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第四章 宇宙のゆりかご
14 瑠璃参上
しおりを挟む「ですから。この際、瑠璃殿下にお出まし頂くのがよろしいかと」
例によって右大臣・濡羽がおなじことを繰り返している。右大臣側の面々は「うむうむ」と頷く様子。しかし藍鼠や青鈍ら左大臣側には渋面をつくる者が多い。
「今は陛下に毎回お出ましを願うことになっておりまするが。陛下のご健康を損なっては一大事にございませぬか。ここはやはり、瑠璃殿下に皇太子代理としてお働きいただくのが最善かと」
「とは申せ。殿下ご自身のご意向というものがあろう」
藍鼠がやんわりとひと言いうだけで、左大臣派が次々に発言し始めた。
「左様、左様。瑠璃殿下はあれ以来、ずっと離宮にお籠りぞ」
「そもそも、誰がご説得に向かうのだ? 門前払いなさるが落ちぞ」
「あの御方は、陛下と玻璃殿下以外のかたの言葉などお耳に入れてはくださりますまい」
「そうじゃ、そうじゃ」
この件に関しては、群青陛下はずっと「すべて瑠璃の意向のとおりに」とおっしゃるのみだ。ご自身のお体がおつらくとも、皇子が望まぬとあらばこのままご自分が御前会議に臨むとおっしゃっている。
しかし医務局長官や医務官らは否定的な意見だった。陛下は非常なご長寿だが、けっしてもはや若い頃の活気はお持ちではない。仁徳と人望は大変なものだけれども、あの玻璃殿下のような閃くような活力と実行力は望むべくもないのだった。
だが、だからといってあの瑠璃皇子を引っ張り出せば、ろくなことにならないのも目に見えている。
ずっと以前からこの濡羽たちは、あの少し感情に流されやすい若い皇子を自分たちの張子の虎にしようと画策してきた。
瑠璃殿下ご自身は、さほど濡羽たちに親身なお気持ちはなさそうだった。だがあの美貌をほめそやされ、「我らはあなた様のお力を高く評価しておりまする」「次代の海皇こそあなた様」などと期待の言葉と並べられ、阿られれば、どう転ぶかはわかったものではない。
玻璃皇子なら、左様な詐術には騙されないであろうけれども、瑠璃皇子はまだお若すぎるのだ。ご性格も至って幼く、感情的になりやすすぎる。母君に瓜二つということで、陛下が溺愛なさり、あまり厳しく教育をなされなかったことも一因としてはある……と、藍鼠は思っている。
間違ってもそのような者に、政治の実権を握らせるわけにはいかなかった。
ほかの議題もさまざまにある中で、この話だけは少しも前に進まない。左大臣派の強硬な反対にあい、濡羽もそろそろジリジリしてきている様子がうかがえた。
「一体、なにがさほどに問題だとおっしゃるのです。瑠璃殿下とて、素晴らしき皇子殿下。確かに玻璃殿下はまこと驚天動地の才をお持ちではおられまするが、決して見劣りなどしませぬものを」
「…………」
細い目でじろりと睨まれてそう問われれば、左大臣派の面々は返す言葉に窮した。畏れ多くも皇族の皇子をつかまえて「あそこが悪い」「あそこが未熟だ」とつけつけと申し上げられる者はここには居ない。それを分かっていてのこの言い分なのだ。
白熱する議論のなかで、そうでなくても汗かきの濡羽は額から汗を吹きださせながらも熱弁した。
「我らが納得のいく理由を教えていただきたいものですなあ。のう? 藍鼠どの。青鈍どの? 瑠璃殿下のご才覚の、どこに瑕疵などございましょうや」
「ありすぎるほどある。……まこと羞恥の至りだがな」
「えっ」
突然、座がぴいんと張りつめた静寂に包まれた。
皆の視線が、応えのあったほうへ集中する。
長くうねる紺の髪。白くみやびやかな顔と艶やかな立ち姿。
「ひょえっ? ……あ、あなた様は」
濡羽の頬肉が、いつも以上にぶるんと揺れた。
声の主は音もなくするすると前進すると、皆の前を素通りしてまっすぐに御簾の前へ向かった。皇子の着る束帯姿の袍は青、文様は雲鶴だ。
そこですっと膝をつき、己が父に向かって拝礼する。
「父上。長らく不義理を致しまして、まことに申し訳もなきことにございました。どうかお許しくださりませ。瑠璃、参上いたしました」
第二皇子、瑠璃だった。
一同は息を呑み、この凄艶なまでの美貌の皇子を、食い入るようにじっと見つめた。
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