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第九章 初夜
3 呼び名 ※
しおりを挟む「あ、……んあ、あっ……はり、どの……」
慣れない感覚で、ひどくくすぐったい。それに、少し気持ちが悪かった。ユーリは言われた通りに玻璃の肩にすがりついて唇を噛み、その違和感にしばらく耐えた。
だが、あるのは単なる不快感だけではなかった。玻璃の指が自分のその場所をさぐるたび、ぞくり、ぞくりと何かが背筋を駆けあがってくる。
玻璃はユーリをあやすように、時おり口づけを施してくれている。
やがて玻璃の指の一本がぬるりと自分の中に突きこまれて来た。
「んあっ……!?」
思わずびくんと腰を引いてしまう。
玻璃の指は決して性急にはならなかった。飽くまでもゆっくりとその場所を慣らし、液体を塗りこんで柔らかくしてくれている。
「……そろそろ、よろしいか」
「え? あ……」
あの不思議な物のことを言っているのだろう。ユーリがちょっと逡巡してから頷いて見せると、玻璃は幼い子を宥めるようにしてまた口づけをくれた。
やがてそれが、そっと中に押し込まれてくるのが分かった。
「ふああ……あ」
最初から温められているらしく、冷たいなどの違和感はほとんどなかった。ただ、器具は玻璃の指よりずっと太い。そのぶん、やっぱり圧迫感がある。
ぐぬぬ、と奥へ進められてくると、内臓を押しやられているような奇妙な違和感がどうしても膨らんだ。
「や、……あ、はり、どの……」
少し怖くなって泣きそうな顔で見上げたら、玻璃はまた額に優しいキスをくれた。
「すぐに済む。女とは使う場所が違うゆえ、先に中を綺麗にしておかねばならぬのだ。要らぬ疾病などを招かぬためでもある。どうかご理解されたい」
「う……。は、はい……」
と、中に入ったものが微妙に振動し始めた。
「あっ……あ、あ」
それがとある場所に当たると、突然びりっと脳内に電撃が走った。その衝撃が、そのまま股間のものを直撃している。
「や……やんっ! はり、どのおっ……!」
必死で玻璃の肩に抱きつき、半分泣き声みたいになった声をあげる。
「いい子だ。すぐ済む」
「ふあ……あああっ」
器具はそのまま、ユーリの内部を綺麗に洗浄した上、余分なものを吸い取っていったようだった。
ようやくそれが抜き去られたとき、ユーリの息はすっかり上がってしまっていた。片腕をだらりと玻璃の首に掛け、ほとんど自分の足で立っていられない状態である。
玻璃は薄く笑ってまたユーリを抱き上げると、部屋の四方から吹き出す温風で体を乾かし、すぐに脱衣所に戻った。
棚に置かれた籠からは、先ほど脱ぎ捨てていた二人の装束は消え去っていた。代わりに夜着らしい袷の白い衣が畳んで準備されている。もちろん、先ほどの女官や侍従たちの仕事だろう。至れり尽くせりとはこのことだ。
玻璃はやっぱり慣れた手つきでユーリにそれを着せ、自分も身に着けて外へ出た。平伏している湯殿付きの者たちの間を抜けて寝室に向かう。ユーリは半分のぼせたような状態で、もうされるがままになっていた。
すっかり起き上がってしまっている自分の中心が恨めしい。玻璃のそれは、少し起き上がってはいるものの、まだユーリのそれほどではないようだった。
◆
二人のために用意されていた寝室には、やっぱりアルネリオ式の天蓋つきの寝台が据えられていた。あの時と同様、これもユーリのためなのだろう。ただし天蓋から下がる布地や飾り紐そのほかは、滄海式の豪奢なものになっている。
灯りはほんのりと薄暗い程度に落とされ、周囲はとても静かだった。部屋には木香によく似たよい香りがただよっている。
玻璃は上掛けをはいでそこへユーリを寝かせると、一度上から覆いかぶさり、じっと顔を見つめるようにしてきた。
「なんだか信じられぬな。我が邸の寝室に、そなたがこうしているなどと」
「本当に。私も、そう思います」
玻璃の声があんまりしみじみしていたからか、ユーリも思わず苦笑した。大きな手がおりてきて、ユーリの髪から頬をさらりと撫でる。
「……まことに、後悔はなさっていないか。斯様な遠隔の地に、おひとりで輿入れなさって」
「いいえ」
「お寂しかったら、すぐに申されよ。お父上から、お国のだれぞを寄越してもらうゆえ。細かい困りごとでもなんでも、すぐに俺に相談するのだぞ。無理に我慢などはなさるなよ」
「はい。ありがとうございます」
言ってユーリは、自分も玻璃のこぼれた銀色の髪に手をやった。
「……でも。ひとつお願いがあるのですが」
「ん? 早速なにかあるか。何なりと申されよ」
「それ。それです」
「んん?」
玻璃がちょっと変な顔になる。
「大変有難いことなのですが。あなた様はいつまでも私を『ユーリ殿、ユーリ殿』と……。どうかもう、自分のことはお呼び捨てくださいませ。私はもう、あなた様の『配殿下』ではありませんか。お言葉も、いつまでもそんなご丁寧でいらっしゃらずとも」
言ったら玻璃がくすっと笑った。その手のひらがまた、優しくユーリの頬を撫でる。さも可愛くてたまらないと言うように。
「それは当然ではないだろうか? そなたは一応、他国の王子殿下なのだから。実際貴人であられるのだし、俺にとっては文字通り、この世に唯一無二のお方なのだし」
「いえ、あのう……」
あんまり言われると、また耳が燃えるように熱くなってきて困る。
「それに、それを言うならそなたも同様ではないか。ずっと『玻璃殿、玻璃殿』と。まあ、お可愛らしくて俺は好きだが」
「……そ、それは」
でもなんとなく、この人を呼び捨てにはできない気がする。最初のころからずっと敬語も使い続けてきているし、いまさらこの人を相手にぞんざいな口調にはなれない気がした。
「わっ、私はいいのですっ!」
「なかなか矛盾でいっぱいだな」
玻璃は楽しげにまぜっかえす。が、ユーリは負けなかった。
「矛盾でもなんでも結構です。あなたには『ユーリ』と呼んで欲しい。……弟君になさるように」
「……瑠璃の、ようにと?」
玻璃が一瞬だけ、奇妙な表情になったようだった。
ユーリは恐るおそる彼の顔を覗き込んだ。
「はい。……ダメですか」
玻璃は「なんの」とまた笑った。
「無論、ダメなどではないさ」
「では──」
「そなたの立っての望みである。果たさぬ理由があろうものかよ」
そうして、ちゅ、と軽い音を立て、ユーリの吐息を吸い取った。
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