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第十六章 恐慌
18 誓い ※
しおりを挟む「はっ……あ、ああ……ん」
シディはせり上がってくる欲望の渦を抑えこむのに苦労している。さっきから、ずっとだ。
上半身は袷になっている夜着の前をすこしはだけさせただけで、ほとんど着衣のまま。下半身は綺麗に剥かれ、大きく両足を広げさせられた状態。その間にある、欲望を素直に硬度と熱で示してしまっているモノを、信じがたいことに今インテス様が舌で丁寧に愛撫してくださっている。
ぐぽ、じゅぽっといやらしい音が股間から聞こえてくるのと同時に、裏筋のイイ場所を舌先や唇で刺激され、指でその下の柔らかい場所を撫でられて腰が跳ねてしまう。
「あはっ……や、ああ……っ」
何度も何度もやってくる波を、一体何度がまんしたことか。シディは蕩け切っているであろう顔を天井に向けて、情けない声を上げているばかりだ。
「や、です……っ。お、オレが」
「ぼ・く」
「ううっ……」
どうやらこの人はこの行為の間じゅう、自分にその一人称を使わせたいようだった。
「はうっ! ぼ、ぼくっ。ぼく、が、します、からああっ……!」
「そうかい? ではお願いしようかな」
「はいっ……」
やっとその場所を解放してもらえるものと思ったのに、インテス様は寝台にあがり、シディのそこを舐めながら自分のそれをシディの口許へ近づけただけだった。
「よかったらこの体勢で頑張ってみようか。苦しかったら言うのだよ」
「えっ……。は、はい……」
目の前にあるインテス様ご自身をそうっと両手に包む。それはとっくに大きく固くなっていて、口に咥えるだけで精一杯のように思われた。
もちろん、この行為だってはじめてではない。あの仕事をさせられて、性技のさまざまな種類については叩きこまれている。でも、この行為にあまり慣れた様子を見せるのは気が引けた。
怖くはない。
あの仕事をしていたときのように、胸の中が丸々空洞になったような虚しさも。
むしろ嬉しい。
だって、相手はこのインテス様だ。自分が大好きな、そして自分を大好きでいてくださる大事な人だ。
シディは恐る恐るそれを握ると、まず先端をちろりと舐めた。
男のものの、どこをどう刺激すれば気持ちよくなってもらえるかはよく分かっている。最初のうちこそ遠慮がちだったシディの舌と唇は、次第に大胆になっていった。
大きく口を開けて喉奥まで使って誘い込み、頬裏と舌も全部使ってしっかり締め、わざと音を立てて吸い上げ、刺激してさしあげる。
「んっ……」
インテスさまが低く声を出されたのが聞こえた。甘い吐息だ。
その吐息が耳に届いただけで、ずうん、とシディの腰が刺激された。
「……上手だね、シディ」
「んむ……っ。い、いいえ」
しまった。
あまり上手なのはきっとダメなんだと思う。自分がどんな来歴の者かをこの人に、この行為の最中に思い出してほしくない。
と、ぬぷりとインテス様の指が自分の後ろを広げにかかったのを感じた。
「んあうっ……!」
びくっとなって、インテス様のものから口が外れてしまう。
丁寧に入り口を濡らしながら、長い指が奥へと進められてくる。その先があの場所をすっとかすめただけで、シディの腰はまた跳ねた。
「はあ……っ!」
「ここが好きなんだよね、シディ」
「はあ……あっ、あ、あっ……」
つんつん、と軽い刺激を繰り返されて短く喘ぐ。
今度はぐにゅり、と柔らかい肉が入口に差し入れられてきた。
「あうんっ! い、インテスさま……っ?」
この感触は。まさか!
慌てて下を見たら、やっぱりインテス様はシディのそこをじっくり舐めていらっしゃった。
「あ、あ……ら、めえっ。そんな、こと……っ」
「いいんだ。私がそうしたいんだから」
「ああ、ああっ」
「それよりシディ、そなたは私のをもうちょっと可愛がっておくれ」
「んううっ……」
羞恥と快感でどうにかなりそうになりつつ、あらためてまたインテス様のそれを咥え、愛撫することに専念しようとした。
だがうまくいかない。突きこまれている指と、入口を愛撫しているインテス様の舌の感覚があまりにも鮮烈で、それ以外のことが考えられない。
「あひっ、ひい……っ、や、いやあっ……」
まちがってインテス様のものに歯を立ててしまいそうで、怖くてもう咥えていられなくなった。
(だけど……)
口より、そこで感じたい。
これはやっぱり、自分のそこに頂きたい──
「やあっ、あんっ……や、いんてす、さまあっ」
「んん?」
「く、くださっ……そこ、もう……っ」
呼吸が乱れすぎていて、うまく言葉を紡げない。
インテス様があらぬ場所でくすっと笑った。
「じゃあ、ちゃんと言ってごらん。『だれ』の『どこ』に、『なに』が欲しいのか」
「はっ……あ、あう、ああんっ」
すぐまた刺激が始まって頭が朦朧とする。
こんな状態で、ちゃんとものを考えられるわけがない。言われたとおりにしゃべれるわけも。
しかしもちろん、しまいにはちゃんと全部言わされることになった。
しかもしっかり、一人称を「ぼく」に直された上で。
望みが満たされて、ようやくインテス様は体位を変え、シディの望みを果たしてくださった。
待ちわびたものが自分を愛するために挿入されてくるのを、シディは全身の細胞という細胞で味わった。
「あ、あ……ああああ……!」
「ああ……いいね。ぴったりと吸い付いてる──」
インテス様は少し身を起こすと、シディの腹の上をそっと指先でなぞった。
「ここから……ここまで。私のものが入って。全部がそなたにぴったりと……」
その吐息も甘くて熱い。ぼんやり見上げたら、インテス様がふと悲しげな顔で微笑んでいらっしゃった。
「ありがとう、シディ。……そなたに会えて、私は幸せだよ」
「い、いんてす……さま」
「私の半身。この世で唯一の……私の愛する者よ」
「…………」
気がついたら、両の目尻からぼろぼろと熱いものが溢れてこぼれだしていた。
インテス様はにっこり笑うと、丁寧にそれを両方とも口づけで吸い取ってくださった。
「愛してるよ……シディ。どうかこれからもずっと、私のそばにいておくれ」
「インテスさま……っ」
そのままぎゅっと、髪のひとすじも間に入れないほどにぎゅっと、お互いに抱きしめ合った。
愛してる。
この人を、愛してる。
これからもずっとずっと、
ぼくはこの人のそばにいるんだ──。
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