」
当の皇子はごくもの慣れた様子で上着を脱ぎ、クローゼットに掛けている。そのまま俺のも脱がせてくれた。ついついそっちはされるがままになりつつも、構わず皇子に噛みついちまった。
「なんだじゃねーでしょ! なんだよこの部屋! もっ、もしかしてアレ? スイートルームとかいうヤツ……?」
「まあ、そのような名前だったな」
「そのようなって……あのなあ!」
あとでこそっとボーイさんに訊いたら「ロイヤル・スイート」だってよ! 殴ったろかこいつ。さらに上のグレードじゃん! 王族が来たときとかに使うとこじゃん!
まあ、こいつは紛れもねえ皇族だけどさ。ただし異世界のだけど。こんな部屋、一泊いくらかかるんだよっ。
部屋の調度も、細かいところまで「いかにも」って感じ。ちょっと異世界の公爵家とか、皇居の雰囲気を思い出す。
あ、なんかちょっぴり懐かしくなっちゃったぞ。扉から「お嬢様~」ってエマちゃんがひょっこり入ってきそうな錯覚を起こしちゃうし。
ちょろっと見に行ったら、やっぱりどでかいベッドがでーんとお待ちかね状態だった。
(ああ、やっぱりね)
半眼になる俺。
でかいベッド自体はもうあっちの世界で見慣れてるけど──なんならあっちのほうが、天蓋つきだったり宝石まであしらわれてたりして豪華だったけど──その目的を考えないわけにいかないだけに、受けるショックが段違いだ。
やっぱりでかいソファセットの端で足を揃えて座ってたら、やっぱり皇子が変な顔をした。
「……どうしたんだ、健人。そんなすみっこで」
「あ、いや。すみっこが好きなんだ。あ、はははは……」
頭を掻く俺。皇子の目は、なんか可哀想な子ネコでも見るみてえだ。いや、もちろんそこまで可愛かねーけど。
「あまり緊張しないでくれ……と言っても、すぐには無理だな」
そりゃそうっしょ。でも、だからって素直にうなずくのも癪な気がする。俺は身を固くした。
皇子はちょっと沈黙したけど、すぐにまた笑みを浮かべ、備え付けの冷蔵庫から飲み物を出し、グラスと一緒にテーブルの上に置いた。
「先にバスルームを使ってもいいか? それとも、そなたが先に使うか」
「え、いやええと……お先に、ドーゾ」
「そうか。では行ってくる。ルームサービスは、好きにやってくれていいからな」
皇子はにこりと笑うと、やっぱり物怖じしない足取りでさっさと浴室に消えていった。
飲み物は、やっぱりノンアルコールだった。オレンジジュースやウーロン茶。俺はちょっと考えてからウーロン茶の方をグラスに注いで、しばらくぐびぐび飲んでいた。
ああ。こんなとき、大人だったら酒でも飲んで勢いとかつけられるんだろうになあ。十八かそこらでこんな部屋がとれること自体がイレギュラーなのは分かってるけど、早く本物の「大人」になりたいもんだよ。
とかなんとか、うだうだ考えてる暇もなかった。
皇子はあっというまに風呂から上がってきて「どうぞ」と笑った。
(ひょえええ……)
備え付けのバスローブ姿なだけなのに、髪が濡れていやに色っぽい。目の毒ってこれだ。心臓がばっくんばっくん、また一段とやかましくなる。
バスルームの前室に入ったら、全身映るでかい鏡がどーんとあった。つい、あらためて自分の姿をつくづくと見てしまう。
(……いや。ほんっっと、フツメンな……)
うん。べつに確認するまでもないわな。
異世界での、あの美少女の面影なんてこれっぽっちも残ってない、ただの田舎のフツー顔した高校生。
皇子、ほんとにこんなんでいいんだろうか。
結果的に「ヤるんじゃなかった」とか思われたらどうしよう。なんかそんなの、もう一生立ち直れねえって気がするのに。どうしたらいいんだよ。
緊張しすぎて、風呂に入っててもなんかまったく落ち着かない。でかすぎるバスルームにでかすぎるバスタブ。どれもこれも初体験なんだけど、それを味わってる余裕なんてまったくない。
でも、一応ちゃんと全身確認して、くまなく洗っておく。
し、尻……はどうしたらいいんだろ。
そこまでの知識はねえべ、さすがに。
てか、これってつまり俺がされる側ってことになるんだろうか。
ううう、わかんねえ。
もう泣きそう。
いや、別にね?
これから絶対、ヤルって決まったもんでもないんだけどね……?
でもほら、一応、一応ね……??
って誰に言い訳してんだよ俺! ああもうっ!
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