ルサルカ・プリンツ~人魚皇子は陸(おか)の王子に恋をする~

るなかふぇ

文字の大きさ
135 / 195
第二章 囚われの王子

14 双子

しおりを挟む
 ぎらぎら光る星の海を背景に、紐でつながれたふたりの影だけが動いていく。
 船は船体を薄くスライスしたように何層にも分かれていた。そのどれもがあまりにも広大なスペースなので、ワイヤーで引かれているだけではどこをどう歩いているのかもわからない。
 そもそもユーリは、けっこう方向音痴なのだ。アルネリオにいた時だって、ロマンからしょっちゅう「殿下、そちらの道ではございません」とかなんとかと行く手を修正されていた。

(ロマン……。元気かな)

 いや、元気なはずはなかった。利発で責任感の強いあの少年のことだ。今回のことでは、さぞやひどい後悔の念に苛まれていることだろう。次兄のイラリオンが彼を責めずにいてくれているのは幸いだったが、それでも食事も喉を通らず、眠れないでいるに違いない。
 いつもは気丈な少年なのに、自分と別れる時はあんなにも号泣してくれていた。そばにいる黒鳶が、うまくなだめて食事を摂らせ、眠らせてやってくれていればいいのだけれど。

 そのロマンにはじまって、残して来たたくさんの人の顔を思い浮かべながらついていくうちに、やがて男は、比較的こぢんまりとした部屋へやってきた。中に入ると、自動的に壁や天井が光りはじめて明るくなる。ここではそれが照明になるらしい。
 銀色や白色が多いほかの場所とは違い、この部屋の壁は爽やかな薄い緑色ズィリョーヌイに塗られている。生活スペースであることはひと目でわかった。楕円形のテーブルの前に、座り心地のよさそうなソファや椅子などがいくつも設置されている。
 ずいぶん長いことほったらかしだったのだろう。生活空間であるはずのそこは、なんとなく全体に埃っぽくて、かび臭い気がした。

 部屋の隅には、長方形の鉢のようなものがある。形状からして、以前は植物が植えられていたのだろう。壁にははめ込み式の水槽らしいものまであった。かつてはここに魚を泳がせていたのだろうか。今ではどれも空っぽで、ぽっかりとした空洞を晒している様が不気味に映った。
 ユーリがあれこれ観察するためにきょろきょろしていたら、男はまた無情にワイヤーをぐいと引いて、部屋の隅へ連れて行った。
 男が壁のあたりでまた何かのパネルを操作すると、空中に四角い画面が浮き出て来た。さすがのユーリもすっかり見慣れた光景なので、もはや驚くことはない。

 男はそのまま無造作にソファのひとつに腰を下ろした。もちろんワイヤーから手は離さない。ユーリは仕方なく、そのそばにたたずんだ。
 画面はしばらく白色に光っていたが、やがてその中に二人の子供の姿が映し出された。

(わあ。可愛い……)

 状況を忘れて、思わずユーリは見とれてしまった。
 よく似た小さな少年がふたり。せいぜい三、四歳ぐらいだろうか。まるで双子のように見える。ひとりは銀色の髪と薄青の瞳。もうひとりは蜂蜜のような甘い金色の髪に、春の若葉のような美しい緑の瞳をもっていた。
 ふたりは今ユーリが着ているのと同じような生成り色の前袷の衣服を着ている。彼らのは随分小さくて短いもので、代わりに下穿きのようなものを穿いていた。
 ふたりは非常に仲睦まじく見えた。にこにこ笑って、小さな手をお互いの体に回してくすぐったり、抱きついたりといったじゃれあいを繰り返している。つやつやとした薔薇色の頬。いかにも健康で、幸せそうに見えた。

 が、ユーリはある瞬間にハッと気づいた。銀色の髪をした少年が、隣にいる恐るべき存在とひどく似た姿であることに。両者の雰囲気があまりにもかけ離れているために、今までまったく思いもつかなかったのだ。

(え……。でも、まさか──)

 恐るおそる傍らを見ると、氷のような二つの光がひたとユーリを射抜いていた。

「あ……の。これ……」
「当然、俺だ。もう一人は俺の弟」
「お、弟……ぎみ?」
「まあ、どっちが兄でどっちが弟かはわからんが。お前らの言葉で言うなら、双子だからな」

──双子。

 なるほど、そう言われればこのふたりはとてもよく似ている。髪と目の色は違うけれど、顔立ちはそっくりだ。ただし、金髪の少年のほうがやや雰囲気が優しいような気がする。そちらの少年は少し目尻の下がった容姿で、微笑む顔がとても可愛らしかった。
 男は画面に目を戻した。じっと目を細めて、映像の中の二人を見つめる。
 少年たちは、子供に特有の澄んだ甲高い声できゃあきゃあ言いながら、鉢植えの植物に水をやったり、水槽の魚たちに餌をやったりしているようだ。

(え、ここって──)

 そう、それはまさしくこの部屋だった。
 この映像は、ここで起こった過去の出来事なのだ。

「……この頃がいちばん、平和だった」
「…………」

 ユーリは絶句して、男の鋭い横顔を凝視した。
 それに気づいていないわけはないだろうに、男はこちらに一瞥もくれないで、何とも形容のしにくい色を湛えた瞳でじっと映像を見つめていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

処理中です...